オーダの決断
第四二話です
オーダ一世は窓の外を見ていた。若くして夫と継承争いで刃を交え、そして結果として未亡人となったオーダ一世にとって、骨肉の争いの絶えない時代に娘を産んだ事は娘にとっても不幸な事だとわかっていた。然し同時に貴族であり、統治者であるが故に後継が必要だった。名付けでさえそうである。同じオーダの名を与えるのはアマデウス家の継承を民に示す為。名前さえ自由には与えられず、時代の柵に囚われ、其の上逃れられない。
「お母様」
そう物思いに耽っているとドア向こうから声が聞こえた。
「入りなさい」
オーダは母の元に向かった。そこにいたのは先程までの厳格なオーダ一世としての姿ではない。母親としての姿である。その目はどこか優しさを持っていた。
「お話したい事があります」
「…なんとなく、察しはついている。冒険者の事だろう」
「では単刀直入に言わせてください。私はまだ他の皆さんと一緒に旅がしたいんです。許していただけませんか」
オーダ一世はオーダに近づいた。
「ダメだ」
オーダ一世はたった一言そう言った。だが、更に付け加えた。
「と、言ったらどうするつもりだった?」
「…それは」
「こう言われて言葉に詰まるのは家を出ていった七年前と何も変わらない」
「それは、そうですが…」
「自分の意思で理由を言えない限り、それは自由意思足り得ない。それともお前にはそれを代弁してくれる人がいるか」
オーダは言葉を詰まらせた。自分は主体的ではなかったのだろうか。確かに、周りの目を気にしていたのかもしれない。そうやって生きる方が楽だからかもしれない。だが、あの二人の中で三人目だった時は?頼られた、必要とされた。でもそれは身分とは関係のない話だ。ではそれが全てではないか。それこそが。
「私の自由はないとしても。それでも瞬きでも、自由をください。私にはそれが必要です。世界を自分の目で見たい」
オーダ一世から言葉は紡がれない。一瞬の静寂。絞り出した理由。こんなの建前だ。本心で言えばそれは違う。自由でありたかった。妹に押し付ける気でもいた。身勝手だ。あの二人のイメージとは程遠い。身勝手で我儘。何時までたっても子供のまま。だが、せめて得れる自由だけは。どうしても。彼女はそれを思った。
「いいでしょう」
「…え?」
「私も色々と言い過ぎた。だがこうして冒険者として名をあげ、そして功名が挙がるなら先祖にも堂々と顔向け出来よう。案ずるな。アデリンデはこの答えを察していた。だから私も引き戻さなかったのだ」
オーダ一世の答えは意外なものだった。元より彼女はこれを咎める気は無かったのだ。ただ唯一、オーダ自身がこれを後悔していないかが心残りだった。これで戻りたいというのであれば許されない。それ故にスクブスに来た時は正にその話だと身構えた。だが、オーダは仲間と共にいた。それ故に、既に居場所を別に見つけたのだと理解したのだ。
「答えが決まっていたとは…」
「許せよ。その口からどうしても答えを問いたかったのだ。それ故このような真似をとった」
***
この事を盗み聞ぎしていたのはそのアデリンデであった。
「…という事ですわ」
カムラはソファに腰深く座り、腕を組んだ。
「ふぅ。って事はなんだ?とんだ茶番だったと」
「うぉ、カムラ結構遠慮ないね」
「あ、しまった」
アデリンデは苦笑しつつもカムラのその理解を否定しなかった。
「その理解で、結構でしてよ。申し訳ありませんわ」
「いや、これは自分も口が過ぎました。深く反省せねばなりません」
「カムラさんは目上の方への言葉遣いが形也にも成っています」
「それは皮肉で?」
「まさか。本心でしてよ」
カムラは咳払いをする。本心とは言われたがそれがどこまでかはわからない。少なくとも決していい発言出なかったことは確かなようだ。
「というかオーダとは随分話し方が違われる。これはどういう事なんでしょうか」
「お姉様は言葉の作法を知る前にここを出て行ってしまわれたから…」
「オーダって結構わんぱくなんだね」
「おぉ、そうだな。成程、これは理解できたぞ。引かれあうんだな」
「え?」
カムラは不敵な笑みと共に言葉を続けた。
「似たもの同士引かれあうって事さ」
「…どういう意味かなぁ?」
「そういう意味だよ」
少しばかり睨み合う二人を見てアデリンデは笑った。仲が良さそうだ、というのかも知れない。
「そう言えば最初に会った時オーダはアイヴァースの生まれだと言ってなかったか?」
「それは恐らく。お姉様はアイヴァースにお母様がまだお父様といられた際にその訪問の際に生まれましたから」
「成程」
「そんなこともあるんだね」
「私はだからお姉様がアイヴァースに行かれたのだと思いますわ」
「だから?」
アデリンデは深くため息を吐いた。
「そしたら自分がわかる様な気がしましてよ?私も時々同じような思いをする事がありますわ」
ラリアは考え込んだ。強ちカムラの言説は的外れではないのではないか。いや、あり得る話である。だからこそ、オーダの心境やそれがより深く知りたくなったのだ。
読んで頂きありがとうございます!
もうちょっとだけこのサッカバスにいます。すいません。もう少しで話も進展するので気長に待って頂ければと思います!
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