オーダ
第三九話です
「貴族令嬢…オーダが?」
ラリアの口から最初に、振り絞って出されたのはそんな一言であった。
「……すいません」
オーダは思わず謝ってしまったが、然しカムラにとってそれはさして重要ではなかった。
「謝罪はいい、どういう事か…いや、それもいい」
「…カムラは気にならねぇのか」
カムラはトルンガの言葉にほんの一瞬、逡巡したが、直ぐに答えた。
「いや、そしたら俺の埃も叩かれそうだ。
だからそれはどうでもいい。オーダはどうしたい?」
「カムラどうする気!?」
「決まってるだろ、そんなの」
カムラは服裏の短剣をロックを外した。柄に手をかける。
「貴様。このスクブスでその様な刃、抜く事は許さんぞ」
瞬間、カムラの身体は痺れ、動かなくなった。
「安心せよ。我が娘と共にいた故、その思考まで変えるまではせん。だがこの私に弓を引くならば次は貴様が自らの手でその刃を首に突き立てるだろう」
カムラは動けない。思考だけが目まぐるしく動く。
(これが魅了!?いや、文字通り完全支配魔法か!流石、化物、怪物!まともじゃねぇ!)
オーダ一世はラリアも見つめる。
「……その装備は対魅了用か」
「魔力遮断ってだけだよっ」
ラリアはそう言って小さな杖を出した。こんな事もあろうかと、ヴェールクリスタルと魔石を付けさせ、買った魔杖である。そしてそれを見た周りの衛兵もその場に近づく。
「汝を縛る呪い、我が信仰による恩寵と、その神の祝福を以て解き放たん」
ラリアはそう呟くと、カムラを縛る魅了が解けた。
「より強い魔力を使ってもよいのか、小娘」
「起こっちゃったからね!カムラの悪いとこが写ったかもだよ!」
ラリアは小杖を突きつける。オーダ一世の兵士もジリジリと寄り、それは一触即発。だが、声が上がった。
「やめてください!」
オーダであった。
「オーダ…」
「ここで争ってもそれは道理に沿いません。私は、私が、直ぐに決断を下す事ができません」
オーダの言葉でカムラは短剣を握る手を収めた。
「言うのが遅…」
トルンガの口をカムラは抑えた。
「よく言った。お前がそう思うならそれを尊重しようじゃないか。悪いな敬語は無理だ。未だ俺はお前を貴族とは見れん」
カムラがそうオーダに語りかけ、オーダは安堵の息を吐く。それと共にオーダ一世も周りの兵士を下げさせた。
「私も失礼した。ルイトガルトの仲間が何者か、それを試したのだ」
オーダ一世は続ける。
「私はヤスヒデ=カムラ、か。貴公を知ってる」
その言葉には今度は周囲が騒つく。
「カムラ!あの!?」
「キメラを倒したっていう…」
周囲の民衆の声は段々と大きくなっていった。だがオーダ一世は収集が付かなくなる前に手をあげる。
「静粛に!皆々、この英雄に迷惑をかけぬよう。この者は英雄故、私を前に警戒を解かなかった勇者である。私が言うのだ、この者ら、不敬に当たらぬ!」
「そう…ですか。ではどうすると?」
「実を言うとな、来るとは知っていたのだ。我が屋敷に招待しよう。その為に今日、御列日を組んだのだからな。それとも、このグラーフの誘いは受けられんか?ヘルツォーク、いやケーニヒ、それともカイザーなら応えるか?」
「そ、そういう訳ではありません。何も否定するに理由は持ちませんから」
カムラはそう応えた。無論直ぐには行く気にもならなかったが、オーダの意思を確認したいが為にも、ここは着いて行くのが肝要だ、と考えての事だった。カムラは店員に平謝りし、促されるままに馬車へ乗った。
***
サッカバス邸はサッカバス伯の住う屋敷であり、カムラらが先に見た建物が正しくそれである。豪華絢爛、されど堅実な設計であり、素人目にもその優秀さが感じ取れる。
門が開き、馬車は中へと進む。中央の噴水といい、その周囲を埋める花々といい、どれもこれも貴族然としている。
「すごーい!柱もみんな大理石!」
「んま、そりゃそうだな…」
実を言うとこういった貴族の屋敷に来るというのであれば実にラリアの性は押し留めて欲しかったというのが本音であるが、もう一方では、この辛気臭い空気を絆すのもまた彼女であった故に、カムラは何とも歯切れの悪い返事を返さざるを得なかったのだ。
馬車は遂に玄関口に到着した。その扉を見てカムラは考え込む。
(扉は上質な木材だな…。ん?二重構造か。マホガニーに…ローズウッドか。削り出し加工?ひょえー。こんなんやる職人がいるとかそれは最早変態の域じゃないか)
更に奥へと彼等を進まされる。その先は遂に屋敷の中。大理石に羊毛だろうカーペット。シャンデリア、シャンデリアはヴェールクリスタルによる光の増幅を利用しているようだった。各所の柱は鉄製か。壁にかかるは武防具類々。中央の階段奥に人物画が飾られる。オーダにはわかる。否、幼少期によく見た。ヴィクトル伯爵。インキュバスにして、第二次征州戦争にて少数の兵力にてアルペンの山下を攻め落し、今のサッカバス伯国の基盤を築いた先祖である。
「私の紋章、サキュバスを象徴する家紋は彼から始まりました。蝶をあしらえた紋章です。若干46歳でこの世を去りましたが。ですが、私には…」
オーダが言いかけたところでオーダ一世が遮った。
「食事は既に用意している。話に花を咲かせてくれるな?」
読んで頂きありがとうございます!
ちょっと遅れました!急ぎですねもう。




