キメラ参上 下
第二四話です
キメラはカムラらへ向けて、口を開いた。口腔から光が僅かに灯り、カムラは避ける。ラリアから短剣が投げられる。接近するキメラ。魔術士が次々と減る中で前衛も魔法を使わねばならなくなっていた。然し、カムラには根本的に魔力は無い。更に上空からは黒いものが接近していた。砂らしき、キメラの一部である。キメラはカムラへとその姿を向ける。そこに如何なる原始的な敵意もカムラに感じられなかったが、強いて言うならば、機械的な狙いとしての攻撃意図が仄かに感じられた。となれば剣を構えねばならない。その時、最後の一押しとばかりに、ラリアがカムラに何かを投げ付けた。
「いてっ!」
「カムラー!!魔石ぃーーっ、借りたーーっ!!」
魔石が地面に転がる。出力などたかが知れた事。目前にあって、突貫するキメラにして、雀の涙と評する事さえ烏滸がましいであろう威力。だが、土壇場にあって魔法を使えない事は今生き残ろうといつか、どの道早死にするであろうという確信がカムラにあった。ラリアは何と言ったか。カムラは記憶にあるその言葉を考える。イメージであったか。手を翳す。集中である、マナを思い浮かべる事はまだ彼にはできないが、イメージするのは粒子。引火して、燃える。当たり前でも、できない事であった。詠唱の意味を、ラリアが何を考え、放つかを。
「唱えてやるよ…、天よ、知を我に、力を我に、原罪を我に。禁忌を赦し、人に汝が力を分け与えよ!ファィエル!!」
小さな炎は大きくなり、カムラの翳した炎はキメラを覆った。広がる火はキメラの視界を遮り、更に自らに強化を与えたカムラの蹴りを下側からキメラは食らう事となる。キメラは上へと身体を浮き上がらせた。瞬間、再びその体躯は砂へと変化し。カムラを吹き飛ばした。また、先ほど分断した尾の一部は再び戻り、合流。その外見はキメラに再構成されると、羊の口と狼の口腔のみを構成、黒い毒煙と火を周囲に放ち、カムラを追う様に路地裏へと入っていく。
「不味い、向こう側に奴の砂みたいのをぶっ飛ばしたんだ!!」
黒い塊はキメラへと吸い込まれていく。
「くっそ、埒があかねぇ!」
「アイツを倒してってパーティーはホントに倒してやがんのか!」
冒険者らの愚痴は止まる事を知らない。あぁまでしての強力且つ特殊なモンスター等誰も知らない故である。
カムラは路地裏の下水道に入ったが、キメラは砂であるその身体を柵を壊さずに通過し、再構成、火炎を放つ。更に、腕をマクロニュクスが如くの長い爪に変化させ、振り下ろす。剣でそれを受け止めるも、蝙蝠の羽は再び銃を形作り、弾丸ではなく、激しい風を起こした。首を傾けこれを避けるも、背後の壁面の煉瓦は一撃の下に粉砕された。鍔迫り合いを不利と察し、解くカムラだが、瞬間、キメラの獅子の頭部の目は光り、カムラは咄嗟に、懐に飛び込んだ。明確な光線が放たれ、向かいの水道の柵を破壊する。細い光線であったが、然し。十分な威力も有している事を再確認させられる。
キメラは今度、口を光らせ、再びの光線と身構えたカムラはその口から放たれる凄まじい衝撃波に身体を後退させられた。否、後退等と生易しいものではない。圧倒的な衝撃波に吹き飛ばされたのだ。形容するならばそれは爆弾の爆風を其の身一身に受けた様な、感覚。吹き飛ばされ、再び外へその肉体を弾き出されるカムラ。然しキメラはお構いなしとばかりに痛みで身体を鈍らせるカムラへ向けて再びの光線が放った。然し、カムラはその痛みに喘ぐ身体、その眼越しにキメラの肉体の一部が崩れている事を見逃さなかった。短剣を抜き、その短剣にラリアの見様見真似ではあるが雷魔法を付与する。無意識のうちにこなしていた。然し眼前の敵を前にそれに驚くことは疎か、気づく事さえない。キメラは更にその肉体に刃を持たせ、カムラに突撃した。刃が振り下ろされるが、これを刃先で受け流し、地面を蹴って、その場から離れる。光線はより強力になっており、凄まじい熱はその通り道の空気を揺らめかせる。同時に、赤く熱で剥がれ落ちる砂があった。硝子の様に変化し再生も追いついていない。だが、それを補強する様に周囲のキメラの一部である砂擬きがキメラの肉体を補強していく。キメラは遂に二足で立ち上がると、再び光線を放った。赤い光線は背後の地面を融解させ、爆発を引き起こす。爆風を背中で受け乍ら、飛び上がり、その脚部へ短剣での斬撃を与える。
(なんだか知らんが動きが鈍くなった!やれる、いける!)
更に一撃を背中に与えた。先ほどなら感じられなかった密度のあるものを蹴る感覚がカムラにあった。然し、キメラも当然、蛇の頭から光を放った。不可視の攻撃がカムラの右腕の上腕を掠った。激しい熱がカムラを襲う。信じがたい痛みであった。熱によって赤く爛れる肉が見えた。然し、許容範囲だとカムラは己の心に言い聞かせた。
首を180度回転させ、カムラを見据えるキメラ。その姿は最早生物らしさのかけらも無かった。剣を模した腕、足は象のようであり、片翼は人間の腕、目は梟のような目になっている。その頭部は変形し、崩れる砂を落としながらもランスの様な円錐形に変化させてきた。先ほど斬り落とした片足の再生は未だなっていない。寧ろ各部が何とかその形状を留めようとする姿は一種の惨たらしささえ感じさせた。
突貫するキメラ。カムラは剣を投げ捨て、短剣だけを構えた。受け止める姿勢。その円錐はカムラの腹部に突入した。だが、カムラの覚悟は死んでいなかった。その頭部はカムラの腹部に突き刺さる事はなく。
「突き刺したなテメェ!!離すなよ、ぜってぇなぁ!!」
カムラは雷魔法の付与がある短剣をその頭部に突き刺した。より鋭い短剣はキメラの頭頂部を通り、そして、電撃が放たれた。電撃はキメラを悶えさせた。然し。尾はカムラの腕を串刺しにすると、カムラの体を持ち上げ、投げ飛ばした。引き千切られんかとばかりに負荷のかかった右腕は、皮一枚で繋がるという言葉をありありと示すほどにだらりと下がった。キメラはその頭部を獅子に戻し、振り返って、カムラに突貫する。オーダは漸く、到着したが余りに遠い。最早これまで。
だが、その牙はカムラに届かなかった。足が崩れ、翼は折れ、砂となり、次に胴、そして最後に頭部。惜しげに口を動かすが、それも崩れ落ち、遂にキメラであった砂のみがそこに残った。
「…な、何が…、次の攻撃、か?何をする…気でいる?」
その砂が動くことは無かった。誰しもが何があった、と頭を過った。夢ではなかったかとさえ考えられた。然し周囲の瓦礫は自ずから語らずともそれが紛れもない事実そのものである事を伝えていた。
読んで頂きありがとうございます!
最初の強敵を倒すって流れだったので、一旦一区切り着きましたね。やっとだ、なんて思ってたり。次回は一旦もう一回4000字で投稿しますので、初見の方はもしよければ、明後日の19時30分くらいを目処に投稿しますので、見ていただけたら幸いです。
欲を言えば、是非評価等していただけましたらモチベーションになります。でも、こんな拙い文を見てくださっただけでもとっても嬉しいです!




