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恐怖見参

第二〇話です

 翌日、ギルドの新聞部の売り子の青年が


「号外、号外!!」


と叫び、新聞を売り出していた。朝から一体何事かと冒険者たちは買っていき、その中の一人にカムラがいた。当然彼も何事かと新聞を手に取る。中には『アスチュート殺人事件か』等と大仰に書かれた見出しがあった。そこに曰く、大凡三日前にアスチュートの南区で五名の遺体が発見されたらしく、刺し傷や、殴打による死亡と様々な死因であったという。また、一人は銃を手に取っていた様でその男は銃殺されていた様である。また、男の体内にあった弾頭はなんと男の拳銃に残った火薬と同様の火薬であった様である。また他にも強い力で絞められた首や、貫かれた身体等遺体の状態は様々であり然し一日か二日で生まれた遺体が多い事からアスチュート憲兵団は本件を同一犯による犯行と断定しているのだという。

物騒な内容だ、というのがカムラの内心であった。無論冒険者である彼、そして彼等にはこの程度恐れ戦くような内容では決してないのだが、不思議な事に犯人の顔を覚えている人物が殆どいない、若しくはそもそも見ていない点にある。新聞部の考察の欄には、希少な目撃者の白いロングドレスと、ヘッドドレスをしていたとされ、ロンディニアやブレミンゲハム、マメセスター等々の都市部で流行する格好、更には何人かは密集地で殺害された点から計画的な犯行という可能性を示していた。大胆な発想にはあるが、又、確実性のない推測の域に過ぎないものである。また新聞の端の欄に小さな報道もされていた。アスチュート産業奨励館でユーバーレステシュタットの土の展示をしていた老人が死亡していた事がわかった。不思議な事にこの男性の身元は不明であり、又展示してあった筈の土も行方不明になっているという事であった。憲兵団はこの事件は病死の線で片づけているのだという。カムラの目が最も引いたのはもう一つであった。ヴィーラント帝国で第十一層のズューデン洞窟遺跡でフォージキメラと交戦し、生き残ったパーティーがいたというのである。曰くはバグの様なモンスターも見つけたとの事で、キメラ自体も毒、更には光線まで発したようで、相当な戦力をもっていたようである。生き残った事、情報を持ち帰った事で千万ペルニヒの報酬を受け取ったのだとされていた。中々夢のある話である。カムラからするとその話が何故真実だとわかるのか気になる点ではあったが、お目にかかるだけで報酬が得られるならばこれほどやりやすい仕事というのはないであろう。


「って思うんだが」

「それはフォージキメラがどんな存在かわかっていない以上早計だと思いますよ?それにそこまで行くとキメラ云々以前にサラマンダーやクガヌラーとの戦闘が視野に入りますし」


オーダに一蹴されてしまい、カムラは肩を落とした。


「わかってるよ。言ってみただけだ」

「ならいいですが」


カムラはそう言うが、その新聞を捨てる事は珍しくなかった。


***


 その晩、諸邦都ブレミンゲハムにあるウェルス伯のフィリックス=ウェルス=ゲオルグの屋敷の中で、ウェルス伯国軍とアイヴァース王国軍が一堂に会していた。無論少数で収める為に第四近衛騎士団の第二魔術中隊と第三歩兵小隊のみが配備され、国王より直接騎士団長の大命を拝されたアルゲンタヴィア公自ら率いる。ウェルス軍はアウス王にしてアイヴァース王の直接の陪臣ウェルス伯が率いるこちらも二個魔術小隊の編成であった。こうまでして少ない戦力にこだわる理由はこの先の諸邦都エイブラムに輸送する為である。エイブラムはノイバーシニア王国の直轄都市であるがこれには理由があった。洞窟遺跡群の調査を行う謂わば研究都であり、アイヴァース魔法連合会であり、錬金術協会や、天文学研究独立連合組合の本部があるのもここである。そしてアダマントミスラル合金製の人一人分が入るであろう箱を保管していた。


「こんばんは、ですかな?」

「閣下が斯様な事を申されますな。この身は所詮は伯爵。陛下直々の公爵閣下の武勇は私を気に留める程にも無いではありませぬか」

「それはそれ。この物をエイブラムに運ぶという大命を拝し奉る我等は王の信を受けているのです。卿にもその力量があると仰せに相違なし。一先ずはこれを安全に運ぶ事が肝要の事」


