ベリアシュとの話し合い
第六三話です
翌日も一行はさしたる問題も無く、過ごしていた。だが長居する訳にも行かず、かと言ってあのウリヤノへの警戒を解くわけにも行かない。そんな中で一行は奇蹟的にも邸にもう一日いる事を許された。その晩である。カムラは窓の外に不審な人物を見かけた。外に出るももう姿はどこにも見えなかった。更にポラーヴ公にも空賊がいるとの情報を受けていた。
オーダは二人を呼び出した。
「カムラの見た影は確かに人だったのですね?」
「人じゃなかったら怖いだろ」
「ここは公爵邸なんだから流石に襲ってこないんじゃ…」
ラリアがそう言うとオーダはこれを強く否定した。
「冒険者ギルド、また傭兵ギルド。傭兵はハッキリ言って国軍と比して差し支えない戦力を持つものです。それが傭兵。バラバラ等ではありません。統率され、時には軍さえ打ち破る。学びませんでしたか?193年前、ヴィュテンベルク城を攻略したのは傭兵隊長のアルブレヒトであったでしょう?」
「…ごめん、牧師様が教えてくださったのは読み書きと聖書だけだったから…」
ラリアがそう言うと一瞬空気が止まった。カムラもそんな話は知らない。史学等やる暇は無かった。オーダは強く教え込まれていた。
「そ、そうですか…。ともかく!要約すれば傭兵は相手がなんであろうが全てを相手にしないならば何者だろうが攻撃します!いえ、全てであったとしても仲間が多いなら、あぁ、そうですとも、今回はその最悪の部類になる事でしょう!」
「…それは本当か」
「これで嘘はつきません。まぁ私も四年前に初めて入った冒険者パーティーが傭兵らとよく絡んでいたので経験則もありますが」
「なら信憑性もお墨付きだ」
「そう思ってください」
三人は頭を抱えた。本格的に危険かも知れないからである。オーダも最初こそは屋敷を安全圏と決め込んでいたがどうも違うという事実を聞き、話が変わってきた事を悟った。
「最悪は抗争に巻き込まれる可能性もあります」
「目的は本当に報復か?」
「私もあるかも知れません」
「人質か。ほれ見ろ。実力で返さざる得なくなった」
「今回は是非とも自衛と称して欲しいですが」
カムラは万が一に備える様になった。ポラーヴ公ベリアシュもこうなればとやけでも守り切る構えをみせた。
二人との会話が終わった後、カムラをベリアシュが呼んだ。
***
公爵の部屋は針葉樹の木材で作られた部屋であった。
「失礼致します」
「入れ」
カムラは部屋へと入っていく。
「貴公がカムラか」
「はい」
「新聞で見たぞ。キメラを半年に満たぬ冒険者の身でありながら討伐致したと。天晴れよの、天賦の才の持ち主か?」
「まさか。仲間がいましたから」
「そうかそうか。…何をしておる。座れ座れ。余が言ったのじゃ、先に座ったとて誰も咎めぬ」
カムラは礼をして、その白いソファに座った。ベリアシュも向かいに座る。
「まぁ、貴公が思っている通り、呼び出したのはこの様な話をする為ではない」
ベリアシュの言葉にカムラも神妙になった。予想は既に付いている。だが、カムラにどうしようという判断も又直ぐには難しい。カムラはそこまで全てを知る訳ではない。迷惑はかけまいと去るか。だが仲間を思うならば残るのが吉であろう。策を講じるにしたとてこうも早くでられては対処のしようもない。さてどうするかと手を拱く間にここまで事態が動くとは誰が想像できようか。
「それとも気づいてはいないか?」
その言葉を聞き、カムラは我を取り戻した。
「いえ、恐らくはウリヤノフの事だと推察致します」
「如何にも。ならば話は早い。気構えるな、何も其方を追い出すとは言わぬ。だがこうなった手前、貴族の意地にかけて守らねばならん」
「ご迷惑ではありませんか」
「迷惑至極!」
ベリアシュはハッキリと言った。包み隠さぬ言いようは気持ちよくもある。
「だが、起こった事は仕方なしかな。オーダ嬢より原因の仔細もお聞きした。その上で、やらざるを得んと考えたまでの事」
「ありがとうございます」
「もし、来るとするならば市街やも知れぬ。その時の話をする。時が来れば、竜騎兵をここに呼ぼう。その際に各々にはある程度応戦して貰わねばならぬ。しかる後に騎乗。南下し、マゾフシェにまで行けば、そこから馬車で送る、どうじゃ」
そうなる事で四人は生き残る。そう言いたいのだろう。だがカムラにはこれは認められなかった。それでは解決には、解消にすらならない。逃げるだけ。それも直ぐに追いつかれるかもしれない。比喩の無い、文字通りのただの逃避行。
「お断りします」
カムラはキッパリと言った。
「そ、それは何故か」
ベリアシュもまさかという答えに驚きを隠せない。
「こうして匿って貰った手前、おめおめ逃げる事は自分を殺すほどの恥辱だとは思いませんか。それにそれだと逃げるだけ。一番の方法は正面堂々膝を屈させるのが一番だと」
「ヒサジロウの様な事を、言う…」
その時であった。部屋に家臣が駆け込んできた。
「どうした!戸を叩け!」
「失礼!申し上げます!」
「く、苦しゅうない!」
「ウリヤノフを名乗る傭兵らが突如街を襲い、ここを包囲せんとしている様子!開門とカムラの身柄引き渡しを要求しております!」
ウリヤノフが本人が直々にやってきたのである。
問題起こすのが早い!と、自分でも薄々は思ってるんですよね。でも傭兵がそんな簡単にカムラ逃すというと辻褄が合わなくって…。




