初めての地上探索
第五二話です
暗い中を馬車は進んでいく。ベイドゴベスへ向かうのだ。そもそもオストシュヴァルツヴァルトは濃い森林帯であり、元々から森林帯であったのを八世紀から十一世紀にかけて木材を目的として更に植林し、現在に至る。だが度重なる戦争によって長く放置され、現在では旧ルートさえ不明確になってしまった。またこれが為に身を隠す場所を得たハイウルフやバフォメトが繁殖。一度入れば生きて帰れないと言われるまでになったのであった。原因こそ人間が作りけれ、ここまでに拡大したのは予想外であった。十五世紀初めに行われた再調査では放置していた約四百年間で想定の倍まで森林が拡大していた。また本来利用される筈だったにも関わらずそれが行われなかった事も大きい。昨今は伐採速度が年々増えつつあるが、東洋から持ち込まれる木材の質にいかんせん劣っており、完全な消滅には至らないとされる。
「凄い密林だが…」
「先ず野営地を決めましょう。寄り道は昨日まで。ここからが私達の目的そのもの」
「じゃあオーダ索敵お願い」
「私ですか?」
「うん。私は対熱感知障壁作るから。カムラはオーダと一緒に索敵を。トルンガは焚火を焚いてくれればいいから」
周辺からは狼の鳴き声が聞こえる。通常よりもより高く、より長く遠吠えた。
「これは?」
「ハイウルフですね。そう遠くもなさそうですが。ですが彼らの嗅覚は半径300mの範囲内。この感じは500、600mはありそうです」
カムラは剣を抜いた。両刃剣はカムラは初めて使う。無論使い方を知らない訳ではないのだが。
「下手に動くと寧ろ勘付かれます。ここはジッとしておきましょう。向こうから近付いてくれば結局は戦う事となるのです。今焦ってもしょうがない」
オーダは静かに手元のクロスボウに矢を掛けた。その音は僅かであった。金具を手で落とし、音を立てない様に固定具に置く。
カムラはオーダの肩を叩くと後ろに回る、と手で示した。
ラリアは地面に魔術書通りに線を引いていく。
「お嬢ちゃん、今から使う魔法ってのはそんな古典的な奴なのかい?」
「いや、そんな事はないみたいなんだけど、常時展開だから私はこれがいるかなーって。あ、因みにこれやると寒くなるよ」
「言うのが遅いなぁ」
ラリアは円状に術式を完成させるとその古セイロパ文字を使って書いていく。そして杖を陣形の中心に置いた。
「えーっと、えと、成程、詠唱はこれね」
ラリアは咳払いし、詠唱を始めた。
「神よ我が身に守りを。悪魔から身を隠す術を、人を救う術を。聖なる風と冬をもって一時なれど人々の姿を隠し給え」
周囲に風は吹き、それは幻影の様に、外から見た彼等の姿を隠してしまった。
「おぉ!」
「どうも陣形がいるっぽいし、こういう拠点隠しの時にくらいしか使えないけどね。それに薄くなるだけで近ければ気付かれるよ」
「なんだ不便だなぁ」
そのまま三人は交代で休息を取りつつ、二時間程が経った。朝日はやがて登りつつあった。黒の空は少しずつ橙の灯火を持ち始める。だがそれもその奥の青い空に飲まれていく。
「朝…か?」
折角展開した陣形も、朝日の元には意味もない。
「あ、もう朝!なら解かなきゃ!」
「そりゃなんで」
その質問はカムラが答えた。
「俺たちがやる事は?」
「あぁ、バフォメト探しか」
「そゆこと」
トルンガも納得し、立ち上がった。
「ヒグマとかにあったらとんでもないがなぁ」
「なら倒せばいいのよ」
ラリアは簡単に言ってみせるが、誰しもそうはいかないのである。
***
森は至る所の雑草と低木、更に木の根によって非常に進み難くなっていた。
「アムールの剣を折ってさえいなきゃこんな苦労は無かったってのに…」
「もし帰省したら作ってもらう?」
「あぁ!是非ともそうしたいねっ!!」
カムラはその両刃剣で低木の枝を切り裂いていく。厚みのあるアムールの剣に比して今カムラは使う剣は力が入り難く、思い切った斬り方が出来ない点でカムラは怒りを募らせていた。壊れる事こそ仕方がないにしろ、いる時に無いのが一番困ると言うのはカムラがよく思うところにあった。
「斬撃の練習になるんじゃありません?それで斬り難いというのはカムラがいつも力任せに斬りつけている証拠ですよ」
「ほぅ!ならオーダがやってくれ」
「いいでしょう。任されました」
オーダはカムラから剣を受け取ると、足元の低木に刃を入れた。引く様に動くその剣筋は容易く低木を両断してみせた。
「な、成程…確かに…」
カムラはこれには言葉を続けられなかった。やってのけられた以上、彼がやらない訳にはいかない。
「斧と剣は違うとあれほど…」
そう愚痴りつつもオーダの見様見真似で斬ってみせる。切るのではなく、斬る事が出来た。
「こんな感じか?」
「えぇ、そうですそうです!できるじゃないですか!」
「……前は他人行儀だったのにいつの間にか…」
ブツブツと文句を呪詛が如く垂れ流しつつも、黙々と作業をこなしていく。
「上達が早いのは良い事です」
オーダはそう言う。バフォメトが多いというその中央に一行はあと数歩にまで近付いていた。辿りつくやも知れないのであった。
読んで頂きありがとうございます!
久々に冒険者らしい感じですね。というか本来はこういう話であった筈では…?初めての地上探索、冒険ですね!ここからどんな話に発展していくんでしょうか…!
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