↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
153/195

第12話

 ラディスラフが閲覧室へ来たのは、その二日後だった。


 オルデンブルク大公家から届いた返事には、私信の確認に応じるとあった。保管係は、前もって指定された原本を卓へ並べ、入口で来訪者を待った。


「大公殿下」


 その呼び掛けに、アエミリアも椅子を離れた。


 ラディスラフは外套を従者へ預け、こちらへ歩いてきた。窓の明かりに入ると、口元と目尻に浅い線が見えた。

 卓に並んだ紙へ目を落としてから、二人へ挨拶をした。


 アエミリアは名乗り、ヴァンフリートの脇へ座り直した。


 彼が読むところを見ないように、手元の用紙へ日付を書いた。それでも紙の動く音がするたび、顔が上がった。


 ラディスラフは、手紙を一枚ずつ手に取っていた。古い封筒の宛名に指を添えた後、いちばん新しいものを開いた。


 紅茶の話のある手紙だった。


 読み終えるまで、誰も話さなかった。


「それは、お前が書いたものか」


 ヴァンフリートが尋ねた。


「ああ」


 ラディスラフは答え、ほかの二通へも目をやった。


「ここにあるものは、どれも私が書いた」


 アエミリアは筆を動かした。


「ジークムントが殺された夜、エスネエーレのところへ使者を送ったか」


 ラディスラフの目が、手紙からヴァンフリートへ上がった。


「送っていない」


「兄を殺すように、あるいは古道の扉を開けるように、誰かへ命じたか」


「どちらも、命じていない」


 窓の向こうを、空の荷車が通った。車輪が石の継ぎ目を越える音が遠ざかってから、ヴァンフリートは用紙を彼の方へ向けた。


「今の答えだ。違うところがあれば直せ」


 ラディスラフは読み、末尾へ署名した。


 手紙にあるものより、字は少し小さくなっていた。最後の線を持ち上げるところは、変わらなかった。


「彼女に会ったのか」


「依頼人だからな。会わないで依頼する様な厄介な奴は死人しかいない」


「元気だったか」


「その質問に答えるほど、俺は親切じゃない。知りたいなら本人に聞け」


「聞けるなら、十年も待っていない」


「俺へ言うな。待つのが好きな男の面倒まで契約に入ってない」


 ヴァンフリートは手紙を箱へ戻した。


 署名を終えた後も、彼の前には、まだ開いた手紙があった。保管係が戻ってくると、ラディスラフは自分で封筒へ収めようとした。


 古い紙は、元の折り目どおりにはすぐ畳めなかった。


「そのままで結構でございます」


 保管係が手を差し出した。


 ラディスラフは、一度その手を見てから、紙を渡した。


 外へ出ると、石段の隅に残る雪が灰色になっていた。アエミリアは用紙を鞄の内側へ入れ、留め具が掛かったか、手袋の上から確かめた。


「ご自身のお手紙でも、持ち帰ることはできないのですね」


「今は押収品だ。十年前から、ずっとな」


 ヴァンフリートは、手紙の箱がある建物を一度見上げた。


「読むより、返す方が手間の掛かる国だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。