サッカバスの祭り
第三七話です
一行は取り敢えずと宿を探した。一行が泊れる宿はフリーフェルト町、二番地にあったクロウという宿屋である。インキュバスの老人が経営していた。内装は古さこそないものの、初期の名残か下には馬小屋が併設されていた。匂いを消す為にか強い香水の匂いが漂う。
無論カムラやラリアには老人には見えない。サキュバス、インキュバスはある程度成長するとその外見の老化が鈍化する。その為にサピエンスには30代半ばでも実際には50歳であったという話は少なくない。またこれが為にサキュバス、インキュバスの平均寿命は意外と短く、60歳程度とされる。サピエンスが80歳程度ある事を踏まえるとかなり短い部類である。最も長いエルフは平均寿命が120歳である事を考えればこの事実はかなりのものである。
「これが今日の宿だとして、か」
「最悪は今日限りとして、やっぱりちょっとギルドの方行ってくるわ」
「今日の宿代を代わりに出して貰えるかってところか?」
トルンガはそう言って再びギルドへと向かっていく。カムラら三人はオーダがこのままでは恐らくは過ごし難いだろうと考え、そのまま部屋へと入っていった。
部屋は二部屋を借りた。二人部屋である様でその為に二部屋を借りたのだ。トルンガとカムラ、オーダとラリアの二部屋である。内装は狭く、これはやはり長期宿泊を前提としたイニシュラとの差を感じさせた。布団も簡素で、基本的な宿泊施設の要件を満たすのみであるが、四人にはそれ以上の内容を求める程の贅沢さは幸いにも持ち合わせていない。
「丁度いい部屋だね」
オーダはローブを脱いだ。いつもの顔が出てきた。
「おかえりオーダ」
「おかえりと言ってもいつもの顔ですが…。でも久々に顔を見せた気分です」
「そりゃ良かった。…さて、ここからどうしよっかねぇ」
「スクブスに帰るのは久々なんでしょ、オーダ」
「おい馬鹿、ここじゃ名前は…」
だが、オーダはにこやかに首を横に振った。
「大丈夫ですよ。その名前は外だけで。この中なら聞かれる事はありませんし」
カムラはラリアに振り上げた拳を収めつつ、オーダを見た。
「ならいいんだが。だが、この際はちゃんと隠してやるからな」
「えぇ、ありがとうございます」
するとドアを叩く音が聞こえた。音に反応し、カムラは慌ててオーダを洗面所に押し込んだ。
「入っていいですかぁ?」
ドア向こうの声にラリアが対応した。
「はい、どうぞ」
ドアが開き、店主らしき先ほどの男が入ってきた。
「失礼、今日は月に一度の伯爵閣下がスクブス市内を回る日でして…」
散乱する室内を見て店主は一言、
「お取込み中でしたか…喧嘩とか」
「違いますよ、ただ、まぁ…気にしないでください、出る時片づけますから、ね?」
「は、はぁ」
店主は首を傾げるもラリアはそのまま店主を押し、部屋の外に追い出した。
「よし!」
オーダはやっと部屋から出る。
「大分強引に入れましたね…」
「許してくれ、な?」
オーダは苦笑いするもかなりいい気分では無さそうである。
「さて、スクブスにサッカバス伯かぁ。そのご尊顔、是非とも一目拝見したくあるな」
カムラは笑い気味でそう語った。ただの興味本位であろうか。
「そんな簡単に見れるものなの?」
ラリアが聞く、オーダがそれに答えた。
「え、えぇ、まぁ。一応、伯爵邸に近づく事を許されますし、お見えになられるかとも思いますが」
「なら話は早いというかな」
カムラはそう言うと部屋を出た。
「はい?」
「なぁに、そこに向かおうというんだよ、今晩ね」
***
その日の夜のスクブスはより一層賑わいを見せていた。皆々行き交い、それと同程度に兵士も多い。一行は街中に出て、伯爵邸に向かった。向かえば向かう程人の数は増えていく。だがそれは同時に歓楽街の中心に近づく事を意味していた事はカムラの念頭にはなく、トルンガ、ラリア共々にも又無かったのである。それは特段大きなことではなかったのかもしれないがオーダにはそれそのものが憚られた。とても声を出す気にはなれなかったのである。
「人多いな…こんなものか」
「なんか凄い格好の人増えたね」
サッカバスの主要産業たる性産業は、スクブス市内に集中する。歴史は古く、元々はサキュバス、インキュバス民族の特性を利用した産業であった。スクブスのあるアルペン山脈上部には元々は資源が少なく、殊に飢饉の際はその餓死者の数は半数にも上ったとされ、生存に適さない土地であった。一方で中継地として重要な立地にあるこの地域は当時の魔王国としても手放すには惜しい土地であった。その為、当時のサッカバス辺境子爵は水商売と言う形で外部からの経済流入を図った。無論当時は聖教が強く今ほど盛んではなかったが、暗黙で訪れる貴族も多く、代替として土や樹木を輸入し、山岳部でも育つように改良し、現在のサッカバスに至るのである。現在では標高の高い旧スクブスではなく、山脈下の平地にスクブス市が置かれ、旧市はエマーリゲスクブスと呼ばれる。そしてその名残は今に続き、彼らの見る光景を形作る。尚、サキュバス、インキュバスらはさして性に奔放というわけでもなく、寧ろ熱心なダーダルス教徒が多い。寧ろ生真面目である。またその歴史故に寧ろ防衛にかなり重きがある。
「ついた」
カムラが言った。目の前に見える建物。伯爵邸である。そして馬車に乗る女性が一人。フェイスベールといい、その外見といい、一見して踊り子。だがその覇気は踊り子のそれではない。脇に置く曲剣がそれを物語る。
「サッカバス伯、あれが、か」
読んで頂きありがとうございます!
遂にサッカバス伯ですね、あとはオーダの謎もそろそろ解けるところ。ですが細かい事はまた次回ですね、今日はもう一本投稿出来たらします、できないかも。
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