第10話
午後、ルクセンベルク家の家令は、婚礼の支出を書いた帳面を抱えてきた。
ヴェンツェルはその後ろから入り、椅子に腰を下ろすなり、家令の持っているものへ手を伸ばした。
「先に言っておく。私の家の支出は、一枚も見落とすな」
「向こうの請求も、見落とさず読んでる」
「そちらは少しくらい見落としても構わん」
「お前のために字が読めなくなる料金は、前金に入ってない」
アエミリアは両家の明細を並べた。
婚礼のために仕立てたもの、取り寄せたもの、まだ返せる品物と、既に支払って戻らない金。
その区別もないまま、ペグニッツ家の請求は長く続いていた。
ヴェンツェルは自分の帳面を押さえていたが、証人の名を記した紙が目に入ると、そちらを先に読んだ。
「小姓と母親は、呼ばないでくれ」
声が静かだったので、アエミリアは顔を上げた。
「あの二人にまで、あの家の者の前で喋らせることはない」
「医者と、実際に聞き取りを受けた連中で足りる。雇用の書面は、お前の家令に確かめてもらう」
「名前も、外へ出すな」
「分かった」
ヴェンツェルは紙から手を離した。
「小姓が人前へ出ると、主人に似て愛想よく喋る。仕事にならん」
「主人は人前から逃げるだろ」
「それも仕事のうちだ」
ヴァンフリートは、ペグニッツ家への返書の控えを持ち上げた。
母親との関係を否定し、医師の名を挙げて、疑うなら直接確かめるよう求めた手紙だった。
紙の隅には、家令が届けさせた日と、受け取った者の名を記していた。
「こいつを書いた後、お前は向こうから何を言われた」
「家で調べる、と。その後に来たのが、あの通知だ」
「調べると言って、調べたわけか」
「当たり前だろう。私を疑うために金を使ったのだ。無駄になったなら、私に請求せず、自分で泣けばいい」
ヴァンフリートは返書を畳んだ。
「その程度に短く答えろ。法廷でも」
ヴェンツェルは椅子の背から身を起こした。
「私も行くのか」
「お前の婚約だ」
「だから代言人を雇ったのに」
「俺の顔で証言しても、お前に見えるほど評判は落ちてない」
「似ていると思うが」
「追加料金を払いたいのか」
ヴェンツェルは家令へ向き直った。
「法院へは、剣を持ち込めなかったな」
「入口でお預けいただきます」
「ルイトポルトも?」
「どなたも同じでございます」
「よろしい。ようやく公平な制度に出会った」
彼は少し考えてから、ヴァンフリートへ言った。
「席は扉の近くにしろ」
「勝ったら真っ先に出たいのか」
「結果が出てからでは遅い場合もある」




