第15話
深紅の衣装は、法院の封を付けた箱に入って戻ってきた。
夜会から半月ほど経った朝である。
窓を開けると、春の光が部屋の奥まで差し込み、箱の蓋に積もった薄い埃を浮かび上がらせた。アエミリアが封を切ると、畳まれていた深紅が、眠りから覚めるようにゆっくり広がった。
燭火の下で見た時ほど、赤は強くなかった。
黒い影を抱く布は朝の光の中で静まり、どこか冷たく見えた。肩も腰もリーナの身体に合わせて仕立てられている。それはアエミリアのために選ばれた布でありながら、初めから一度も、アエミリアの衣装ではなかった。
宝飾の小箱も一緒に返されていた。
リーナからの手紙はなかった。
アエミリアも、求めてはいなかった。
法院で自分の言葉については謝った。リーナは返事をせず、アエミリアも許しを迫らなかった。傷つけた側が謝罪をしたからといって、相手に美しい結末まで差し出させる権利はない。
「お直しになりますか」
侍女が尋ねた。
アエミリアは衣装へ手を伸ばした。
指先で触れれば、布は昔と変わらず滑らかだった。選んだ日のことも覚えている。これを着てハルデンブルク伯爵邸の階段を下りれば、二つの家の色が一つになると思っていた。
だが、その階段も、その家も、もう自分の未来ではなかった。
「いいえ」
アエミリアは布から手を離した。
「売ってください」
「よろしいのですか。仕立て直せば、別の夜会にも――」
「着るたびに、誰の寸法だったか思い出します」
衣装を憎んでいるわけではない。
しかし取り戻したからといって、花嫁衣装へ戻るものでもなかった。
「宝飾も一緒に売ってください。代金は返還される持参金へ加えます」
侍女は一礼し、箱を閉じた。
深紅は細くなり、やがて蓋の下へ消えた。
リーナと友人になることもなく、互いに涙を流して抱き合うこともなかった。
アエミリアは自分の言葉の責任を負い、リーナは知りながら衣装を着たことと、言われていない脅しを足した責任を負った。
それで十分だった。




