第8話
古い受任記録を頼りに訪ねた女は、リューベックを褒めた。
「よくしていただきましたよ。これなど、もう戻らないものと思っておりました」
女は、卓上の銀の匙を一本持ち上げた。窓から入る光が匙の窪みに溜まり、傾けると、向かいに座るアエミリアの顔が小さく歪んで映った。
息子の婚約が解消された時、相手の家へ貸していた銀器が返されなかったのだという。贈られた品だと言われ、どれほど説明しても埒が明かなかった。
それをリューベックが、贈ったものと貸したものに分け、当時の手紙や受渡しに立ち会った者の話を確かめて、返還までまとめた。
女は話しながら、匙の柄を布で拭った。
「母から譲られたものです。お金で済ませてくれと言われても、そういうわけにはいきませんから」
「仕事に不満はなかったか」
ヴァンフリートが尋ねた。
「ありません。ですから、新聞を読んでも、あの方のこととは思えなくて」
卓上には、その時の合意書と報酬の受領証があった。女が大切に残していた手紙も、話した内容と合っていた。
この家の名は、法院に保全された受任記録の、仕事が途切れがちになっていた頃の頁にあった。裁定官が認めた閲覧で写しを取り、アエミリアが日付を確かめてから訪ねたのだった。
「アイスベルクの名を聞いたことはあるか」
「ええ。その時に」
女は匙を置いた。
「私が、そんなふうに品物を一つずつ確かめていたら、かえって話が長くなるのではないかと申し上げたのです。すると、アイスベルク女史も、この種の案件ではまず同じように争点を整理すると」
「本人に相談した、と言ったのか」
「いいえ。そういうお話ではありませんでした」
アエミリアは、女の答えを待ってから書き留めた。
「同じ方法を使っている、と」
「そうです。有名な方でしょう。あの方もなさることなら、と思いました。それでお願いしたのです」
ヴァンフリートは合意書をもう一度見た。
実際に返された銀器は、目の前の卓にあった。暖炉の火が映るたび、磨き残された模様の溝だけが黒く浮いた。
「確かに、あいつもそうやって整理する」
「では、嘘ではなかったのですね」
「ああ。この話はな」
女は少し安堵したように、布を畳んだ。
「全部が嘘だったと言われたら、困りますもの。助けていただいたことまで、なくなるようで」
「匙は返ってきてる。新聞を読んだからって、また相手の家へ歩いてはいかんだろ」
女は匙を見て、それから初めて笑った。
アエミリアも口元を緩めたが、書き留めた言葉は消さなかった。
アイスベルクも同じ方法を使う。
その言葉で依頼が決まり、リューベックは仕事を果たし、報酬を受け取っていた。




