バフォメトの解体
第五四話です
ハイウルフは突然現れた呼ばれざる者に本能的に脅威を感じ、敵意を露わにした。当然であった。バフォメトを殺しながらきたのだ。この森の中自分達でさえ狩るのに一苦労するバフォメトをたった一匹で狩れるのだ。熊と同格の脅威を感じざる得ない。咄嗟に吠えた遠吠えは辺り一帯に響き渡り、仲間を呼び寄せる。既に三匹の群れであるがこれでは足りない。到底足りない。だからこそより多く、より確実に。
「な、鳴き声!?」
カムラも再度構える。バフォメトの革と角は何が何でも渡す訳にはいかない。向こうから来ないのであればそのまま下がるのみ。だがそのバフォメトの亡骸に手を触れようとしてハイウルフの唸り声が聞こえた。カムラは手を構えるが足元の音を聞いて手を下げた。枯草である。引火すれば大惨事になりかねない。カムラは剣で突貫したとびかかるハイウルフの下顎を殴り、右左両方からくるハイウルフは三歩さがって回避、右のハイウルフは蹴り飛ばし。左のハイウルフの首を目掛けて剣を唐竹割に振り下ろし、両断した。正面からくるハイウルフは口を開いたところをその口腔に剣で一突きし、もう一匹には馬乗りにされるものの、横倒しになってみせ、そのまま持ち上げて投げ飛ばした。だが再び立ち上がってカムラを攻撃しようとする素振りを見せた。しかしそれもどこからともなく飛翔した矢によって貫かれた。
「大丈夫ですか?」
オーダの矢であった。
「あ、あぁ。運が悪かったらしい。まさかいると思わなかった」
「でも仲間を呼ばれた」
「そうだ。何とかしなくっちゃあな」
カムラはそう言った。一行にとって必要だったうちの一匹はそれでもやっと手に入ったのだ。先ずはそこを喜ぶべきであろうか。既にトルンガはバフォメトの亡骸に刃を入れている。
「まるまる一匹なんて初めてだぜ!まともに買ったらいい値打ちがするんだ、実に良かった…!」
等と独り言、鼻歌交じりに解体していく。
「トルンガ」
「あぁ?」
「アンタゴブリンらしくないなぁなんて思ってたけど、その姿はゴブリンだわ」
「どういう意味だお前!」
「悪かった、言わずにはいられんかった」
「今回は髙くつける事にするか…なぁ移動してくれないか」
トルンガはそう提案した。見れば血管が幾つか見えている。
「血を抜くには川の水が必要だ。ネッツェ川の支流がある筈なんだ近辺にな」
「俺運ぼう」
「いやカムラはそれでいいのか?戦い難くなるぞ」
「どうせ最後にゃ重いもん背負うんだ。オーダ、前衛を」
「任されました。行きましょう」
オーダの歩みに合わせ、一行はその場を去った。カムラはその前に肉をここに置いていった。更に至る所に配置されたのはバフォメトの亡骸の腸に詰まっていた排泄物であり、強烈な匂いは一行の匂いを撒くのに最適であったのだ。
***
トルンガは川の水で血を洗い流し始めた。カムラは手を念入りに洗う。手元が排泄物まみれの為、列の最後尾に置かれたのはカムラであった。合理的ではあるがラリアは嫌がったのである。オーダとトルンガはそんなカムラを慰めてはいたが。
「カムラ、ミスラルの剣貸してくれるか」
「あぁ、わかった」
カムラは鞘に仕舞ったまま受け渡す。トルンガは引き抜くと先ほど開いた腹を更に広げ、足を斬り落とし、腹部から内臓をゆっくり引き出していく。
「かなり急ぐんだな」
「放置すると固まってくるからな。防具屋はな、あんまりやらないが洞窟内でも即興で素材を集める事がある。だから解体も覚えるのさ」
丁寧に筋肉と革を剝がしていく。精肉屋でも生きていけそうな手捌きだとカムラは思ってしまった。だが当のトルンガは集中している。こういった人間の作業は黙って見る方が良いであろう。トルンガは革の手袋を嵌めると筋肉を部位に分けて慎重に取り出す。バフォメトの魔力は膨大であり残滓があった場合はバフォメトの場合電撃が通り最悪は感電する恐れがある。その為に特に首元の肉には素手ではなく絶縁質の素材が適切なのである。バフォメトの革を完全に取り出した後は水につけて血を流す。水だけなら問題ないが冷たい水で洗い流す事が重要であり、魔法によって作られた水は適さないというのは彼等職人達にとっての共通する考えであった。とはいえ、腐らない様にラリアには火をつけてもらう必要があった。燃え難くした上でダニを寄り付かなくする役割があった。
「これで良し」
日も徐々に落ち始めた。この森の中で夜間に活動するのは危険である。
「ここだとあの魔法陣使えないよう」
「あれって空につくるんじゃ?」
「私にはできないんだよ」
「あ、そう、それはすまん」
「それで気ぃ使われる方が傷つくから…」
「じゃあ覚えろ」
「極端だけどそっちの方がいいや」
オーダはその間に数本の木を持ってきていた。
「おお、持ってきたか」
ラリアはそこに火をつける。川辺と言うのもあるのか昨晩よりは開けており、より警戒はしやすくなっていた。だがそれ故に恐ろしさもある。本格的な夜であった。
読んで頂きありがとうございます!
動物の解体ってこんな感じなんでしょうか。わからないですが、リアルに書けていたら嬉しいです!




