第19話
公判の日が決まり、ヴァンフリートはシグルーンへ面会に行った。
面会室の窓から入る光は、机の向こう側で切れていた。シグルーンの傍らに置かれた水は、手つかずだった。
彼女は、渡された協業申入書の写しを読んだ。
「これは、私が受け取ったものです」
「返事の理由も、この通りか」
「はい」
「腕が悪いから断ったわけじゃないんだな」
「リューベック卿の能力は認めています」
シグルーンは紙から目を上げた。
「だからこそ、仕事の進め方が違うことを曖昧にしたまま、ご一緒するべきではないと考えました」
「相手は、そう受け取らなかったらしい」
「それは、私には分かりません」
ヴァンフリートは頷いた。
研究帳の写しを渡すと、シグルーンは少し長く読んだ。
アエミリアは向かいで待っていた。窓の外から聞こえる声は、ここへ届くまでに言葉の形を失っていた。
「よく調べてありますね」
シグルーンが言った。
「お前の仕事をな」
「ええ」
その返事には、皮肉がなかった。
彼女は、本人確認不能と書かれた箇所へ指を置いた。指先はそこに留まったが、紙を強く押さえはしなかった。
「この時期に、私から直接指導を受けていたと供述しているのですか」
「そうだ」
「私は、そのようなことはしていません」
「お前の否認だけじゃなく、あいつ自身が何を残してたかを出す」
シグルーンはもう一度、日付を見た。
ヴァンフリートは金の流れについても伝えた。彼女は途中で口を挟まず、最後まで聞いた後、確認した相手と記録の範囲を尋ねた。
アエミリアが答えると、短く頷いた。
「ありがとうございます」
それから、写しを揃えて机の中央へ戻した。
「私の名前が何度使われたかは、もう争えませんね」
「使った回数と、お前が許した回数は別だ」
「はい」
シグルーンは顔を上げた。
「その区別を、法院でお願いします」
廊下で足音が止まった。
面会の終わりを告げられると、ヴァンフリートは書面を鞄へ戻した。シグルーンが立ち上がり、アエミリアも椅子を引いた。
「ローエンハイム卿」
「何だ」
「私が法廷で確認されることは、ほかに」
「お前が何をしたかだ。してないことまで、気を利かせて引き受けるな」
「そのようなつもりはありません」
「結構。今回は、依頼人がお利口で助かる」
シグルーンは一瞬だけ、彼を見た。
「それを普段の依頼人にも、お伝えになればよろしいのに」
「請求書を払った後なら考える」
衛兵が開けた扉へ向かうまで、彼女はそれ以上言わなかった。
ヴァンフリートとアエミリアは、留置棟を出た足で書記の窓口へ回った。
提出する書面を渡し、証人として話を聞く必要のある者を確認した。印刷所の主人も、過去の依頼人も、金を受け取った者も、それぞれ自分の知ることだけを話せるようにしておく必要があった。
書記が最後の書面を受け取り、日付を記した。
アエミリアは、軽くなった鞄の留め具を閉じた。
「これで、聞き取りはひと通り済みましたね」
「ああ」
ヴァンフリートは、公判の開かれる部屋へ通じる廊下を見た。
「後は、こいつを全部並べた前で、リューベックに同じ話をしてもらう」
廊下の奥では、別の審理を終えた人々が扉から出てきていた。
その流れが途切れるのを待って、二人は歩き出した。




