第27話
翌朝の新聞では、シグルーンの名は紙面の下の方へ移っていた。
アエミリアは、法院の石段を上がりかけた少年から一部を買った。夜の雨はもう上がっていたが、軒の低いところには雫が残り、風が通るたび、行き交う人々の肩へ落ちた。
「アイスベルク女史、無罪――!」
少年が叫んだ。
その声に足を止めた男が、新聞を一枚受け取った。代金を渡す間にも顔は紙面へ向いていて、歩き始める時には、すでに隣の記事を読んでいた。
アエミリアは机へ戻った。
昨日までの聞き取りの紙は、紐を掛けて鞄の底へ収めてある。代わりに広げた新聞の上では、無罪という二文字が、周囲の活字とさほど違わない大きさで並んでいた。
「ずいぶん、小さくなりましたね」
ヴァンフリートは向かいから覗いた。
「逮捕する時に、活字を使い果たしたんだろう」
アエミリアは笑わなかった。
記事には、裁定官が共謀を認めなかった理由も載っていた。リューベックの供述を裏付けるものがなく、金銭の使途や当時の記録とも食い違っていた、とある。最後まで読めば分かるようには書かれていた。
彼女は紙面を平らに伸ばした。
通りの向こうで、新聞を開いた二人の男が話していた。
「やはり、関わっていなかったんだな」
「さあ。あの家の女となれば、法院も扱いに困るだろうよ」
ヴァンフリートが顔を上げた。
「裁定は読んだのか」
声を掛けられた男が、こちらを見た。
「新聞なら、今――」
「読んでから喋れ。順番を逆にすると、せっかく買ったのが無駄になる」
男は口元を歪め、新聞を畳んだ。連れの男はまだ記事を読んでいて、歩き出すのが一歩遅れた。
アエミリアは、二人を目で追わなかった。
机の上の新聞を、見出しが隠れないように折った。風で飛ばないよう、その端へ文鎮を置く。
ほどなく法院から来た書記は、その新聞を一瞥してから、ヴァンフリートへ書面を渡した。
刑事代言に関する手続きの確認だった。話が済みかけたところで、書記は、リューベックの資格についても審査が進められると告げた。
「登録代言人としての処分は、別に定まります。残された財産についても、確認が続いています」
「金を返してもらう方は、そっちが気になるだろうな」
「全額に届くかどうかは、まだ」
書記はそこで言葉を切った。
ヴァンフリートは頷き、受け取った紙を鞄へ入れた。
アエミリアの前には、まだ無罪の文字があった。そのすぐ下にあるリューベックの名を、文鎮の影が半分覆っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
面白かったと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




