第5話
翌朝、ヴァンフリートは法院へ、見習いを辞める旨を書いた紙を持っていった。
ヨストはそれを読んだ後、紙を机へ伏せた。
「お父上は」
「反対した」
「だろうな」
部屋の隅には、私的に集めた覚え書きが積まれていた。公用の綴りとは離され、貸してもらったものと、自分たちで写したものが分けてある。
「それは捨てるな」
ヴァンフリートが言った。
「ああ」
「俺の書いたものもだ」
「残す」
ヨストは、束の中から一枚を抜いた。
エスネエーレに見せた覚え書きだった。
ラディスラフを助けるためだと思った。
その一行の脇に、ヴァンフリートの筆が引っ掛かってできた小さな染みがあった。
「エスネエーレに、もう一度会うぞ」
「家令には頼んだ。だが、面会は認めないとの返事だった」
「誰が」
ヨストは答える代わりに、返ってきた短い書状を見せた。
王宮の判断による、とあった。
ヴァンフリートは読み終えても、その紙を返さなかった。
ヨストは何も言わずに待っていた。
「お前も、あの女にどうしたいかは聞かなかったな」
「そうだ」
「命を守るためだと言えば、聞かなくて済むのか」
「済むわけがない」
ヴァンフリートは書状を置いた。
辞める理由を書いた紙も、そのままにした。
家へ戻ると、昨日の鞄へ着替えと数冊の本を入れた。机の引き出しに残っていた自分の金を数え、半分ほど出しかけた本をもう一度押し込んだ。
玄関には父がいた。
「どこへ行く」
「宿を探す」
「仕事は」
「探すさ」
アルブレヒトは、息子の手にある鞄を見た。
「口だけで暮らせると思っているのか」
「黙って食わせてもらうより、腹は減るだろうな」
「冗談を言っているのではない」
「俺もだ」
扉の外では、馬車の支度ができていた。御者がこちらを見たが、ヴァンフリートは乗らずに石段を下りた。
父は呼び止めなかった。
角を曲がっても、鞄の取っ手に置いた手は、なかなか緩まなかった。
王太子を殺した男には、刑事法院で死刑が言い渡された。
その刑が執行される頃、エスネエーレは塔を出て、クレーフェ家の屋敷へ移されていた。
刑事送致は見合わされたが、外出も面会も、引き続き王宮の判断に従うこととされた。
ヨストは、個人の名で出した書状に、共謀を認めるだけの証拠は確認できなかったと記した。
調べることをやめたのであって、彼女の共謀を認めたのではない。
その書状の控えを、集めた紙と一緒に手元へ残した。
移された屋敷へ、ヴァンフリートは入れなかった。
家令に預けようとした名刺代わりの紙も、門で返された。持ち帰る途中で雨に遭い、折り目に沿って自分の名が少し滲んだ。
安い宿の部屋へ帰り、彼はその紙を窓辺へ置いた。
窓の下では、隣の家の女が洗濯物を取り込んでいた。雨が強くなるにつれ、物干しから白い布が一枚ずつ消えていった。
翌日、ヴァンフリートは古道具屋で、小さな机と椅子を一脚買った。
机は片方の脚が短く、持ち上げると引き出しが勝手に開いた。店の男が、屋内で使う分には問題ないと言った。
「外で使う」
「だったら、雨に気をつけな」
男はそれ以上何も尋ねず、運ぶのを手伝った。
法院へ続く通りの端に置くと、机はやはり傾いた。ヴァンフリートは足元の小石を拾い、短い脚の下へ押し込んだ。
通りを行く人が、何をしているのかと見ていった。顔見知りの書記が一人、足を止めかけ、そのまま法院の方へ歩いていった。
ヴァンフリートは紙を一枚広げた。
代書、代言を承る、と書いた。墨が乾くのを待って机の前へ留め、自分の椅子へ座った。
昼を過ぎた頃、買い物籠を提げた女が立ち止まった。
「手紙でも、よろしいのでしょうか」
「読むのか。書くのか」
「返事を。何と書いたらよいか分からなくて」
女は籠の底から、布に包んだ紙を出した。
ヴァンフリートは椅子を立ち、女の方へ向けた。
「座れ」
「でも、あなたの」
「一脚しかない。立って話す方がいいなら、俺が座る」
女は少し迷ってから腰を下ろした。
ヴァンフリートは紙を受け取り、端へ文鎮を置いた。通りを渡る風が、押さえられていない角を小さく持ち上げた。
「で、お前は何と返したい」




