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第4話

 王宮を出ると、雨はやんでいた。


 砂利の間に溜まった水へ、葉を落とした木々が映っていた。門へ向かう途中、ヨストは一度立ち止まり、抱えていた書類を外套の内へ入れた。


「やめる気か」


 ヴァンフリートが尋ねた。


「これ以上進めれば、彼女は裁かれる」


「今だって裁かれてる」


 門衛がこちらを見た。ヴァンフリートは声を落とさなかった。


「このまま閉じ込めておけば、それで助けたことになるのか」


「死なせずに済むかもしれない」


「お前が始めたんだぞ」


「分かっている」


「誰にも頼まれてないと言って、俺を連れて、あの女に会った。何のために会ったんだ」


 ヨストは、少し離れた門を見た。


「彼女が話したことを、あのままにしたくなかった」


「なら、今やめるな」


「今、私が意地を張れば、代わりに死ぬのは彼女だ」


 ヴァンフリートは言い返しかけて、口を閉じた。


 門の中を、黒い馬車が通っていった。車窓の覆いは下りていた。誰が乗っているのか分からないまま、門衛たちは姿勢を正した。


「疑いが晴れたとは書かない。だが、共謀を認めたとも書かせない。そのことだけは、私からもう一度伝える」


「それだけか」


 ヨストは答えなかった。


 ヴァンフリートは彼を追い越し、一人で門を出た。


 その夜、ローエンハイム邸へ帰ると、父が書斎で待っていた。


 アルブレヒトは、息子が入るのを見て手元の書類を閉じた。机の脇の椅子へ目をやったが、ヴァンフリートは座らなかった。


「外套を脱ぎなさい」


「ここでも茶が出るのか」


「何の話だ」


「人に黙れと言う時は、先に温めるのが作法らしい」


 父は机の上へ両手を置いた。


「ローベル卿から話は聞いた。ヨストとも、帰る前に会った」


「手回しがいいな」


「お前のしていることを知ったのが、今日だった」


 ヴァンフリートは、濡れた外套を脱いだ。椅子の背へ掛けると、父がそれを見てから、もう一度座るよう勧めた。


 彼は立ったままでいた。


「調査をやめるんだ」


 アルブレヒトが言った。


「お前はこの事件の担当ではない。ヨストもだ。何人かに話を聞いたことで、王宮と争う用意ができたと思うな」


「できてないから、確かめてた」


「その先へ進めば、彼女が刑事法院へ送られる」


「同じことを言うんだな」


「同じ危険を見ているからだ」


 廊下を歩く足音が、扉の前で一度遅くなり、そのまま遠ざかった。


 アルブレヒトは声を低くした。


「私は、あの女性が共謀したと決めつけているのではない」


「なら、閉じ込める理由は」


「今、自由にすれば、彼女を罪に問えという者たちを抑えられなくなる」


「その連中の口を閉じる代わりに、女の扉を閉めるわけか」


「できることには限りがある」


「お前にもか」


「ああ」


 父は即座に答えた。


 ヴァンフリートは、机越しにその顔を見た。


 アルブレヒトの背後には、長く使い込まれた書物が並んでいた。

 子供の頃、背表紙の金文字を読もうとして、届かずに父を呼んだ棚だった。

 今は一番上にも手が届く。

 だが、父の座る側へ回って本を取ろうとは思わなかった。


「お前は、法院にいれば人を助けられると言った」


「今でもそう思っている」


「その法院に入れたら死ぬから、入れるなと言う」


「裁定官の前へ出せば、必ず正しい結果になるわけではない。証拠がなければ、争えないことがある」


「証拠を持ってる奴が、集めるなと言うんだぞ」


「だから、今は退くのだ」


 父の言葉は静かだった。


「お前まで職を失えば、何が残る。ここにいて学び、いずれ自分の責任で扱える事件を持ちなさい。一度のことで、先を捨てるな」


 ヴァンフリートは、机の端へ目を落とした。


「その間、あの女はどこにいる」


 アルブレヒトは答えなかった。


「俺が一人前になるまで、待ってろと言えばいいのか」


「お前が辞めても、彼女の扉は開かない」


「分かってる」


「分かっているなら、自分の身を粗末にするな」


 ヴァンフリートは椅子の背から外套を取った。


「明日の仕事を、何もなかった顔で続けろと言うのか」


「誰も、何もなかったとは言っていない」


「だが、そういう顔をするんだろ」


 父は立ち上がった。


「今日はもう休め。明日、もう一度話そう」


 ヴァンフリートは返事をしなかった。


 自分の部屋へ戻ると、炉には火が入っていた。洗って畳まれた下着が椅子の上に置かれ、夜具はいつもと同じように整えられていた。


 彼はしばらく入口に立っていたが、やがて机から小さな鞄を下ろした。

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