変なの
第三二話です
ロンディニア橋の上の数多くものがあったが、然し彼らの企図するのは何よりもハールダムに行く事であるのは誰しも覚えのあるところである。
「そろそろ降りましょうか」
オーダはそんな提案を当然示した。カムラもそろそろ動くべきではとは思っていた。今はまだ早朝ではあるが今の内に予約の取れる船は見つけておこうと考えたのである。
「えぇ、早くない?もうちょっと見ても間に合うんじゃないの?」
「早めにやっておいて損はないですから」
カムラもこれには同調した。カムラも最初こそ楽しんでいたものの、先ほど騙されかけたかも知れない事や、余りに人が多い事に早々に辟易していたのだ。内心は早々に降りてしまいたかった。自分で期待しておいて我儘であるという自覚、後ろめたさが決して無い訳は無いが、だが、それよりもここから出たいという意識が向いていた。
結局四人はこのままロンディニア橋の最上階に行くことなく、下に降りた。下に降りた一行は下流に向かうのだが、下流域もまたカムラを驚かせるに十分なものがあった。砲列甲板が一段、少ない門数。黒い船体の船。艦尾楼が無いのを見るとフリゲートであろうか。一方で砲列甲板が二段の艦もあった。それは二等戦列艦であろう。それだけではない。ガレオンも数多く目にした。そちらの方が多いのであろう、ギルド所属のガレオンが圧倒的多く、個人所有と思われる船舶は数少ない。またガレーも見える。これは渡し舟ではなく牽引船であろうと想像できた。ただ、ラリアにしてみると、正直なところあの空中艦の威容を見た後では些か迫力に欠ける。無論、目の前の船さえ彼女らがそう乗れるものではないのだ。
「私たちはもう少し下流に行きましょう」
「キャラック?」
ラリアの質問にオーダは頭を縦に振った。
「それでも十分な大きさか。予約できたら、もう少し見てこうか」
「ならもう一回あそこ行かせて!」
「…まぁ、いいだろう」
「やった!」
流石にそれさえ拒否するのはカムラの良心に響いた。それ故渋々ではあるがこれを認めたのだ。
下流に行き、商船ギルド支部の中に入る。アイヴァースのギルドは冒険者ギルドもやっているが、その収入の大半は傭兵と商船、植民地運営である。彼らが訪れた商船ギルド支部は、ロンディニアのギルド本部とも近く、かなりギルド全体に関する機能も有していた。
カウンターまでの列が長く、ここに関してはオーダの方が知識があった為に彼女に任せる事にした。その間は内部の待合席で待つ事にした。ラリアは売っていた果実飲料を4本買ってくると、トルンガとカムラに手渡した。
「おぉ、ありがとう」
「…カムラに聞きたいんだけどさ」
「ん?」
「どうしてカムラは私に付いてきたの?」
「その話はした筈だがなぁ」
カムラはコルクの蓋を取ると、瓶に口を付ける。葡萄であろうか。ワインとは違う、甘味のみある新鮮な味であった。
「我ながら、さ。自分我儘だと思うんだよね。本当だよ、今更ね」
「辛気臭いなぁ。お前らしくもない」
カムラはそう言う。ラリアはそれでも言葉を紡いだ。トルンガは少し外へ行く、と言い、その場を離れた。
「私の魔法を否定しなかったのは、なんで?」
「…言い難いな。凄く言い難い。でも、これは言える。大切だからだ。身寄りのない俺を引き取ってくれた事への感謝もある、ただ、周りを知らないこんな怪しい男を信じたお前の方が不思議だ」
「私には理由があったよ。私には。だって私は一人ぼっちだもん。知ってるでしょ?」
ラリアは魔法を学ぶ中では、村の中で半ば変人の部類であったのは疑いようのない事実であった。教会の牧師が魔法に精通していたのもあるが、手伝いもせずに独学でやる彼女はある種の孤立に陥っていた。
「まぁ、な。だからか?」
「打算的でしょ?」
「人間みんなそんなもんだろ。俺が信じたのもそう変わらない。魔法を頑張ってる、それだけで努力家にしか思わないし、まぁ、やり方はどうあれ、それは揺ぎ無い事実だ。利的な目的ではなく、ただ己が目指す純粋無垢な理想を突き進める奴は俺にとっては憧れるんだ」
「本当?」
「こんな事で嘘つく奴が一体何処にいる?」
カムラは瓶にもう一度口を付けた。
「美味いな。甘いものはいいもんだ」
「ありがとう、カムラ。これから宜しく」
「変なの」
***
「お待たせしました!予約…が…?」
オーダが返ってくると俯いたラリアと立って飲み物を飲むカムラがいた。
「二人ともどうしました?」
「ラリアは寝起きで一周回って冷静になってんのさ」
「は、はぁ」
「ここ最近で一番賢いぞ今のラリアは」
「ち、ちが、そういう事じゃなかったじゃん!」
「悪かった悪かった」
ラリアとカムラはそう言い合う。だが、何があったのか、オーダは知る由もない。ただ妙に大人しいラリアと、普段通りのカムラがギャップの様に彼女の命に映ったのみであった。
「なんか変ですよ、二人とも」
トルンガが戻ってきたが、その時のトルンガも何やら見守る様な態度であったのは言うまでもない。
読んで頂きありがとうございます!
いつもより早く書き終わったので、投稿しました。これからも偶にこういう事があるかもしれません。ですが今後も毎週三度の投稿は変わらないので増えるくらいに思っていてください。
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