第12話
聞き取りを重ねる間に、金の記録も少しずつ繋がった。
リューベックの事務所で書類の清書をしていた青年を捜し出し、話を聞いた。今は別の家で働いていたが、遅れて受け取った給金の控えは残していた。
「何度か、待つように言われました」
青年は、紙の折り目を掌で伸ばしながら言った。
「入るはずの報酬が遅れているからと。そのうち、私が届け物まで歩いて行くようになりました。馬車を手放されたので」
「売った時期は覚えてるか」
「ちょうど給金が遅れ始めた頃です。日付までは、調べなければ」
ヴァンフリートは、思い出せないものを埋めさせなかった。
青年の控えを写し、法院に保全された支払記録と照らし合わせた。家主にも、前の時期の家賃を改めて確かめた。
アイスベルクの名が受任に使われ始めるより前から、支払いは滞っていた。借入れが増え、入った報酬の幾らかは、それまでの不足を埋めるために使われている。
ところが、案件が増えた後には、遅れていた支払いが幾度かまとまって行われていた。
アエミリアは、あの家の処理を頼んだ女の日付を、青年の給金の控えと見比べた。
本人も確認したのかと聞かれ、リューベックが「ええ」と答えた仕事だった。処理が終わって報酬が入った頃、青年は久しぶりに、溜まった給金の一部を受け取っていた。
「その頃は、少しよくなったのだと思っていました」
青年は言った。
「来客も増えましたし、紙を買う時に、前ほど枚数を気にされなくなったので」
ヴァンフリートは支払記録を見ていた。
青年は、彼の手元へ目をやった。
「私が受け取った金も、何か――」
「給金を受け取った話だ。お前の知ってる範囲で、聞かれたことに答えろ」
青年は頷いた。
彼を帰した後、アエミリアは机に残った写しを古い順に揃えた。
最初の仕事では、名前を出しただけで依頼が決まった。出来上がった仕事には、実際に値打ちがあった。やがて本人が確認したことになり、その確認を名目に、別の費用まで加わった。
ヴァンフリートは、仕立店で見せてもらった請求書を手前へ引いた。
三枚という額だけなら、六百枚の事件に比べて小さかった。けれど、ほかの依頼人にも同じような支払いがあり、いずれもアイスベルクへ渡すものだと説明されていた。
「名前が出るようになってから、仕事が増えています」
アエミリアが言った。
「支払いも、一時は戻ってる」
「シグルーン様のお名前が、この方の暮らしを支えていたのですね」
ヴァンフリートは返事をせず、最初の受領証へ目を移した。
そこには、銀器の返還をまとめた仕事の報酬が記されていた。アイスベルクの名は、どこにも書かれていない。
アエミリアは、その一枚を後の請求書と混ぜずに置いた。
窓の外では、法院へ続く道を荷車がゆっくり通っていた。荷にかけた布が風を孕み、紐に押さえられたところだけ深く窪んだ。
リューベックの家賃を払った金も、青年へ渡った給金も、受け取った者の暮らしへ入っていた。本人が名を使うことを許したのかという問いは、その先まで金を追うだけでは片づかなかった。




