サッカバス伯
第三八話です
サッカバス伯を乗せた馬車が前に出る。馬車の荷車に本来あるべき外装は無く、伯爵の姿がありとありとその天下の元に晒された。本来であれば暗殺や曲者を警戒しているところを敢えてその身を晒すのはその踊り子にも似た格好による表面的な印象以上に、何者も恐れぬ威圧感、風格を持っていた。それはある意味でサキュバスという種族の印象をまるきり変えるに不足ない印象を視覚的に示していた。
「これがサッカバス伯。耳で聞く印象とは全く違うな、こんな貴族なのか」
カムラは思わずそう呟いた。ラリアもその光景には思わず息をのむ。頭で思い浮かんでいた想像と実際の事実との差は大きく乖離し、その肌が多く見える様相は、寧ろ見えぬ重甲冑でも着込んでいるかの様である。
「もっと、想像のサキュバスみたいな人だと思ってた」
「そうだな。俺もそう思ってた。全然違うな。この見た目から作られる街が歓楽街だとは…。昔の俺に、いや、今の俺でさえ信じられん」
そう二人が話している時、一瞬、カムラは前方から視線を感じた。冷徹な視線に射抜かれ、カムラは咄嗟に防御姿勢を取ってしまった。然し当然何も起こらない。
「な、何してるのカムラ」
「い、いや何でもない」
来る視線への警戒心はカムラから未だ解き放たれず、不快感が強まった。
「ラリア、いや、みんな。その、誘っといてアレだが帰ろう。気分が悪い」
「え?だ、大丈夫?その、じゃあ今日は街見るの止めとく?」
「いや、ここから離れられればそれでいい」
オーダはこれに賛成し、トルンガも賛成した。オーダもどうも気分が優れない様で、ラリアに離れる様に促した。
***
一行は早々に立ち去った。歓楽街の活気は最高潮に達しており、道に並ぶ建物はどれもこれもみな娼館である。娼婦はどれもこれもサキュバス。インキュバスが多いのはスクブスではなく、同じサッカバスのアルペンヴェストシュタットである。ここの主要は男娼ではない。圧倒的な娼館率故に、これこそはサッカバスという印象はあった。
「凄いな…」
トルンガの呟きがカムラの耳に届いた。
「もっかい来たくなったか?」
「お前らと一緒じゃなかったら間違いなく店に寄ってるさ」
「なら今回は諦めるこったな。いかんせんこんな店に出せる金はない」
「わかってるさ!あくまで仮定の話だよ」
そう話す二人に店前の女性が二人に近づく。
「そこのお二人さん?どう?ここで酒でも飲んでいかない?」
「いえ、結構。いかんせん手持ちの金が少ないもので」
「なら安くするよ、どう?それにこの辺り食事処も少ないしさ」
この言葉に一行の動きが止まった。カムラは今から飯屋を探す気満々だったのだ。無い等と聞いた事がない。第一、オーダはそんな事を言っていなかった。
「その話は事実ですか?」
「あれ、ここに来るのは初めて?」
「え、えぇ。いえ、自分ども、まぁ見てくれからしてわかる通り冒険者でして。丁度食事処をと。ここに来たのは立ち寄ったというのが事実でして」
サキュバスの女性は成程、と納得をした。そして口を開く。
「前はあったんだけどねぇ、最近は娼館と食事処は一体になる事が多くってねぇ」
「は、はぁ、成程」
「というかお兄さん若そうだね、何歳?」
「今年で19、という所です」
「あらそう、随分若いのねぇ。ならおねぇさんが手解き…」
「いえ、ここは食事処が欲しいです!」
ここでラリアが口を挟んだ。これはカムラにとって何とも頼りがいのある助太刀であった。
「既に決まった人がいたの?」
「あ~いや、そうじゃないんすけど。ただ…」
カムラはこの際早々に食事を取って帰ってしまいたい気持ちの方が強かった。カムラはラリアを手招きし耳を借りる。
「ここはこの娼館兼飯屋で飯とっていかないか?」
「ほ、本気?どういうつもりなのよ」
「面倒なんだよ、時間的にも丁度いいしさ」
カムラがそう言うがどうにもラリアには納得できなさそうである。
その時であった。カムラの背筋に先ほどの空気が感じられた。カムラはすぐさま顔を背後に向けた。そこにあったのは先程見た馬車行列。サッカバス伯の行列である。この時、トルンガはオーダがよりそのローブを深く被った。その列が進むにつれてオーダの身体は自然と立ち上がったカムラの後ろに回っていた。
「な、なにしてんだオーダ」
「気にしないでください」
「オー…!」
頑なに口を閉じていたオーダの口が開らかれ、思わずカムラはその名前言いかけた。更に丁度悪く行列は止まる。一体何が理由なのかとオーダは更に身構えた。荷車から女性が降りた。否、紛れもなくサッカバス伯。
「あれがサッカバス伯…!?」
「ええ、そうよ!サッカバス伯、オーダ一世女伯爵閣下よ!」
サキュバスの女性がそう言った。だが、それへの衝撃は一行にとっては肩書ではない。オーダ、その名は今ここにいるサキュバス、自分たちの仲間、オーダ=フォン=マイヤー。その名のオーダか。
オーダ一世が少しずつオーダに近づいていく、一歩、一歩近づいていく。
「そこのサキュバス、ローブを取りなさい。私の命令です」
「っ…!?」
カムラはこれに驚かざる得ない。何故、何故サキュバスとわかった。だが、カムラの中にその答えが薄々と感じていた。
「拒否は出来ませんか」
オーダが言うが、オーダ一世から返事はない。オーダは諦め、ローブのフードを脱いだ。
「帰ってきたのですね。我が娘、ルイトガルトよ」
オーダ一世はそう、語りかけた。
読んで頂きありがとうございます!
オーダの正体がわかりましたね!ずっとやりたかった…こう鉄板ネタって感じで、やりたかった…。語彙力がもう尽きてますね、今回の後書きはここまで、です。
読んで頂いた方、是非評価、ブックマーク、感想のほどしていただけると励みになりますので、良かったらしていただけると嬉しいです!でも読んで頂いただけでも嬉しいので、また見かけたら読んでいってください!




