第8話
法院通りへ戻る頃には、雲の切れ間から夕方の光が差していた。
アエミリアは机へ着くと、朝から集めた紙を日付の順へ重ねた。
医師の診療があり、それに沿って薬と食べ物が届き、母親が回復した後に少年の雇用が始まっている。
「不貞を直接示すものはありません」
「ないな」
「ヴェンツェル様が母親を以前から知っていた形跡もありません。支払いも、病気になった夜からです」
「本人の話より、ずっと出来のいい美談になった」
「では、破談の通知を訂正させられますか」
「急ぐな。俺たちが今確かめたのは、あいつが不貞をしたという証拠がないことと、母子を救ったという話に裏付けがあることだけだ」
ヴァンフリートは医師の診療帳から取った控えを持ち上げた。
その余白には、同じ頁を以前にも閲覧させたという短い記載があった。
ペグニッツ家の使いが、二週間前に来ている。
医師だけではない。家主も薬屋も、先に同じ質問を受けていた。夜に来たのは誰か。金はいつから払われたか。母親は何の病だったか。少年はいつ屋敷へ移ったか。
ヴァンフリートたちが一日かけて確かめた道を、ペグニッツ家はすでに歩いていた。
「向こうも、調べていたのですね」
アエミリアが言った。
「ああ」
「それなら、不倫ではない可能性にも気づいたはずです」
「可能性じゃない。医者へここまで聞けば、少なくとも奴の話と同じ答えに届く」
ヴァンフリートは婚約解消の通知を開いた。
母親の病気には触れていない。
少年が助けを求めたことも、小姓として給金を受けていることも書かれていない。
夜の訪問と、女へ流れた金と、屋敷へ移った子供だけが残されていた。
「先生」
「不倫したかどうかは、もういい」
ヴァンフリートは通知の末尾にある日付を見た。
「次は、こいつらが知ったうえで隠したのか調べる」




