バグ、そして再会
第六話です。書き方を変えました
読みやすくなったかもしれません
目前の光景を前に彼女は逃げなくてはならなかった。先程迄話していたメンバーはその胴を分断され、一人は地を踏みつけるその足が頭に突き刺さり、一人は首と胴を分たれ、食われるのだから。
巫山戯るな、と。彼女の心にあるのはただ一つのみであった。最弱のモンスター?笑わせる、アレはただ最弱ではない。その数、その硬さ。倒しても倒してもキリがないではないか。
だから彼女は走った。走らざるを得なかった。然し、奴等はそれを許さなかった。バグ。その名を持つそのモンスターはそこらの虫ではない。出鱈目に多いその数を前に、ある程度経験を育んだ冒険者さえ油断一つで死に至る。彼女のパーティーが全滅したのは何を言うまでもない。遠距離用の魔法使い職の欠落であった。それだけならいい。その上巣に挑むのは無謀でなかったか?否、疑問形ではなく、事実そうであるのだ。
「…くっ」
弓を引き、火魔法を纏わせる。彼女の放つ矢は外骨格に逸らされ、そのままその後ろのバグの目に命中した。倒れるはバグ。しかし他多数のバグは止まらない。その奥には更に巨大な何か。
「マザーインセクターまでいるの…!?」
クリーチャーバグらの女王にあたるマザーインセクター。更にその周辺には大型のバグであるクリーチャーインセクターまで見える。応戦しつつ退がる彼女も、その矢数はあと一本を残すのみとなり始めた。
最早逡巡している時ではない。どうせ死ぬならと彼女は立ち止まり睨みつかせんとした。
その時であった。後方から足音、それも明らかな人間による足音が聞こえたのは。
振り下ろされるバグの鎌。彼女を捉える軌道にあって、彼女の足は動きを止める。恐怖から?然しその身体に震えはない。助かる確信はあったやもしれないが。
金属音。彼女に瞬きはいらなかった。その鎌は手前で止まったのだから。片刃の剣が彼女の首元に迫っていたバグの前脚の鎌を斬り割いている。
「間に合った…」
***
カムラ、そしてラリア。二人が駆ける間に、絶叫は三度聞こえ、そして声は寸断された。恐ろしい事だ、そうカムラが察するに少しの時間もかからない。遅い、と知った。
カムラが走りつつも自身の足を指差す。気付くラリアは一度止まる。
「ラリア、ブーツ貸せ」
「え?」
「いいから。それから強化魔法、そして俺を風でぶっ飛ばせ。早く!」
ラリアはカムラにブーツを投げ渡し、カムラは素早く履き替えるとそのまま風にのって走っていく。
絶叫は聞こえなくなった。バグが地面を叩く音のみが洞窟回廊内に木霊し続ける。そしてコウリョウゴケがポツポツと増え始めた。奥に見える無数の影。
「…気持ち悪い…虫だらけじゃねぇか」
カムラは剣を構え、上に構えた。
「やぁああっ!」
目の前に斬り割かれんとする人の影。立ち止まる姿に苛立ちを見せつつ、振り被り乍らその人の前に立った。
「間に合った…」
鎌を斬り裂き、状況を見る。
見た事もない大きさのバグを彼の目は捉えた。
(然しあの距離…脅威とするには性急、目前の敵の方がよっぽどだろうがっ!)
