スクブスから離れて
第四七話です
屋敷に戻った三人は結果的にはカムラの身体を安静にする事になった。回復も受け、さして力も衰えやぬカムラにはあったが、問題はそこには無かった。先程の冒険者パーティーは無名ではあったが一人、良くも悪くも名を持つものはいたのである。それは大男の隣にいた男。カムラは全く気にも留めなかったセリアンスである。
衛兵が背後姿だけを見て気付いたようであるが、その男はあろう事か傭兵である様で、ユカルギルドの傭兵部門では一昨年のダヴリーダのアフチアル要塞攻略戦に際して優秀な戦績を納めたが同時に教会の若い修道女を拉致、強姦。聖教会によって懸賞金がかけられた男であり、教会から背信罪、唯信罪、強欲罪、としてかけられている。名はフィリクス=オレーゴヴィチ=ウリヤノフ。無論カムラからするとカトリックの話がどうこうと言えど少なくとも冒険者自体カトリック的にはグレーなのだから一概にカトリックの仲間をする事も難しいところにはあった。だが、それ以上に報復という点でオーダは危険視をしていたのだ。
これに加えて。
「実は面白い事があってね!」
「何だ?」
「オーダのお母さんが専用の船で私達をオストプルーセンまで送ってくれるんだって!」
カムラはほほう、と喜びつつ、驚きも示した。更に。
「はい!」
ラリアの手には金貨があった。1500000ペルニヒ分の資金である。
「く、くれる?」
「その通り!」
カムラは迷った。他人の手を借りるというのはいかがなものか。自らの手でやらない今に意味はあるか。だがこうも考えた。オーダが了承したのだ、自分にもまた否定する理由はないのだろう、と。
「これでオストプルーセン、基ポラールまで行きます」
「なんかね、ポーゼンもあるんだけど、オーダのお母さんはダーダルス帝国につてがあるんだって」
「歴史的な理由です。元々サッカバス辺境子爵領だったのですから」
「あぁ、例の」
「そうです。ですからこのまま何も無しに進発できるならばこした事は無いのですが。衛兵が見た者がもしウリヤノフならば出航の時、いえ、今にでも来るかもしれない」
「流石に出発が遅れるってのは難しいと思うんだがな。そしたら予定は更に遅れるぞ」
これはラリアも考えざるを得ない。一人の問題ではないのだ。
「別にお金の問題は…そうか、時間か。成程、確かにそうかもしれないわ。なら、どうする?」
「ラリアさんはどう思うんですか?」
「私?…このまま何もないならないでよし、あるなら、来るなら来いってとこかな。見つけようも無いんじゃない?」
「俺はラリアに賛成。つーか怪我したし」
「ならここの意見は決まりでしょうか」
そこに丁度トルンガもやってきていた。
「よぉ」
「丁度いいところに」
トルンガはカムラを見る。
「喧嘩したのか。いつぞやみたいに決闘か?」
「ならこんなに痣はねぇ。つーかそんな事はどうでもいいんだ。あのな、ポラールに行く目途がついた」
「おぉ、そうか!」
トルンガは随分嬉しそうである。またトルンガはもう一つをカムラに頼もうとしていた。
「この際ついでだから頼まれてほしくてな」
「ん?出来る事ならなんでも」
「バフォメトの角も欲しい。お前らみたいな客を離すわけにはいかなくてな。小杖を作ろうと思っているんだよ」
ラリアはそれを聞いて不思議にも考えた。小杖というとユグドラシルやイッカク、東洋の樹木で作られるものの筈である。
「あれ、バフォメトの杖とか聞いたことが無いんだけど?」
だが、トルンガはどこまで行っても鍛冶屋。当然この質問に返す答えを既に持っていた。寧ろラリアの質問はトルンガをして、よくぞ聞いてくれたというよい質問であった。
「バフォメトの角は確かに真っ直ぐじゃない。形だけなら向いてない。だが、バフォメトの性質から考えるとその角の魔力伝導性たるは言うに及ばず。杖の素材としては本来ならばもってこいだ」
トルンガはそう言って説明を終わらせた。カムラがこれを断る理由は無かった。特段とこれ自体はバフォメトを狩って、ついでという形にせよ採取してまえばよい話であったからだ。楽な話である。
「任せろ。そんなのついでもいいとこだ」
「角売って換金…はそうでした…お母様から」
「そう、だから後腐れなく採取できる」
***
翌日。カムラの傷は未だに癒え切った訳では無かったが、どちらにせよ時は来た。出港の時である。エーテルシュタットにまで馬車で移動し、港に着く。カムラは出発前に衛兵に12000ペルニヒを渡した。
「自分らが泊まろうとしていた宿の人にこれをお願いします」
「それについてはこちらから払ったが」
「なら謝礼として」
「…わかった。伝えておこう」
「ありがとうございます」
「律儀だな。だが昨日はそれが仇となった」
カムラはそう言われ、頭を落とした。それは事実だ。それ故にこの様な形で謝罪しようと考えた。
「気に病むな。アレは例外中の例外だったのだ」
「そう言ってくださるなら自分も心が晴れるというものです」
「さ、時間だ。お仲間ももう待っているぞ。お嬢様もな」
ラリアにオーダ、トルンガは船に乗ろうとしていた。オーダは二人を先に行かせ待っている様にも見える。彼女にも別れを告げねばならぬ人がいた。アデリンデ、そして何よりもオーダ一世である。貴族へではなく母へ妹へ別れを告げねばならない。
「衛兵…」
「ホルストでいい」
「ホルストさん。ありがとう」
カムラはそう言って船に乗った。階段を登り、オーダの肩を叩く。オーダはカムラに頷いてそのまま船内に入った。船と言ってもその実はスループ。全長34m程度の艦艇であったが。周囲の空気を押し出し、浮き上がる艦艇。オーダはいつまでもいつまでも己の故郷を雲海の下に見えなくなる時まで見下ろしていた。彼女にとってこんな別れになるとは思わなかった、またいつか等と思える時がこようとは。
読んで頂きありがとうございます!
スクブスを遂に離れる事になりましたね。色々話作ったから体感めっちゃ予定狂ってそうですが、今んとこそんなに狂ってないという…だから予定通り出発できた、と。遂にバフォメトでしょうか




