第17話
王太子を殺した男の記録は、法院に残っていた。
ヨストは、エスネエーレの記録訂正に関わる部分の閲覧を申し入れ、許された範囲を三人で確かめた。
捕らえられた場所は、王太子宮の内側だった。
逃げようとした男を取り押さえた衛兵の証言があり、殺害そのものについての本人の供述もあった。塔の外から地下へ入り、古道を通ったことを、男は認めていた。
その道を抜けた先の扉については、開いていた、と答えている。
アエミリアは、その短い返事の脇へ指を置いた。
「修繕していたことは、書かれていません」
「男が錠を外したわけじゃないからな」
ヴァンフリートは続きを読んだ。
なぜ王太子を殺したのかという問いには、勤めを奪われた恨みが記されていた。
元の王国兵で、王宮の警備にも就いていた男だった。
酒と賭博に身を持ち崩し、備蓄品を不正に持ち出したため免職された。
その処分を認めたのが、ジークムントだった。
「王太子殿下が、この人を辞めさせたのですか」
アエミリアが尋ねた。
「処分を認めたのは、そうだ」
ヨストは別の写しを出した。
「だが、不正を調べて処分案を作ったのは、ローベルの部下たちだ。王太子へ上げられた時には、ほかの案件と一緒になっていた」
同じ書面に、何人もの名が並んでいた。
免職となった者だけではなかった。減俸で済んだ者も、持ち場を替えられた者もいる。備品や給与の扱いを改める中で、まとめて処理されたものだった。
「この男だけを狙った処分ではなかった」
ヨストが言った。
「証拠になった品数の不足も、売った先の話も残っている。辞めさせる理由は本当にあった」
アエミリアは、殺害の記録へ目を戻した。
そこでは、長い経緯が、王太子に職を奪われた、という一言になっていた。
「本人は、ほかの誰の責任だと思っていたのでしょう」
「少なくとも、自分の名前は候補から外したらしい」
ヴァンフリートが言った。
ヨストは、勤務の記録をさらに遡った。
酒の上で同僚を殴ったことも、持ち場へ遅れたことも、後の方に固まっていた。
それ以前には、長く勤めた者へのありふれた評がある。
読み書きができ、交替の引継ぎも任せられた。
夜の王宮を知り、どの廊下がどこへ続くか、人に尋ねず歩ける男だった。
最初に備蓄品の不足が出た頃、男には病気の子供がいた。
そのことは、処分を軽くしてほしいと願った書面にだけ、詳しく書かれていた。
アエミリアが読み終えるのを待って、ヨストは言った。
「家族へ、話を聞いてよいか尋ねてある」
「今も王都に?」
「少し離れた所にいる。返事が来れば、会いに行こう」
ヴァンフリートは、免職を願い下げてほしいという紙を、殺害の供述とは重ねずに置いた。




