緊張感のある食事
第四〇話です
時刻は既に二〇時に差し掛かるというところで一行は漸く食事を始めた。取れる食事は普段であればたかが知れると言ってはなんだが、決して多くはない。して、今と比ぶればその差は益々大きく見えるというものである。
「今更だが一体何故こんな事に…」
「本当に今更だな!?」
カムラは当然カトラリー等知らない。その為に取りやすい食器を使い始める。フォークを無造作に手に取ると、ナイフで切り取り、若しくは切らずにそのまま口に入れるのだ。
「カムラ、その食べ方を…、殊お母様の前ですし…」
「いえ、結構。その様に食べると良い。冒険者であろう?カトラリーも知らないのではないか?」
聞きなれない単語にカムラはその手を止めた。
「カトラリー?」
「気にするな、好きにせよ」
カムラは頭を傾げるもそのまま食事を続けた。食べる順番等カムラにとってはどうでもよい事だった。テーブルに散らすような食べ方ではないにせよ、オーダからすれば見るに堪えない食べ方に違いない。それはラリアも同じである。想定されたパンの使い方ではなく、パンの上に肉を載せ、そのままほおばる。それも又オーダには見るに堪えない光景であった。
そんなカムラとラリアの服装は冒険者前提として着てきた防具そのままである。
「ヤスヒデ=カムラだったか。聞きたいことがあってな」
カムラはそう言われ手を止めた。
「はい、なんでしょう」
「ルイトガルトとはどうして出会った?」
「彼女とは…」
だがここでラリアが食い気味に答えた。
「助けたんだよ」
「いや、違うだろ。車内で会ったんだ」
「あ、そっか」
それにオーダ一世が目を細める。
「ルイトガルトよ、何をしにサウスアスチュートを離れたのだ」
オーダは頭を垂れながら、答えた。
「アスチュートの街は様々なものがあります。それを見るのが好きなのです」
「例えば?」
「最近のだと…タイプライトなるものが」
「…そうか」
オーダ一世は再びカムラに向き直るとまたも質問する。
「ルイトガルトはどうだ、ちゃんと過ごしていたか」
その表情は母親の顔だった。カムラはまた答えようとしていた言葉が紡げなくなった。カムラが知らない性格を持つ人間がそこにいたのだ。
「カムラ?」
ラリアの言葉でカムラは我に返った。慌て返答を返そうとする。
「驚いたか?…私はこれでも母親なのだ。我が子なのだ、どこまでいっても」
「オーダは、あまり周囲と馴染めた、等と言う気もありません。彼女曰くは最初は気味悪がられていたそうですから」
「……」
「自分がそれを気にしなかったのは知らないからでしょう。いえ、今でこそ知りますが、当時は知らなかった。だから素の彼女しか見ていなかった。それ故に彼女を純粋な冒険者として見れたのです。色々教えて貰いましたしね。でも、オーダを引き込んだのはラリアです。自分じゃない」
「キメラを倒したというのに、傲慢さはないのか」
「それ以上に失ったものも大きい。そこのゴブリン、トルンガもそれによって一時的に店を失っているのです」
突然話題を振られトルンガは慌てて食器を置いた。
「まぁ、そんな売れる鍛冶師じゃないですがね」
「出身は?」
「自分はゴブリン公国ですかね。といってもルーマンとも近い、オストルーマンですが」
「そこの生まれか。私も一度だが行った事がある。この街にもゴブリンは多い。私はてっきりゴブリンは欲求が強いものと思っていた」
「人によるでしょう。自分は鍛冶師に憧れました。そうですね、俺の女房は自分の工房ですよ」
「シュミートらしい」
オーダ一世はカムラを再び見据えた。
「キメラを倒した英雄か。貴公の方が気になるものだ。強いか?自信はあるか?」
「腕っぷし…でも心配ですね。自分は生き残っただけ、倒したわけではありません」
「謙遜か」
「本音、と言って信じますか。信じてもらえないなら、今はとても気分がいいと言いましょう」
「本音でなければ意味がない。だがそうか、本音か。…いや、すまなかった、食事を続けてくれ」
***
食事も終わり、その後になったが、帰ろうとして、馬車が玄関にとまった。馬車から降ろされる荷物の数々。
「え?」
すると背後から女性が現れた。オーダに似るが、より顔は幼く、背の高いオーダと比べ背は寧ろカムラよりも低い。
「もう少しとどまられてはいかがですか?」
「いやいや、そういう…」
「私、お姉様の妹、アデリンデと申します。以後お見知りおきいただきますよう...お願い致しますわ」
「は、はぁ。ですがここにいて許されますか」
「お母様は許しておいでですわ。ですからどうか、もう一晩」
カムラは悩むが、ラリアは違った。
「じゃあお言葉に甘えよ?」
「は?」
だが、ラリアにはラリアなりの理由が当然ながらあった。
「だってお金ないもん。ここで甘えないと帰れなくなっちゃう。カムラ、忘れちゃだめよ?イニシュラは三ヶ月で契約終わっちゃうんだから」
「でも期限伸ばされたろ?」
「その分を使っちゃったら意味ないもん。ね?」
「なら、仕方ない?」
「そ、仕方ない。でしょ?」
「成程ね...なら、それでいいさ」
「答えは最初っから決まってたけどね!」
ラリアの決断によってもう二泊はこの屋敷になる事になったのだった。
読んで頂きありがとうございます!
こんな食事怖いですね、自分なら遠慮するかなぁ…。皆さんはどうでしょう?食べますか?




