逃げ切りは
第四九話です
客室に船員がやってきた。その顔は切迫している。
「アンタら!」
トルンガがこれに応じた。
「縦回転するんだな!?」
トルンガがそう言う。船員がこれに頷く。
「これを!」
するとロープが渡された。先には金具がついている。
「手すりに身体をそれで固定しろ、いいな!今から一気に下に落ちる!だから身体保持できなくなる!説明はわかったか!?」
「いや待て一体どういう事を…」
カムラは更に聞こうとしたが、ラリアがカムラの口を押える。
「んんーっ!!」
「今は質問してる場合じゃないでしょ!」
ラリアは船員に向き直る。
「わかりました!固定すればいいんですね!」
「そうだ!オーダ様、三名を頼みます!」
「任されてください!」
第一層の砲列甲板には既に船員が右舷に集まって火薬、引火性の高いコットンで詰め、小さな弾頭を更に詰め棒で押し込む。
「準備よーし!」
「こっちも出来た!早く!」
それを聞いた連絡員が腕を上げた。二人目の連絡員が金属板を叩き、舵を取る操舵手に伝わった。機関員はレバーを思い切り落とした。そして操舵輪を回した。船体は大きく傾き、舷側部が上に向いた。放たれる火砲。小さな弾頭が次々に空賊であろう竜騎兵に迫り、数騎の竜騎兵のドラゴンの翼、尾、または騎手の頭部、胸部に命中し、撃破した。そのまま船は降下していく。残された四騎は落ちていく船を見下ろした。
「船が降りていくぞソロモン」
「俺に言うな。隊長はどう考える?」
「こっぴどくやられたな!今回も。クソ、やってられん。やはり適当に集めたメンバーはダメだな。俺たちは拠点に戻るぞ。ニコライの仇だ!絶対に逃がさん!」
「それにオーダだろ?貴族令嬢相手に金を取れるチャンスだ。そうだ、アイツらも使おう。山分けになっちまうが仕様がない。な?
ウリヤノフ」
ウリヤノフと呼ばれた男は顔に悔しさを滲ませながら竜の踵を返して戻っていった。
***
船は勢いよく降下していく。雲を突き抜け、更に降下していく。船は船首を少しずつ浮き上げた。船体の軋みが聞こえ、攻撃された各部から木製の表面が剥がれていく。何とか船体は水平になっていくが強く船内の人員は壁に叩きつけようとする力を全身に受け、必死に体を支えた。一方の船体は遂に水平を取り戻した。一気に身体が下に叩きつけられる。
「いった…っ」
窓の外を見ると地面とは直ぐ傍の高さにあった。何とか船を上昇させていたが、船員達には更に問題はあったのである。それは船体のダメージであり、船体の状態はとても褒められた状態になく、外板がところどころ剥がれ落ちていた。急降下時に破損していた外板がその勢いに引きずられて剥がれ落ちたのかもしれない。
戻ってきた船員らは明らかに疲れ切っていた。一人がオーダを呼び出した。
「オーダ様」
「はい」
オーダは身体を縛るロープを外し、船員の元に行く。
「船体の損傷激しく、雲上に再度戻るのは危険と判断します。空気が足りず、このままでは船内の空気も不足します。また船員の何名かは急降下で頭痛を訴えており、かくいう私もやや。鼓膜が破れたものが六名、気絶したものが三名。更に戦闘で旋回時に頭部を強打した機関士が一名」
「頭部を強打したものは無事なのですか」
「一命は取り留めた様ですが血流が回復した事で出血が激しくなりつつあり。船医が緊急で処置を。また船尾楼の被弾で船底の姿勢制御板の一枚が破損。左舷の砲門一つも大破しています」
「となるとこうして航行できていることが奇跡、ですか」
「ヴィーラント帝国の警備船が捕まえてくれれば良いのですが、いかんせんスループでありまして、エーテル遠隔通信は困難。この場所もかなり不明でして恐らくは東経12度、北緯49度から50度の付近ではないかと…」
「そんなに速く?」
「速度計は振り切れていました。恐らくはドラゴンの巡航速度程が出ていたかもしれません」
「降下の加速で…」
「はい」
カムラはゆっくりと身体を起こす。そしてラリアとトルンガを起こすが、トルンガに声をかけるも返事はなく。耳が聞こえ難い様であった。ラリアは足元がふらつく様で、相当な航行をしたのだと理解した。
「凄い速度だったのか…」
オーダ達を避けて船内を回る。ごちゃごちゃになった船内を清掃しようと既に幾人かの船員が動き始めていた。第一層に上り、状態を見ると、ウォールガンが設置してあったろう銃座の外板が剥がれ、強い風がカムラに当たっていく。
「風強…」
カムラは思わずそう呟き、更に後ろからカムラを呼ぶ船員の声が聞こえた。
「おい!」
「はい!?」
「そこは危険だ!下がれ!封鎖だ封鎖!」
魔力障壁による応急処置が行われたが事態に変わりはない。舷側部の火器類を片づける船員で甲板は忙しない。艦橋の状態を見る気にはならないが、甲板は風が良く吹き抜け。周囲の街並みが良く分かった。カムラらを珍し気に見るものばかりである。
「それもそうか」
一難去ってまた一難とはこの事、とカムラは思った。
読んで頂きありがとうございます!
逃げ切りには成功しましたね。でもやっぱりというか、なんというか。問題を連れてきたのはカムラ、であっているのか。でも逃げ切れたのだからいいでしょう?
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