東にあるのも黒い森
第五一話です
一行を待たせていた衛兵らであったが、十数分程経ち、正面に再度あの衛兵が現れた。更には馬車。どうも四人を待つようである。
「Es wäre wohl ratsam, diese Forderung an jene Schiffsbesatzung zu richten, nicht wahr?」
船員たちは途端、これを拒否した。
「Halt, warte! Das geht doch nicht!」
当然である。彼らに有り合わせの所持金など無いのだ。カムラはいたたまれなくなって、一言、すまん、と漏らした。一行はこの好機を逃すわけにはいかないのだ。
「Es erging der Befehl, die Forderung an den Staat zu stellen. Nimm mir das nicht übel!」
船員たちはそんな、と膝をつく。持ち金の無い彼等は当分ここで足止めを食らうのだろう。四人は馬車に乗った。
「Nun, ich habe Euch mancherlei gesagt. Doch wünsche ich Euch eine glückliche Reise, Fräulein Oder」
「Ich werde wohlbehalten ans Ziel gelangen. Haltet mich in Euren Gebeten」
衛兵は手元に十字を持った。せめてもの、と一行に祈りを捧げた。
「Gott sei mit Euch」
馬車は走り出す。駆け出す馬はそのまま進んでいき、三人をポラーヴ公のポラールに連れて行くのであった。
***
馬車はポーゼンの街並みへの感傷に浸る暇は与えず、時間を掛ける事無く進んでいった。それ故に到着したのは翌日の午前二時あまりにも夜遅いが、先ずはポラーヴ公に会うべきであるという意思は纏っていた。ポラーヴ公ベリアシュ二世である。彼はサッカバス伯オーダ一世幾らかの交流を持つ事で知られているが、その当てがポラールであったという事であった。安く済んだのは大変良かったが、予定より二日の遅れになりつつあった。
「ポラーヴ公はブリトン語話せるんだよな?」
「えぇ。今回は安心してください。ここはサッカバスと同じ文化圏。それ故に言葉も通じましょう」
「そりゃ便利だね!」
「俺の住む地域ではこうはいかんぞ」
「そうなの?」
「そうだとも。セイロパ系言語だからな」
トルンガの民族であるゴブリンはカルタノ帝国に近い故に言語もセイロパ系であった。また元々ゴブリン自体亜セイロパ文化と呼ばれる体系の中で最も原種に近く。その歴史たるや同じサピエンスである筈のアウス民族やクフ民族よりも古い。アテナイの時代、ゴブリンから奴隷にされたのは有名な話、カルタノ共和政時代、元老院にゴブリンがサピエンスと並んで多かったのも有名な話である。
正直一行はかなり眠く、こうして会話もせねば倒れこみそうなものであった。更に付け加えれば、順調に話が進んだ場合更に移動をするが、その場合は森に入る事が決定的となる。ともなればおちおち寝てもいられなかったのである。
「誰か」
ポラーヴ公の宮殿を前に衛兵が呼び止める。
「オーダと申します」
「オーダ…令嬢か?」
「いかにも」
オーダはそう返した。首元にあるブローチがその証明であった。
「なんと。この様な時間に到着されるとは。船での到着であると聞いていますが」
「仔細あって困難となり、ポーゼンから馬車で来たのです」
「それはそれは。御足労を。ささ、中へ、後ろの者はここで待たせておきましょう」
「いえ、入れてください」
「は?」
「仲間ですから」
「は、はぁ」
門番は一行を通した。カムラは思わずオーダに聞いてしまった。
「もし俺らが嘘をついてたらどうする気だったんだあの門番」
「さぁ?ですがその幸運に今回は甘んじましょう?それともカムラは盗人ですか?」
「まさか。自力で回収する質でね」
「なら結構。素のままでいれば問題ないじゃありませんか」
「それはそう…だがな」
カムラは歯切れ悪く返した。実際には心内で疑われていないか案じていた。実際には衛兵とて門番は眠く、彼に至っては本来の当番が体調を崩した事で本来の任務時間を超えて立っていたのであり、相当な疲労の故に一行を難なく通したのであった。結局のところ疲れこむのはカムラらだけではないのである。
「ベリアシュ様は只今休まれております故、このヤンにお申し付けいただきますよう」
「では単刀直入に。オストシュヴァルツヴァルトへの侵入をお許しいただきますようにお願いしたく参上いたしました」
「なるほど、では目的は狩り?」
「そうです」
「期間は?」
オーダはカムラを見たが、カムラにそんな知識はなく。カムラはトルンガを見た。
「俺ぇ?」
「わかんないから」
トルンガは咳ばらいをした。
「えっとですね。中央部にバフォメトの生息地がありますね?そこで大凡三頭程度を目安に採集したいと」
「わかりました。そう言った話であれば私に処理が任されております。つまり冒険者としての仕事ですね?」
「そうです」
「それ前提であれば、注意点をお話せねばなりません。他の冒険者とは争わないでください。東黒森は公爵閣下の直轄地です。1セレンティを支払ってもらわねばなりませんが」
「ペルニヒとの交換で良いなら。10000ペルニヒですね?」
こうして一行は遂に黒い森に足を踏み入れる。目的はバフォメト。そして何よりは装備である。
読んで頂きありがとうございます!
少し書くのが遅れてしまいました!すいません!中々内容が…
次からはいつもの展開に戻ります!




