第12話
ラディスラフが閲覧室へ来たのは、その二日後だった。
オルデンブルク大公家から届いた返事には、私信の確認に応じるとあった。保管係は、前もって指定された原本を卓へ並べ、入口で来訪者を待った。
「大公殿下」
その呼び掛けに、アエミリアも椅子を離れた。
ラディスラフは外套を従者へ預け、こちらへ歩いてきた。窓の明かりに入ると、口元と目尻に浅い線が見えた。
卓に並んだ紙へ目を落としてから、二人へ挨拶をした。
アエミリアは名乗り、ヴァンフリートの脇へ座り直した。
彼が読むところを見ないように、手元の用紙へ日付を書いた。それでも紙の動く音がするたび、顔が上がった。
ラディスラフは、手紙を一枚ずつ手に取っていた。古い封筒の宛名に指を添えた後、いちばん新しいものを開いた。
紅茶の話のある手紙だった。
読み終えるまで、誰も話さなかった。
「それは、お前が書いたものか」
ヴァンフリートが尋ねた。
「ああ」
ラディスラフは答え、ほかの二通へも目をやった。
「ここにあるものは、どれも私が書いた」
アエミリアは筆を動かした。
「ジークムントが殺された夜、エスネエーレのところへ使者を送ったか」
ラディスラフの目が、手紙からヴァンフリートへ上がった。
「送っていない」
「兄を殺すように、あるいは古道の扉を開けるように、誰かへ命じたか」
「どちらも、命じていない」
窓の向こうを、空の荷車が通った。車輪が石の継ぎ目を越える音が遠ざかってから、ヴァンフリートは用紙を彼の方へ向けた。
「今の答えだ。違うところがあれば直せ」
ラディスラフは読み、末尾へ署名した。
手紙にあるものより、字は少し小さくなっていた。最後の線を持ち上げるところは、変わらなかった。
「彼女に会ったのか」
「依頼人だからな。会わないで依頼する様な厄介な奴は死人しかいない」
「元気だったか」
「その質問に答えるほど、俺は親切じゃない。知りたいなら本人に聞け」
「聞けるなら、十年も待っていない」
「俺へ言うな。待つのが好きな男の面倒まで契約に入ってない」
ヴァンフリートは手紙を箱へ戻した。
署名を終えた後も、彼の前には、まだ開いた手紙があった。保管係が戻ってくると、ラディスラフは自分で封筒へ収めようとした。
古い紙は、元の折り目どおりにはすぐ畳めなかった。
「そのままで結構でございます」
保管係が手を差し出した。
ラディスラフは、一度その手を見てから、紙を渡した。
外へ出ると、石段の隅に残る雪が灰色になっていた。アエミリアは用紙を鞄の内側へ入れ、留め具が掛かったか、手袋の上から確かめた。
「ご自身のお手紙でも、持ち帰ることはできないのですね」
「今は押収品だ。十年前から、ずっとな」
ヴァンフリートは、手紙の箱がある建物を一度見上げた。
「読むより、返す方が手間の掛かる国だ」




