魔術書
第二九話です
汽車が動く様をラリアは見ていたが、殊カムラに至ってはそれをしていなかった、ラリアから渡された魔術書を読んでいた。魔法の原理や、歴史、それぞれ詠唱がどの天使にかけ、神にどう伝わるかという神学的な内容も含まれていた。高位魔法として有名な回復魔法もこの例に漏れなかった。回復魔法は原初の魔法使いとされる名称不詳の後世に於ける聖教の教祖ともなる通称がセイントと呼ばる男である。曰くは主は祝福を受け、神の赦しを得て魔法が扱える様になったのだという。だが、男は人類に魔法が使える様にした為に天罰を受けたが、自身の命を賭して原罪を清算し、魔法を誰しも扱える世界にしたというのだ。一方でローズ伯が書いたという原理については全く逆の自然学的な思想に基づく記載もあった。カムラはこの一見矛盾した内容に首を傾げずにはいられなかった。魔法を時として奇蹟と称し、時に自然現象と語るとは一体どういう見解と言うのか。
「なぁオーダ。この魔術書は一体全体どういう見解なんだ?」
オーダはカムラの指すその魔術書を手に取った。
「一見矛盾しますがそれはその通りで、教会と協会の意見が違うからですよ」
「はぁ」
「カムラさんは地動説を知っていますか」
「ん、あぁ。なんとなく」
地動説は我々が住むこの世界が球体である事は全体とし、あくまでもこの星は上のあの太陽に対して回っているという考え方である。それ以前は星を中心に太陽や月が回っているとされてきたが、それを覆す考え方となった。当初は異端の思想であったが第二次征州戦争以降は普遍的な思想となった。
「地動説と天動説からもわかる通りしばしば学者と教会では意見に違いが出ます。それは仕方のない事。ですから今更どうこうという話ではありません。ただ、教会側の意見も載せておこうというだけです」
「なるほど。オーダはどっちなんだ?」
「私は後者ですね。教会の意見はそれらしいですが説明として成り立ち、想像しやすいのは圧倒的にローズ伯です」
「ラリアもそうか?」
「言うまでもないでしょ」
「それもそうか」
カムラは納得すると再び本にその目線を落とした。次に記載されていたのは魔法の種別とその特徴であるが、これは教会と協会の意見は一致している様であった。火魔法は燃やす、水魔法は水を生む、風魔法は風を生むと決まっている。これは読んで字の如くであるが、一方で本来の原義としては火魔法は攻撃性の現れ、水魔法は優和性を、風は自然との協調である。元々魔法には水魔法とそれから付随した風魔法しか存在せず、追い払う事は出来ても相手を殺傷する力を持たなかった。魔法の発展は第二次征州戦争前のランツクネヒトの誕生に端を発し、ダーダルス教が知られる様になった事で攻撃性のある火魔法と呼ばる種の魔法が生まれたのだと言う。水魔法には確かに幾つかの攻撃魔法があるがどれも、500年ほど前の魔術書には存在せず、教会もこれを認めた事は無かった。そもそも攻撃魔法は聖典にない事から魔法ではないとする説もある。一方で昨今原子学派なる自然学の一派が存在しており、彼ら曰くは魔法自体自然的な物と解釈できるとしている。
「なるほどね」
「よくわかった?」
「なんとなく」
「んじゃ使える魔法は増えた?」
「は?」
カムラは魔法の歴史は見ていたものの、魔法の運用方法について全く目を通していなかった。
「あ」
「あ?…読んでなかったでしょ」
「わるかったよ、ごめんなさい。ちゃんと本編読むから」
「本当だよ。早くね」
魔法はイメージ力である。これは無論ラリアの言であるが、本書にもそう記載があった。
魔法を扱う上で大事なのはイメージであり、何が何を燃やすかである。更に雷魔法ともなればイメージを雷に変えて、何をしたいか。どう生むか。そしてその戦意を頭に強く思い浮かべ、自身の手、もしくは杖やこれに代わる物品に魔力を流す事でイメージが具現化する。魔力は誰でも最初は出来難い為、魔力が出し易くする為に手を下に向ける事でなるべく血を下にする事で魔力はその自身の流したい方向へと流れる事になる。其の上で手に力を籠めるとその現象が
起こるという仕組みである。一度で可能とするのは困難な為、幾度か練習するか、小さい静電気から進める事でイメージがしやすくなり、成功する際の感覚に近くなる。放ちたい方向へ力が抜ける感覚を掴む事が出来ると成功に近い。これはどの魔法にも当てはめる事が出来る。想像しやすい魔法から難易度は下がる為に成功した感覚が重要となる。
「なるほど」
「お、理解った感じ」
「嗚呼」
「じゃあここでやるといいよ」
カムラは一瞬動きを止めた。手を翳すが、直ぐに正気に戻った。
「馬鹿か!やる訳ないだろうが!」
「いや、こういうのは反復が大事で」
「そうだな、正論だな!ここが車内であるという点を除けば!」
カムラはそういい捨てる。ふと外を見ると暗くなりつつあった。
「もうこんな時間か」
「カムラ凄い真面目に読んでるから。話しかけ難くって」
「そうか。んじゃ今日は読むのはここまでだな」
「でももう外暗いんだよね。景色も見えなくなっちゃった」
「仕方ないさ、夕方だもの」
カムラは魔術書を閉じるとラリアに返し、未だ食べ終わっていないパンを齧り始めた。ラリアが欲しいと言い、カムラはパンを二つに分けるとラリアに与えた。オーダもトルンガも寝っぱなしである。こうも寝すぎると頭が痛くなりそうだと、傍から見るカムラは思った。
読んで頂きありがとうございます!
今回はやや解説回かもですね。いつもより。でも次回がロンディニアなので、もうちょっと待っていただけると嬉しいです!
読んでくださった方。ありがとうございました!もしよろしければ感想、又ブックマークをしていただければ励みになります!ですが、見てくださっただけでも嬉しいので、また見かけたらその時はまた読んで頂けると嬉しいです!




