第17話
エリーゼの事件の後にも、リューベックは仕事をしていた。
アエミリアが受任記録を並べると、報酬の大きな案件も幾つか残っていた。事件に敗れた翌日から、すべてを失ったわけではなかった。
「ここでは、まだ支払いも遅れていません」
「一度負けるたびに廃業してたら、法院には誰も残らん」
ヴァンフリートは次の記録を指した。
「その後だ」
月を追うにつれ、仕事の間隔が空き、報酬も減っていた。初めは次の入金で埋められた不足が、やがて借入れへ移り、借入れの返済が新しい報酬を待つようになっていた。
それと重なる頃、論評の語調も変わっていた。
実務を検証していた文章が、世間の評価を責める文章になり、やがて、評価される本人を貶めるものになっていく。
一方で、依頼人へ送る手紙には、アイスベルク確認済みという言葉が増えていた。
アエミリアは、同じ時期の二枚を離して置いた。
一枚では、彼女への評価は誤りだと訴えている。
もう一枚では、その評価を信じて自分へ依頼するように勧めている。
ヴァンフリートは長く読まず、日付の控えを作らせた。
「感想は後だ。いつ書いたかを落とすな」
研究帳が参照していた記録についても、公開の時期を確かめる必要があった。
裁定が出た日と、その内容を外部から読めるようになった日は、必ずしも同じではなかった。写しに書かれた日付も、そのまま公開日にはできなかった。
ヴァンフリートは、古い記録の日付を照合してもらうため、人を頼んだ。
約束した午後、閲覧室へ来た男を、アエミリアは立って迎えた。
「ヨスト・フォン・メーレンだ」
ヴァンフリートが紹介した。
「こいつが、写しと公開の日付を見てくれる」
「アエミリア・フォン・ゾンダーブルクと申します。先生の助手をしております」
ヨストは会釈し、机の上へ視線を移した。
「どの日付が問題になっているのですか」
アエミリアは研究帳の写しを示した。
ヨストはそれと公示の記録を見比べ、ひとつの裁定について、いつから外部の者が内容を確かめられたかを辿った。リューベックが手に入れた写しの成立時期も、別に確認した。
「ここにあるのは裁定の日です。読めるようになった日は、こちらになります」
指で示された日付を、アエミリアは書き添えた。
研究帳の書き込みは、その後だった。
別の頁でも、知り得た順序は同じだった。新しく公開された内容が、後の書き込みに取り入れられている。
「本人から教わらなくても、これだけのことは読めたのですね」
「はい。ただし、私が確認できるのは、その記録がいつ読めたかということです」
ヨストは静かに答えた。
「二人が会っていなかったことまで、この日付からは分かりません」
「そこまでは頼んでない」
ヴァンフリートが言った。
「外から得た知識を、本人に教わった証拠として出されると面倒なんだ」
ヨストは頷き、確認した記録を揃えた。
アエミリアは礼を述べた。彼は筆を収めると、写しの日付を取り違えないようにと、もう一度だけ指摘して席を立った。
残った机の上で、研究帳の小さな但し書きが、先ほどよりはっきり見えた。
公開記録より推定。
本人確認不能。
直接教わっていたという時期に、リューベック自身が残していた言葉だった。