カムラは左から迫るバグの首を斬ると、もう一体のバグが振り上げる鎌を先程回収したバグの腕を咄嗟に使って防ぎ、腹部に突き刺した。蹌踉けるバグ。しかしカムラの左腕の表面を裂いた。血が滴れるも、後ろの人間が死んでは意味がないと、足で後方の人を叩く。女性はそれに応えて後ろに下がり、カムラも退がる。左からのバグの頭部を左拳で叩き伏せるが、右からくるバグの鎌が脇腹を裂く。噴き出る血、然し彼の興奮状況から、痛みは鈍く、柄で眼球を潰すと、右脚で胸を蹴り飛ばし、目の前のバグの胸を体当たりで後退させ、胸を一突きにした。右腕の肩が後脚に突かれるも、関節を斬る。
そして、後方から凄じい突風が吹いた。突風は局所的にして、バグを吹き飛ばす。
「カムラ!今からデカいの行くから!退がれる!?」
「…ぐ、待て、あと少し…!」
左腕の二の腕を突かれ、それでもそれを斬り落とし、そして首を断つ。二の腕の感覚の鈍さを無理に上げ、ミスラルの短剣で胸を。足で関節を。蹴りで頭部を崩していき、そして下がった。
「天使よ、我に悪を払う聖なる風をっ!」
風魔法によって起こされた風は収束されバグを吹き飛ばした。崩れるバグの群れを横目にカムラは興奮状態の肉体が冷静さを保つ前に女性の身体を運んでいった。
回廊を抜け、再び洞窟空間に出る。
「ぐふ…き、きた…!痛み、か!くっそ…腹が立つ…」
カムラが痛みに悶えるのをラリアはその刺さった部位を引き抜き、治療を行う。それでも残る痛みをよそに、カムラは助けただろう女性の方を向いた。そして、二人は驚かずにはいられなかった。当然であった。知った顔があったのだから。記憶に新しい、昨日の事。その姿は間違う事なき。
「「お、オーダさん…」」
カムラは先程迄感じていた何故逃げなかったのか、等という怒りの感情はその顔を見てあっという間に消え去っていた。
「昨日…ぶり、ですね」
***
オーダはパーティーに属していた。二人と出会ったのは結局のところ一時的に帰省であった。サキュバスという出自は差別されやすかった。先程までいたパーティーの中でさえそれは無いものではなかった。
だが彼女を気遣う事は彼等にあった。然し、それと共に彼等は幾多のモンスターを狩り続けた中で油断があったのだ。マザーインセクター討伐の依頼は失敗、巣は攻略出来ず、その上パーティーまでも失った。
「昨日あれほど偉そうな事を言った私が…こうして不甲斐ない状態を見せてしまっている…、お恥ずかしい事です」
カムラはそれを否定した。
「いえ…とんでもない」
オーダは顔を上げてカムラを見た。
「それよりもお聞きしたい。何故私を助けたのです?」
ラリアは頭を掻いて答える。
「…えっと…実は。その、道に迷ってて。道分かりそうな冒険者は何処かにいるかなーって?」
「成程…そういう訳でしたか。助けて貰いました。ここは恩をお返し致します。貴方方を地上に」
カムラは自身の傷が無駄骨にならなかったのを感じた。やって良かった、とは正にこの事に違いあるまい。オーダは腰から紙を取り出した。地図であり、地図は一層のルートを示していた。
わかる事はやはり第五、第六区は抜けなくてはならないという紛れもない事実であった。
バグの生息域と被る以上、これを突破しなければ何らの意味も無いのである。
「俺の負傷は…どのくらいで、治る?」
ラリアはカムラの傷口を見る。傷口はやや膿んでおり、ラリアの回復魔法でなんとかその傷口が埋まっている状態だった。
「やれやれ…初日からこれとは…な」
「オーダ、私たちをこの洞窟から出せる?」
ラリアは聞いた。聞かざるを得なかった。
「出来るだけ、とはなりますが。やらざるを得ないでしょう。…もしかして、お二人はこの為に私を?」
「…!?これは、驚きました。まさかお気付きになられるとは。いや全く。その通…痛っ…あたたた」
カムラは驚き、そう反応するも、傷口が痛み、身体を倒した。ラリアは倒れ込むカムラの背を支え再度地面に倒す。そしてオーダに向き合った。
「そう。だから、お願い!昨日の誼!」
ラリアはオーダの目を見つめ、手を広げる。
「いえ、そう言われずとも、です。私とてお二人の力添えが必須となりましょうから」
「分かりました」
