第15話
印刷所の記録を法院へ提出し、保全されたリューベックの資料との照合を求めると、数日後、原稿類の閲覧が認められた。
書記が運んできたものは、アエミリアの予想より多かった。
論評の草稿だけではなかった。シグルーンの関わった事件の写しが、厚い綴りになっていた。公開された弁論の一節には線が引かれ、その横へ細かな字が書き込まれている。
アエミリアが一冊を開くと、最初の頁に題があった。
アイスベルク幻想の検証。
その下には、丁寧に日付が記されていた。
読み進めるにつれ、紙を捲る手が遅くなった。
シグルーンが、最初に何を認めたか。どの問いから相手の説明を狭めたか。依頼人に不利な事実をどの段階で伝え、どこで本人の判断を待ったか。切り抜きの脇には、別の事件との比較まで書き添えられていた。
悪口を書くために拾ったにしては、余りに細かかった。
「先生」
アエミリアは一冊を差し出した。
「この方は、シグルーン様の質問の順番まで調べています」
ヴァンフリートは開かれた頁を読んだ。
そこには、相手が答えを曖昧にした時、シグルーンが問い方を変えた箇所が写されていた。後に使われた別の質問も、同じ頁へ引き寄せられている。
「よく働いてるな。依頼人のためにも、このくらいやればいいのに」
アエミリアは笑わなかった。
頁の端には小さな字で、本人の判断基準は確認できず、とあった。
別の箇所では、公開記録より推定、と断られている。
ヴァンフリートは、開示を受けたリューベックの供述書を出した。
そこでは、二年前のエリーゼの事件の後から、シグルーン本人に直接仕事を教わり、表には出さず共同で案件を扱うようになったと説明されていた。
アエミリアは供述の示す時期へ指を置き、研究帳の日付を見た。
「その頃にも、確認できないと書いています」
「ああ」
さらに先の草稿には、問い合わせても本人から回答が得られず、外部の記録から考えるほかないという記述があった。
その一節は、印刷所に残っていた原稿にもあった。逮捕された後で作った説明ではなかった。
ヴァンフリートは、二つを並べたまま書記へ声をかけた。
「この頁も写す。原本がどの綴りに入っていたか、分かるようにしてくれ」
アエミリアは、積まれた本の背へ目を移した。
同じ名が、何冊にも繰り返されていた。
「この方、批判するために少し調べた、という程度ではありませんね」
「本人に聞けないから、自分で全部拾ったのかもしれん」
「それを、直接教わったと……」
「今はそう言ってる」
ヴァンフリートは供述書を重ねた。
「二年前に何があったのか、当人の話を聞こう」




