ロンディニア出航
第三三話です
時刻は九時を指した。ブリッグが停泊し、幾人かの客が船に乗っていく。そこにラリアの一行の姿はあった。
「遂に出発かぁ」
「そうだぞ。つっても、俺も海は初めてだ」
カムラも内心はその膨らんだ期待を隠せないでいた。妙に浮ついた心を自覚しつつも、なんとか抑えようとする。だが彼は武器類にはある程度知識はあり、また、その外観に男心を躍らせてしまうのは仕方のない事だった。アイヴァースギルド商船部の運営するこの船はハールダムに大凡三日、若しくは四日で着くのだという。
「結構時間かかるのな」
「まぁそうですね。河口まではオールボートを使いますし」
「河口に港町でもあったら便利なんだけどねぇ」
「そうですね。便利だと思いますよ。もしかしたら既にそういう話があるかもしれません」
そう話してるうち、船員に乗るように言われ、一行も船に乗船するのだった。
九時十分。乗員20名の収容を確認したブリッグ、ライト号はデドフォルドを出港したのだった。三隻のオールボートに牽引され、船は動き始める。帆は未だ張らず、メインマスト、フォアマスト、ジブ、スパンカーともに畳まれたままだ。
「こんな街中でも風を切る感覚はあるのだなぁ。なかなか爽快な気分になれるじゃないか」
そんな中、カムラはとある物体に気が付いた。
「目の前の、ありゃなんだ。煙を吐いてる」
「蒸気船だろう」
トルンガは答えた。
「最近実験してるらしい」
するとオールボートが引き下がり、その蒸気船という小さな船が前に出た。バウスプリットの付け根から伸びるロープがその蒸気船に括りつけられると、その蒸気船が動き始め、ライト号を牽引し始めた。小さな外観にも関わらず見た目にそぐわず、オールボートよりもその速度はグングンと上がっていく。なんとも奇怪で、ずんぐりとした、見た目ではあるがその力は軍用のフリゲートに勝るとも劣らぬと言えよう。
「わわっ」
その上り幅に船体の左舷中央に立っていたオーダはバランスをやや崩す。
「ちょちょ、大丈夫かよ」
カムラが慌てその身体を支えた。
「す、すいません」
「珍しく非力だな」
「お、ならカムラさんもここに立ってみてください」
そう言われ、カムラも立ってみる。すると横からくる風と波の影響がもろに身体影響し、カムラもバランスを崩した。
「おわわっ」
それを見たラリアも何か面白そうだと舷側に寄る。最終的に三人そろって体感勝負をしていた。
「何やってんだお前ら」
トルンガは思わずそう呟いた。
***
河口に至るまではかなり時間をかけた。河口付近に至った時には既に半日余りの時間が経っていたのだ。それ故に四人は既に昼食も食べていたのだ。河口付近に近づくと、フリゲートが接近してきた。軍のフリゲートである。
「今から検査を行うからな。先ず乗客を甲板に集めろ」
「は、はぁ」
乗客が次々と集められていく。甲板に20名の乗客がそろった。
「よし、では人種ごとに分ける。別れろ」
ここでオーダ、トルンガとカムラ、ラリアが引き離されてしまった。
「この七名がダーダルス系だな!」
「確かにそうであると…」
すると水兵の一人は船倉にあったカムラらの装備を見つけた。そこには武器、杖、鎧、クロスボウが揃っている。
「これを持っているのは誰だ」
「はい」
「貴様は」
「ラリア=ブラウンです」
「武器の所有は何を企図しての事か」
ラリアは手元の冒険者資格証を手渡した。水兵がそれを上官であろう男に渡す。
「冒険者か。…貴様の剣にロックが無かった。これは規定違反だ。確認不適当であるが、故意とは判断し難く、初犯であるから大目に見る。だが、本来であれば資格証の停止であるところを、年齢や、同行者の存在を加味するものであり、私は許したが他の場合はそうはならないと知っておけ。次あった場合は冒険者資格証の二週間停止もある。気を付けろ」
「はい」
尚、その剣はカムラのものである。
「また貴様」
軍人は船長を見た。
「船倉の食料が五日分しかないこれは規定違反ではないが、万が一の場合に備えて一週間分の貯蔵が推奨されている。気を付ける様に。以上。他に問題点は無い。これにて検査は終わる。それでは」
そうしてフリゲートはライト号を離れていった。
「カムラ」
「…許せ」
「ロックかける癖、付けてね」
「うん、反省するわ」
風が吹く、追い風である。スプリットスル、ジブ、フォアマスト、メインマスト、スパンカーの順に開かれ、錨が巻かれる。風に乗った船が進み始めた。速度は見る見ると上がり、先ほど離れたフリゲートは段々と小さくなっていく。既に外は夕焼けも見えるが、遂にハールダムへ船は進み始めた。
「カムラ!凄いよ!」
カムラはそう言われラリアの指す空を見ると鳥がいる。渡り鳥だろうか。白い身体を風に乗せて、飛んでいる。潮の匂い、跳ねる海水が口に入ると塩辛さが口に響く。旅の途中には良いスパイスである。
読んで頂きありがとうございます!
ロンディニア出航しましたね!ラリアはカムラのミスを影響を受ける、と。キメラの時は許されるミスだったんですけどねぇ…




