第9話
次に名が出たのは、少し後の案件だった。
依頼人だった男は、客間へ通す前から、アイスベルクと仕事をしたことのある代言人だと聞いていた、と話した。ヴァンフリートが言葉を確かめると、男は階段の手すりへ置いていた手を止めた。
「一緒に仕事をした、と言われたのか」
「同じ事件を扱ったことがあると。私は、そういう意味に取りましたが」
「二人で受任したとは?」
男は暫く考えた。
「そこまで、はっきりとは」
アエミリアが尋ねると、リューベックは相手の理解を訂正もしなかったという。その仕事も、記録を確かめる限りでは普通に終わっていた。
帰り道、アエミリアは手帳を開いた。
「同じ事件を扱った、というだけなら、二年前のことでも説明はつきますね」
「俺とあいつだって、同じ事件を扱ってる。お前には仲よく見えたか」
「少なくとも、そういうご紹介はいたしません」
「正直な助手で助かる」
風が通りを抜け、アエミリアは手帳を胸元へ寄せた。
それでも、男が何を信じて依頼したかは書き残した。リューベックの言葉と、男がそこから受け取った意味を、同じ一文にはしなかった。
法院へ立ち寄った時、二年前のエリーゼの事件について、公開された記録と当時の報道を確かめたいと書記へ頼んだ。同じ事件にいたという二人が、外からどのように見えていたのかも知る必要があった。
それから二日、聞き取りは続いた。
ある依頼人が覚えていたのは、もっと控えめな言い方だった。
「アイスベルク女史も、おそらく同じ判断でしょう、と。確か、そうおっしゃいました」
その人は、本人へ問い合わせたとは受け取っていなかった。リューベックがシグルーンの仕事を知っていて、それに照らして判断したのだと思ったという。
アエミリアがその一語を確かめると、相手は何度か頷いた。
おそらく。
紙の上へ移すと、短い言葉だった。
けれど、それがあるうちは、まだリューベック自身の見込みだった。本人の返事を伝えたとは言っていない。
ヴァンフリートは、聞き取りを終えるたびに、案件の日付を確認した。結論の似た仕事でも、言葉の強さは同じではなかった。
アエミリアが古い順に並べ直すと、初めは遠くにいたアイスベルクが、依頼人の聞かされた話の中では、少しずつリューベックの傍へ寄ってきていた。
しかし、その間に二人が会ったという話は、出てこなかった。




