第12話
次に呼ばれた老医師は、診療帳を両手に持って入ってきた。
患者の名を伏せた記録と原本の照合が済むまで、医師は証言席の脇で待っていた。
朝日はその白い髪を通り、指の間に挟まれた古い革表紙の端だけを暗くした。
ヴァンフリートは、最初の夜の診療から尋ねた。
母親は高熱で水も取れず、少年が連れてきた馬車には、ヴェンツェルと従僕が乗っていた。
薬と水を使う者が部屋を出入りする間、ヴェンツェルは戸口に椅子を置かせていた。
「母親の名を、お前へ尋ねたそうだな」
「はい。年齢も、それまでの病気も御存じではありませんでした。私は息子さんから聞きました」
「後の二度は?」
「私の往診と一緒です。起き上がれるようになってからは、従僕が薬を受け取りに来るようになりました」
シグルーンが質問を求めた。
「先生が御覧になった範囲では、ヴェンツェル様は病人の救援をしていた。そういうことですね」
「そうです」
「それ以前の両者の交際についてまで、先生に分かるわけではない」
「存じません。ただ、初めて会った患者の事情を尋ねる人の様子でした」
「様子からの御判断ですね」
「はい。見ていないことまで、なかったとは申せません」
医師は落ち着いて答えた。
シグルーンが席へ戻りかけた時、ヴァンフリートが言った。
「最後に、診療とは別のことを聞く」
医師が顔を向けた。
「ペグニッツ家から、この件の聞き取りを受けたか」
「受けました」
「いつだ」
医師は、診療帳の余白に記された日付を答えた。
アエミリアが書記官へ差し出した紙には、同じ日付と、十二日後の通知の日付が並んでいた。
「今ここで話したことを、その時にも伝えたか」
「はい」
「薬を買ったという話だけじゃないぞ。母親が重病だったこと、少年が助けを求めたこと、訪問が往診と一緒だったことだ」
「お話ししました」
シグルーンの手が止まった。
彼女は証言書へ目を落とし、一枚目から二枚目へ指を移した。
「どなたへ、お話しになりましたか」
尋ねたのは、シグルーンだった。
医師は裁定官を見て、答えるよう促されてから口を開いた。
「午前に来た使いの方と、午後、ペグニッツ家のお屋敷で、お二人に」
「お二人とは」
「ヨハンナ様と、ルイトポルト様です」
シグルーンの指は、紙の途中に置かれたままだった。
ルイトポルトが椅子を引いた。その小さな音へ、傍聴席の顔が一斉に向いた。
ヨハンナは、膝の上で手を重ねていた。
シグルーンが、ゆっくり彼女を見た。
「……私が伺っていたお話とは、違います」
ヨハンナの唇が動いたが、言葉にはならなかった。
医師の開いた診療帳の上を、朝の光が少しずつ進んでいた




