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第19話

 男に金を貸していた者のうち、話を聞けたのは数人だった。


 店を畳んだ者もいれば、昔の帳簿など残していないという者もいた。

 ヨストがようやく見せてもらえた一冊には、遅れた支払いを重ねた頁の終わりに、残額をまとめて受け取ったと記されていた。


 事件の直前だった。


「本人が払ったのではありません」


 貸主は言った。


「両替商を通して、金が来ました。元の証文を渡して、これで終わりです」


「急に全額戻ってきて、不思議には思わなかったか」


 ヴァンフリートが尋ねると、男は帳面から顔を上げた。


「返ってこない理由なら、幾つも考えました。返ってきた理由までは」


「取り立てる時にも、そのくらい想像力を休ませてくれればな」


「私は、貸したものを返してもらっただけです」


「今は、その返した人間を聞いてる」


 両替商の側には、支払いを取り次いだ記録があった。


 王宮の修繕を請け負う商会から預かった金だった。

 ただし、それだけで殺害の報酬だと書かれているわけではない。

 古い商取引の清算として扱われ、兵士の名は、支払先の一つに添えられていた。


 一方、妻に教えられた療養先では、子供の費用がまとまって前払いされていた。


 こちらは、部屋の取りまとめをしていた者への支払いを経ていた。

 受取りの控えを辿ると、やはり同じ商会の金に行き着いた。


 アエミリアは、療養先の狭い受付で、その記録を見た。


 廊下の向こうから湯を運ぶ女が来て、閉まりかけた扉へ足を添えた。

 中の人に声を掛けながら盆を差し入れると、寝台の端だけが見えた。

 窓から入る光の中に、掛布を握る手があった。


「支払いが済んでいれば、父親が来なくなっても、治療は続けられたのですね」


「ええ」


 帳簿を持ってきた女は答えた。


「そのために預かるお金ですから」


 言い方には、特別な意味はなかった。


 アエミリアは書き終えても、すぐには筆を収めなかった。


 夫の借金がなくなり、子供の治療費が入り、妻には当座の生活を支える金が渡っていた。

 それぞれ別の場所に残った日付が、王太子の殺された晩の手前へ集まっていた。


 帰りの馬車で、彼女は三枚の写しを膝に並べた。


「本人が受け取って、使ったお金ではないのですね」


「手元へ渡せば、また賭場へ持っていくかもしれないからな」


 ヴァンフリートが言った。


「払う側にも、その方が確かだった」


 アエミリアは、借金を消した日付と、子供の費用を受け取った日付を見比べた。


 車窓の外では、畑の雪が暮れかけていた。道の低いところへ馬車が入ると、屋根の向こうに見えていた王都が、一度隠れた。




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