「俺も異論は無しだ」
意見の一致した三人はそのままキットフィール洞窟縦道を抜けた。その間オーダはカムラを背負う形となった。ラリアにはそこまでの筋力が無い為である。ラリアの代わりに次に筋力のあるオーダが適任であった。幸いにもカムラの体重はラリアよりやや重い程度、同年代の青年らよりは遥かに軽かった。
「忝い。自分も戦えればいいのですが…」
「気にしないでください。それに私に敬語を使わなくても結構ですよ?…私はもう癖ですけど」
カムラはそう言われた。然して意を決する。あまり初対面には敬語を使うのを憚るのが彼であったが、彼女からの昨日今日のお願いというものは、直さなくてはという幾らかの使命感を彼に与えるに充分だった。
「…わかったオーダ。ありがとな」
「どう致しまして」
二人がそんな会話をする間に、目の前から足音。人ではない。
彼等は第五区のローホール洞窟空間にいた。広い空間。目の前にいるは
「バグ…」
ラリアは隠し持っていた爆弾を投げた。火縄等設けてはいない。どう火を着けるか、それは彼女が最もわかっていた。
「ファィエルっ!」
然し当たらない。オーダは咄嗟に手元の矢を放った。火炎の魔法が施されたその矢は爆弾に命中。破片は散らばる。ラリアはオーダとカムラを風の障壁で守った。
「っぶな、ラリア、頼むから当ててくれよ…」
「わかってるわ、よ!」
ラリアは息のあるバグに向け、火球魔法を放った。外骨格がボロボロとなったバグには致命であり、全身が火達磨となり、そのまま洞窟の穴に落ちていった。
「次へ行きましょう!」
全速力で第五区を抜けようと彼等は走った。道中にいたのは大蜘蛛、スペライノサウルス、マクロニュクス等々。しかしカムラを早期治療しなければならない彼等にとってそれらと対峙する余裕は無かったのである。が、全速で走る彼等には更なる試練が立ち塞がった。第六区との洞窟回廊であるラケルタ洞窟回廊の寸前にいたのは
「Grrr…Roooaarrrrrr!!」
カラキドン。洞窟の名にもなったモンスターであった。
「な、何!?」
「カラキドン、この洞窟内でサラマンダーの次に巨大なモンスターです!地中を潜り……我々を攻撃してくるっ!」
その瞬間には目の前から姿が消えていた。下から音のみがら震えとなって鼓動する。
「オーダ…俺を…降ろせ!」
「何を!?」
「いいからっ!早くしろ!」
オーダはカムラを離す。その瞬間、カラキドンが地中よりその全貌を見せた。大きさは10mか。滑らかな肌、大きな前脚。目は分からないが、無いとも思える。何より色は黒。そして茶。迷彩柄といって差し支えないその体色。
カムラは腰のミスラルの短剣を引き抜き、迫るカラキドンの歯を掴むと姿勢をずらした。痛みはある。先の戦闘での痛みは尋常ならざるものだった。しかし今この瞬間どうして痛い等と駄々を捏ねられようか。
今やるべきはこの怪物から逃げる事。その為に必要な事は、
「ここを刺す事!」
カラキドンの背に短剣を刺し込む。外見通り柔らかな皮膚はミスラル製の刃を容易く通し、そして引き裂こうすれば当然の如く引き裂けた。
が、カムラもまた違和感を直ぐに覚えた。
(いや…これは違う!?)
裂いた肌だったが、手応えを感じない。カラキドンは身体を捩るとカムラを吹き飛ばした。
「コイツ、大半が脂肪分か!?」
カラキドンは苦悶の声を見せる事無く、再度カムラを見据え突進する。
しかし、その動きは止まった。後方からくる足音、先程見たその姿。
バグであった。カラキドンは何で感じたか一目散にバグに向かっていく。オーダはカムラを抱えると振り返る事無く走っていった。
後方から聞こえる激しい戦闘音を放置して。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回の投稿も同じくらい早めに投稿したいですね。
ここまで読んで頂いた方、私の作品をもう既に何度か読んだという方へ。ありがとうございます!とても嬉しいです。底辺乍らも頑張ってまいります。ブックマークの方して頂ければ嬉しいです。今回の様に投稿頻度がぐちゃぐちゃな事もあるよう気がするので。
宜しければ評価、感想等頂けると幸いです。




