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第25話

 午後の光は、窓から離れていた。


 机の上にはまだ明るさが残っていたが、傍聴席の奥では、人の顔より襟や頬の縁の方がよく見えた。暖炉の傍で外套を脱いでいた男が、いつの間にかそれを肩へ掛け直していた。


 リューベックは、以前の依頼人たちが自分の仕事を認めていたことを、改めて述べた。


「私の扱った案件は、現に解決しています。依頼人も納得している。それを、説明に多少の行き違いがあったというだけで、最初からすべて虚偽だったかのように――」


「最初から全部が嘘だったとは言ってない」


 ヴァンフリートは、アエミリアの前に置かれた綴りへ手を伸ばした。


「お前が、後から増やした嘘の話をしてる」


 匿名の批評文が、書かれた順に確かめられた。


 初めの文章は、合意へ至る方法を批判していた。相手が譲らなければどうするのか。弱い立場の依頼人に、選ぶ余裕があるのか。問われているのは仕事の進め方で、文章には反論を受け入れるだけの形が残っていた。


 その後の文章では、過大な評価という言葉が増えていた。やがて仕事の検討よりも、なぜ彼女ばかりが評価されるのかという記述が、広い場所を占めるようになった。


 印刷所へ原稿が渡された日には、持ち込んだ本人の支払いが残っていた。同じ時期、依頼人へ渡す書面では、アイスベルクが確認し、監修する範囲が広くなっていた。


 リューベックの代言人が立った。


「被告人の批評上の意見については、すでに本人も認めています。その意見の当否を、ここで争う必要はありません」


「ないな」


 ヴァンフリートは答えた。


「こいつを褒めたか、けなしたかで、俺の依頼人の有罪無罪を決めてもらう気はない」


 彼は、確認費の請求書を原稿の横へ置いた。


「こっちで、関わらせる値打ちのない代言人だと書いてる。同じ時期に、こっちでは、その代言人に関わってもらうための金を取ってる。お前は依頼人に、何を買わせたんだ」


「専門家としての意見と、依頼人への説明は別です」


「便利だな。専門家のお前は信用しない相手を、金を払う素人には信用させたわけか」


「仕事は、私がしたんです」


 リューベックの声が、初めて机から離れた。


 シグルーンが顔を上げた。


「女史が自分一人で考え出したことのように扱われている手法など、別に新しいものではありません。私にもできた。私だって、ずっと同じ実務をしていた」


 ヴァンフリートは黙っていた。


「誰が条件をまとめたと思っているんです。誰が相手を説得した。書類を作って、金を集めて、仕事を終わらせたのは――」


「お前だ」


 短い返事だった。


 リューベックは、その先を続けられなかった。


 ヴァンフリートは請求書から手を離した。


「お前がやった。だから、お前の報酬を取ればよかった。こいつが確かめたと言って取った三枚は、誰の何の仕事だ」


「その程度の金を」


 証言を終えて傍聴席にいた仕立屋の女主人が、顎を引いた。


 リューベックはそちらを見なかった。


「大事なのは、実際に解決したかどうかでしょう。あの女に頼んだって、できることは同じだった。俺だって同じことができた」


 私と言っていた時よりも、声が掠れていた。


「アイスベルクの仕事なんて、全部知っている。大したことをしているわけじゃない。あの女は、名前だけだ」


 ヴァンフリートは、彼を見た。


「なら、なんで自分の名前を使わなかった?」


 リューベックの口が、少し開いたままになった。


 暖炉の中で薪が崩れた。誰もそちらを見なかった。


「依頼人が、名前に弱いからだ」


 しばらくして、リューベックは言った。


「あの家の名前があって、女だというだけで珍しがられる。何をやったかなど、本当は見ていない」


 ヴァンフリートは、最後の原稿を取った。


「ここにも書いてある」


 紙へ目を落とし、彼はその一節を読んだ。


「『アイスベルク本人に価値があるのではない。その名前に価値があるだけだ』」


 リューベックは、まだ何かを言おうとしていた。


「正しかったな。名前には値打ちがあった」


 その言葉に、彼の顔がわずかに上がった。


 ヴァンフリートは、原稿を置いた。


「ただ、お前が欲しがった値打ちをつけたのは、家柄でも、女だという物珍しさでもない」


 机の隅には、厚い研究帳があった。表紙が少し反り、使い込まれた頁の端が、扇のように開いていた。


「お前が何年も馬鹿にして、何年も調べて、それでも真似しきれなかった仕事だ」


 リューベックの指が、机の縁を掴んだ。


「……あの女がいなくても、仕事はできた」


「できたんだろうな」


 ヴァンフリートは言った。


「だがお前は、いない女をいることにした。そしたら仕事が舞い込んだ」


 リューベックはシグルーンへ顔を向けた。


 彼女は筆を持っていた。何かを書きかけたところで止まっており、紙に触れない筆先が、手の動きにつれてわずかに揺れた。


 彼女が口を開くことはなかった。


 裁定官が、なお付け加えることはあるかとリューベックへ尋ねた。


 彼は喉を動かし、傍らの代言人の方を見た。


 その後に述べたのは、金を戻す意思があったということだった。

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