ロンディニア市内
第三〇話です
朝早く、列車は遂にロンディニアに到着した。日が出るか出ないかという早朝故、カムラは眠い眼を擦っていたが、トルンガとオーダは眠そうな様子もなく、溌剌と荷物を背負った。
「二人とも昨日は寝ていたからな…。流石に元気か…」
「手前が寝ぇねぇのが悪いだろうが」
「そりゃご尤も」
ラリアを揺すり、起こすとオーダは代わりに切符を駅員に手渡した。駅員はそれを確認すると、検札鋏でこれを切った。
「確かに。確認しました。どうぞ、改札に。改札員に見せれば切符は切らなくても大丈夫ですよ」
四人はそのまま言われた通りに改札を通る。その先には大きな景色、そこは講堂の様な広場であった。余りにも広いがそれも全て、目新しさがあった。何しろこれが噂に聞く、ロンディニアの玄関と言う事ではないか。余りの広さにカムラもラリアも圧倒される。アスチュート駅さえここまで大きくは無かったのだ。ホームでも五つほどあり、奧には既に二編成ほど止まっている。一方でトルンガやオーダは外から来た移民故にロンディニアに来る事はそう珍しくも無かった。また鍛冶職や冒険者らにとってロンディニアに来ざるを得ない事も少なくなかった。農民らにとってはそも村から出る事自体そうなく、其の上ラリアもカムラもまだ若く、成人とは言え、働いて利益を生む階級としては精々が一年か二年であり、それ以前は大人達に守られ、働くと言っても親の手伝いの延長でしかなかったのだ。
「ロンディニアにお二人が来るのは初めてですか。では多分、驚きますよ」
ロンディニアはカルタノ帝国時代を起源とし、コロニアの一つとしてロンディニアムが建設された。その後、この土地を起点にアウス人が到来し、アルビオン王国が建設された。ブリトン人との戦争の後に、勝利し、アルビオン王国の王都として長らく設置された。534年から678年まで続いたブリトン島統一戦争の間に歴代イングレア王はロンディニアを整備。ブリトン島統一戦争が決着がつかぬまま各国が和解し王家が一つの家として成立すると、同君連合として成立。するとアイヴァース連合王国の王都として改められた。その後開発の最先端として常に開発され続けた。又その発展に寄与した最大の要因は海に面することにあり、アイヴァースは島国故に資源が無く、どの国よりも大洋進出を果たしたが、その物資を王都に最優先で齎す事が出来たのである。
カムラ、ラリアの目に映るのは正にそれをありありと示す光景であった。ロンディニア駅一つとってもそうであり、天井の硝子、地面、壁の大理石、柱の基部にあるオリハルコン。柱には四方向に電灯が備えられている。つく明かりは眩しいがそれ以上に街は明るい。ダークエルフを引き連れた貴族もいた。奴隷であろう。だが貴族と見間違う程に小綺麗な衣服を着ていた。
「ロンディニアにはこういう話が最近よく出回ります。貴族や金持ちの奴隷と労働者なら奴隷の方がいい生活という」
「なんじゃそりゃ」
「労働者の住む郊外はロンディニアとは違うんです。ロンディニア橋に行けばわかりますよ。威容ですからね、アレは」
ロンディニア駅を出る。全体はまるで教会を思わせる塔が高く聳えるが、然しその豪華な硝子がここが教会ではない事を示していた。目の前には孤を描く駐場場が道路としての役割も兼ねて配置されており、既に幾つか馬車が止まっていた。誰かの、というのではないのであろう。無論それも散見されるが、それ以上に、馬車は止まっている。
オーダは他の三人をそこで待たせると、そのまま馬車に向かった。
「すいません」
「はい、どうされましたか?あ、ご利用になられますか?」
「空いていましたか。何人乗れますか?」
「六人まで乗れますよ。もしかして同行されてる方いらっしゃいます?荷物があるのでしたら代わりに載せますよ」
「本当ですか有難うございます」
オーダは三人の方へ振り返り、
「みなさーん!!ありましたよー!」
と叫んだ。三人は御者に荷物を預け、席に座る。
「お客さんは今日どちらへ?」
「取り敢えず中央区までお願いします」
「んじゃ11デナースです」
「わかりました」
オーダは10デナース紙幣一枚と50セーレス硬貨二枚を渡した。
「んじゃ、出発します」
***
馬車は進んでいく。日の光がだんだんと姿を現し、街を照らしていく。そしてその少し前から街の電灯は光を消し始めていた。帽子を被った男や少年らが次々に家から出てくる。家々は煉瓦を縦積みしたように簡素で、しかしレンガ造り、各部には鉄の補強鋼材も見え、簡素乍らに強靭な設計が垣間見える。道幅はさして広いわけでもないが、10mほどの広さがあった。
「ねぇカムラ」
「なんだ」
「魔法の練習…」
「してもいいが、降りろ」
カムラとラリアも眠気が晴れたか、元気に会話をしていた。
「そういえば皆さん中央区に行くなんて何用ですか?」
「観光ですね」
「にしても武器まで持って」
すかさずトルンガが入り込む。
「この三人は征州で依頼をするのさ」
「あ~。なら中継地?すると港の方がいいんじゃ?」
「だけどな、お二人さんはこのサキュバスの嬢ちゃんと俺と違って王都に来たことがねぇから。中継地序でに見ていこうかってな」
「なるほど。なら、中央区じゃなくて東区と中央区で降ろしますよ」
「ま、待ってください」
「もちろんその分お金はとりませんとも」
すると御者は1デナース硬貨を三枚渡した。
「これが差額です。東区から行った方がワクワクできますから」
「そうですか…なら、お言葉に甘えて、お願いします」
「いえいえ、どうも」
御者はそう言って四人を東区の終わり、イースト通りに降ろされた。
「ありがとうございました」
「いえいえ、また来られたら是非贔屓してくださいね。では」
ロンディニア。二人が初めて見る、真の発展都市である。
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