↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
134/195

第20話

 法廷の窓は、人が入るたびに曇っていった。


 外套に含まれた朝の湿りが、暖炉の熱にほどけている。

 高い窓の下では、硝子を伝った水が細く光り、その向こうを過ぎる馬車も、人の姿も、輪郭を失っていた。

 傍聴席の長椅子が軋むたび、誰かが身を縮め、空いたはずの隙間へ別の外套の裾が入り込んだ。


 ヴァンフリートは、机の上の綴りを少し脇へ寄せた。


 アエミリアが、その隣へ最後の一冊を置く。紐を解くと、挟んでおいた細い紙片が、頁の間からわずかに覗いた。


 奥の扉が開いた。


 先に入ってきたリューベックは、裁定官の席へ軽く頭を下げた。襟はきちんと折られ、外套の前も揃っている。自分の席を示されるまで立って待つ様子には、長く法院へ通ってきた者の、慣れた慎みがあった。


 ただ、腰を下ろす時、椅子の背へ添えた手が一度滑った。


 シグルーンは、その後から入ってきた。


 傍聴席のどこかで、囁き声が急に途切れた。彼女はそちらを見ず、ヴァンフリートの傍まで来ると、小さく会釈して座った。


 アエミリアは、筆と白紙を彼女の手の届くところへ置いた。


「お使いください」


「ありがとうございます」


 シグルーンは紙を引き寄せた。筆は取らず、まず裁定官の方を向いた。


 両名の名が確かめられ、王国代訴官が立った。


 清算金六百枚を受領したことについて、リューベックは争っていなかった。依頼人にアイスベルクの関与を説明したことも、自分の名で受領証を発行したことも認めている。


 代訴官はそこまで述べてから、綴りの次の頁へ指を置いた。


「問題は、その説明が真実だったかどうかです。アイスベルク女史が共同して受任し、金銭の受領や処分を承知していたのか。それとも、リューベック卿が女史の関与を偽ったのか。今回の清算以前の案件についても、実際の関与と、依頼人に説明された関与とを確かめる必要があります」


 裁定官に問われ、シグルーンは共謀を否認した。


 リューベックは、隣の代言人と短く言葉を交わしてから答えた。


「女史との協力関係は、今回初めて生じたものではありません。私が依頼人への対応を受け持ち、女史が判断や助言をする。その形で仕事をしてきました」


 よく通る声だった。


「今になって関与を否定されても、私一人が行ったことにはなりません」


 シグルーンは何も言わなかった。


 アエミリアの筆先が、その言葉を紙へ移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。