第11話
昼を過ぎる頃には、法院の中の空気は朝と変わっていた。
アエミリアの署名は本物である。
支払先を確かめなかったことも消えない。リーナへ、身分を用いて侮辱したことも残っている。
けれど、自分のために持参金を浪費した女という姿だけは、帳簿の上に立っていられなくなった。
金から利益を得た者が、別にいたからである。
相手方の代言人は、最後にエーリヒ本人の説明を求めた。
エーリヒは立ち上がった。
「個々の支払いについて、私が判断したものがあることは認めます」
声にはまだ落ち着きがあった。
「しかし、それらはすべてアエミリアの承認した婚礼費の範囲で行ったことです。私は当初、彼女も家のために必要な支出だと理解しているものと思っていました」
裁定官が尋ねた。
「では、なぜ婚約を破棄したのです」
「後になって帳簿の全体を知ったからです」
エーリヒはアエミリアを見た。
「支出が私の想定をはるかに超え、彼女自身も細部を把握していなかった。そこで初めて、金銭感覚の違いが婚姻を続けられないほど深いものだと分かりました」
「浪費を知った後、婚約を破棄したということですか」
「はい」
その答えが記録される音だけが、静かな法院に続いた。
ヴァンフリートは何も言わなかった。
鞄の中には、まだ和解書が残っている。
アエミリアが横を見ると、彼は封筒へ手さえ伸ばしていなかった。
エーリヒは、自分が最後の説明を守り切ったと思っているらしかった。
ヴァンフリートは机の上で指を組み、わずかに笑った。




