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第22話

 リューベックは、協力関係が始まった時期を、二年前のエリーゼの事件が終わって間もなくと述べた。


 ヴァンフリートは、先に提出してあった二通の書簡を示した。


 一通は、リューベックからシグルーンへ宛てた共同実務の提案だった。もう一通は、それを断った返書である。返書の原本は、リューベックの保管書類から出てきていた。


「これは、お前が受け取ったものだな」


「そうです」


 リューベックは、紙の上を短く見た。


「しかし、それは表向きの提案に対する返答です。その後、別の形で協力することになりました」


「書面は」


「残していません」


「口頭か」


「はい」


 彼はシグルーンを見た。彼女は自分の返書の写しへ目を落としていた。


「女史には、女史の立場があります。公然と共同事務所を構えることだけが、協力ではありません」


「その協力は、この原稿を書いた時には、もう始まっていたんだな」


 アエミリアが、一枚をヴァンフリートへ渡した。


 リューベックの目が、その手の動きを追った。


 印刷所の主人が呼ばれたのは、それからだった。


 主人は証言席に立つと、出された原稿と校正刷りを順に確かめた。『一代言人』という署名の記事を持ち込んだのはリューベック本人であり、訂正も本人が行い、別刷りの代金も本人から受け取ったと述べた。


「持ち込まれた日は、帳簿に記してあります。こちらの訂正をしていただいたのは、その二日後です」


 主人は、細い線で書き直された箇所を示した。


 法廷で読まれると、活字になる前の文章は、印刷された記事よりも少し生々しかった。消された言葉の上へ、言い直した言葉が窮屈に入り込んでいる。


 ヴァンフリートは、記事の論旨には触れなかった。


「ここに、本人への照会に返答がなく、外から得られる記録を頼りに検討するほかない、とある。お前が書いた文章でいいな」


「その批評を書いたことは認めます」


「直接教えを受けていた相手について、返答がないと書いたのか」


「協力関係を公にしていなかったと、先ほどから申し上げています」


 リューベックの返事は早かった。


 王国代訴官が口を開いた。


「批判的な記事を書いていたことだけでは、共同関与を否定する根拠にはなりません。外向きには対立していた可能性もあります」


「ああ。仲が悪くても、金のためなら組める」


 ヴァンフリートは原稿を置いた。


「だから、公にしたくなかったことを、本人が自分用の帳面にどう書いてたかを見る」


 書記が、保全された研究帳を運んだ。


 厚い表紙を開く時、綴じ目に溜まった紙屑がひとつ、机へ落ちた。幾度も開かれた頁はよく馴染んでいて、押さえなくても平らになった。


 そこには、シグルーンが扱った事件の記録が写されていた。条件を切り分けた順序や、依頼人に選択を求めた箇所に線が引かれ、その脇を細かな考察が埋めていた。


 リューベックは、それが自分の帳面であることも認めた。


「仕事の研究をすることに、問題があるのですか」


「ない。よく調べてある」


 ヴァンフリートがそう言うと、リューベックの眉がわずかに動いた。


「だから聞く。この処理について、お前は女史から直接説明を受けたと言ったな」


「そうです」


「その説明を受けた後に、なぜ判断の根拠が分からないと書いた」


 ヴァンフリートは、頁の中ほどを指した。


 リューベックは目を落としたまま答えた。


「後で整理するための記載です。聞いたことのすべてを、その場で理解できるとは限りません」


「そりゃそうだ。じゃあ、その下だ」


 そこには、公開記録から推定した旨が書かれていた。本人に確かめられないという一文も続いていた。


 法院に残る公表の日付と、写しが交付された日が照合された。帳面の考察は、記録を入手するたびに書き足されていた。前の頁で疑問のままだった事柄に、次の頁では入手した記録の一節が引かれ、それによって推測が改められている。


 アエミリアは、日付を確かめた紙を机の端へ揃えた。


 リューベックは、その紙を一度見た。


「研究の記録と、共同実務の記録は別です」


「別で構わん。なら、共同実務の方を聞かせろ。今、お前が直接教わったと言った話は、この帳面では、記録を取り寄せて推測した話になってる。直接聞いたのは、いつだ」


「正確な日までは――」


「日だけじゃなくていい。どの案件の、何を相談した」


 リューベックは、シグルーンの実務上の特徴を述べ始めた。争いのない債務を先に処理すること、依頼人が選べる条件を明らかにすること、相手の主張を一括して退けないこと。


 ヴァンフリートは、しばらく聞いていた。


「それは、この帳面に書いてある」


「共通の仕事の進め方です」


「お前が何を読んだかは分かった。お前に何を言ったかを聞いてるんだ」


 リューベックの手が、水の入った杯へ伸びた。


 杯を持ち上げたまま、彼は一度シグルーンを見た。彼女は机に置かれた研究帳を見ており、その視線には応じなかった。


 裁定官は、直接の指導や相談があったとする供述について、具体的な裏付けが示されていないことを記録させた。


 窓の曇りが、上の方から薄れ始めていた。外の光が硝子を透かし、リューベックの開いた帳面へ落ちていた。

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