↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
141/195

第27話

 翌朝の新聞では、シグルーンの名は紙面の下の方へ移っていた。


 アエミリアは、法院の石段を上がりかけた少年から一部を買った。夜の雨はもう上がっていたが、軒の低いところには雫が残り、風が通るたび、行き交う人々の肩へ落ちた。


「アイスベルク女史、無罪――!」


 少年が叫んだ。


 その声に足を止めた男が、新聞を一枚受け取った。代金を渡す間にも顔は紙面へ向いていて、歩き始める時には、すでに隣の記事を読んでいた。


 アエミリアは机へ戻った。


 昨日までの聞き取りの紙は、紐を掛けて鞄の底へ収めてある。代わりに広げた新聞の上では、無罪という二文字が、周囲の活字とさほど違わない大きさで並んでいた。


「ずいぶん、小さくなりましたね」


 ヴァンフリートは向かいから覗いた。


「逮捕する時に、活字を使い果たしたんだろう」


 アエミリアは笑わなかった。


 記事には、裁定官が共謀を認めなかった理由も載っていた。リューベックの供述を裏付けるものがなく、金銭の使途や当時の記録とも食い違っていた、とある。最後まで読めば分かるようには書かれていた。


 彼女は紙面を平らに伸ばした。


 通りの向こうで、新聞を開いた二人の男が話していた。


「やはり、関わっていなかったんだな」


「さあ。あの家の女となれば、法院も扱いに困るだろうよ」


 ヴァンフリートが顔を上げた。


「裁定は読んだのか」


 声を掛けられた男が、こちらを見た。


「新聞なら、今――」


「読んでから喋れ。順番を逆にすると、せっかく買ったのが無駄になる」


 男は口元を歪め、新聞を畳んだ。連れの男はまだ記事を読んでいて、歩き出すのが一歩遅れた。


 アエミリアは、二人を目で追わなかった。


 机の上の新聞を、見出しが隠れないように折った。風で飛ばないよう、その端へ文鎮を置く。


 ほどなく法院から来た書記は、その新聞を一瞥してから、ヴァンフリートへ書面を渡した。


 刑事代言に関する手続きの確認だった。話が済みかけたところで、書記は、リューベックの資格についても審査が進められると告げた。


「登録代言人としての処分は、別に定まります。残された財産についても、確認が続いています」


「金を返してもらう方は、そっちが気になるだろうな」


「全額に届くかどうかは、まだ」


 書記はそこで言葉を切った。


 ヴァンフリートは頷き、受け取った紙を鞄へ入れた。


 アエミリアの前には、まだ無罪の文字があった。そのすぐ下にあるリューベックの名を、文鎮の影が半分覆っていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

面白かったと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。