第26話
最終の意見が述べられる頃には、書記の机へ灯が置かれていた。
王国代訴官は、確認費の受領と清算金六百枚の受領について、虚偽の説明と、その後の金の使途を挙げ、リューベックの刑事責任を認めるよう求めた。
過去に正当に行った仕事があることは、今回の受領の根拠にはならない。金を後で戻すつもりだったという供述も、受領の際に偽った関与や、両当事者への虚偽の通知を消すものではないと述べた。
シグルーンについては、少し間を置いた。
「共同関与の疑いを支えていたのは、リューベック卿の供述と、複数の依頼人が女史の関与を説明されていた事実です。しかし、その説明はいずれも同人を出所としており、女史自身の承諾や指示を裏付けるものは得られませんでした」
代訴官は、開いていた綴りへ手を添えた。
「また、直接の指導や金銭の交付に関する供述には、本公判で確かめられた記録との食い違いがあります。女史との共謀について、有罪を求めるに足る裏付けは、示せませんでした」
アエミリアは、最後まで書き留めた。
リューベックの代言人は、本人が行ってきた実務と、返済を意図していたという供述を挙げた。使った金の存在を否定することは、もうしなかった。
ヴァンフリートの番になると、彼は机から何も持たずに立った。
「アイスベルクの名が使われたことは、争わない。その名前を信じて金を払った者がいることも、争わない」
シグルーンは、彼を見ていた。
「だが、名を使った人間の言葉が、使われた本人の承諾に変わるわけじゃない。こいつが何をしたかを調べた結果、残ったのは、リューベックがこいつのしたこととして売った説明だった」
ヴァンフリートは裁定官へ顔を向けた。
「俺の依頼人の無罪を求める」
それだけ言って座った。
裁定が告げられるまでに、窓はすっかり暗くなった。
人々の姿が、昼間とは逆に硝子の内側へ映っていた。席を離れた者の跡へも、誰かが戻ってきた。アエミリアは乾きかけた筆先を拭き、もう一度、机の上に揃えた。
シグルーンは、自分の書いた紙を上から読み返していた。
裁定官が席へ戻ると、長椅子の音が重なり、やがて静まった。
最初に、リューベックの名が呼ばれた。
女史の確認があると偽って受け取った費用と、共同関与を偽って受領した清算金について、詐欺の罪を認めるとの言葉が続いた。実際に金を受け取った者たちの記録と証言、双方へ送った通知、本人の供述が、裁定の理由として述べられた。
リューベックは、顔を上げて聞いていた。
次に、シグルーンの名が呼ばれた。
「シグルーン・フォン・アイスベルクについては、共謀の事実を認めるに足る証明がない」
彼女の指が、紙の端で止まった。
「名義が繰り返し使われていたことと、本人がその使用を承諾していたことは、区別しなければならない。リューベックの供述は、直接の関与を示す裏付けを欠き、当時の記録および金銭の使途とも整合しない」
裁定官は、手元の書面から目を上げた。
「無罪とする。勾留を解く」
アエミリアの筆は、無罪という文字を書き終えたところで止まった。
後ろから誰かが息を吐いた。その音に続いて、衣擦れが幾つも起こった。シグルーンは裁定官を見たまま、机へ置いた手を動かさなかった。
ヴァンフリートは、彼女の代わりに立ち、身柄を解く手続きを確かめた。
リューベックが衛兵に促されて席を離れた時にも、シグルーンは何も言わなかった。彼は一度こちらへ顔を向けかけたが、途中で目を伏せ、そのまま奥の扉へ歩いていった。
扉が閉まった後、彼女はようやく筆を置いた。
「ローエンハイム卿」
ヴァンフリートが振り向いた。
シグルーンは口を開き、それから、机の上へ目を戻した。
「……ありがとうございました」
「ああ」
彼は綴りを閉じた。
手続きが済むまで、エルナは廊下で待っていた。主人の外套を両腕に掛け、呼ばれるとすぐに近づいてきたが、声は出さなかった。
シグルーンが袖へ腕を通す間、エルナは肩のところを支えた。ボタンを掛けようとした手に、シグルーンの手が触れた。
「自分でできます」
「はい」
エルナは手を下ろした。けれど、一歩も離れなかった。
表玄関の扉が開くと、外の冷気が廊下を渡ってきた。
馬車の灯が、濡れた石段の下で揺れていた。往来から聞こえる車輪の音に、通りの誰かの笑い声が混じった。シグルーンは留め具を掛け終え、手袋を片方ずつはめた。
扉の傍に立っていた衛兵が、身を退いた。
彼女はその前を通り、石段を下りた。エルナがすぐ傍へ続き、アエミリアは鞄を持ち直して後を追った。
ヴァンフリートが出ると、背後で扉が閉まった。
シグルーンは振り返らなかった。