ブレミンゲハムの港に鎮座する輸送艦を見る。憲兵に扮したアイヴァース軍が周囲を見張っている。外見こそ普通だが、立ち込める空気を隠せてはいない。


「然し…この貧弱な輸送艦と竜騎兵(ドラグーン)を七騎のみで良いのですか?フリゲート、いやいや、せめてスループの一隻や二隻、傍に置きたい」

「お気持ちは察しましょう。ですが、王から賜ったのはこの戦力。此度の事で万が一があるとするならば、アレに引かれて魔物どもがやってくる事。それ故空中艦にしたのです」

「その様な着想とは。私の考え等語るべきも無し。ですが、何があっても、と私の不調法な着想なれば」

「では如何なる着想がおありで?」

「ニューヨルヴィクの冒険者には内実を伏せたまま依頼を出そうかとの考えに至った次第。ギルドも恐らくは話に乗ってきましょう。無論これに何らの問題が無い筈がない事はわかってはいて、です」

「では、その様に」


二人が話す中、兵士の一人が近づく。


「もうすぐ、艦が出航致しますが」

「ん、もうその様な時間か?」

「あ、いえ、申し訳ございません。お話中でありましたか」

「いや結構。我々の話等より卿らの任務の方が重要であろう。支度の程、抜かりないな?」

「はっ!確かに!」

「役目大義。急ぎ出航させよ」

「御意!」


兵士の返事を聞き、アルゲンタヴィア公は口元の髭を撫でた。完全でないと分かりつつも、顔には見せない。


「では、ここから」


ウェルス伯は暫く考え、命じる。


「竜騎兵隊を最初に飛ばさせよ。決して民に気付かれる事無き様心掛けるべし。

では各々、抜かりなく」


その日の深夜、時刻にして二三時七分。勅命を受けたA-133輸送艦はエイブラムへ向け、出航した。ゆっくりと地面から離れ、数千トンの船体が浮上していく。上空にはグリフォンに乗る低空の竜騎兵が護衛し、通常の竜騎兵隊は既に地上より高度3000m付近に滞空していた。下方から接近する輸送艦に直ぐに気がつく。


「隊長、下方六時方向から定刻通り輸送艦が」

「グリフォン隊は?」

「あそこに」


指を指す方向にグリフォンが五騎ほど見えた。グリフォンの一騎は他四騎に先駆け、自分達の方向に接近する。その騎は同高度にまで辿り着いた。


「お疲れ様です」

「ブレミンゲハム駐留騎兵隊ですね。……確認しました」

「これよりウェルス騎兵隊に護衛任務を受け継ぎます」


グリフォン騎兵はプレートを差し出す。竜騎兵はこれを受け取ると、敬礼した。


「受け継ぎ、確認しました。本刻より我が隊が特務を遂行します」

「では、これより我が隊は帰投します。武運長久をお祈りします。では」


降下するグリフォン。竜騎兵らは頷くと隊長は手を掲げ、火魔法を何度も消しては付ける。点滅する光に合わせ、竜騎兵らは散開した。風を切るが如く輸送艦は浮き続け、竜騎兵隊は先行する形で進んでいった。


***


 時刻は進み一時間が経った時、艦はサウスアスチュートの上空にいた。冒険者の街に近づき、アスチュートの市街上空に近づくであろうという時であった。格納庫の要員が最初にそれを見つけた。

格納庫から内側から何かを叩く音が聞こえるというのである。無論、上級司令員は相手にしなかった。そもそも、今回運ぶのは新兵器の素材とだけ聞かされていた。其の上、昨今あった不可解な連続殺人事件でもあるまい、と判断した為である。然し、万が一という事もあった。もうすぐアスチュートも近く、事故が起これば被害は大きいという想定は誰しもに容易い。それ故に、格納庫に向かったのである。


「ここです」


内側から音が聞こえた。然し金属音にも似た鈍い音が響くのである。


「本来なら内部に入る事は…」

「万が一もある。荷物の確認も我々の基本任務。士官学校でそう習ったろう」


然し、そこで彼等が見たものは変形するほどになった箱であり、其の上尚、何かが箱を内側から叩いていたのである。堪らず上級司令員は艦橋へ向かった。


「艦長!」

「どうした」

「格納庫より報告!異音です、例の箱が変形して…うあぁっ!!」


轟音が底から響き渡った。


「どうした!」

「計器が…!わかりません!」

「機関室からの報告は何故無いんだ!!」


竜騎兵隊が見たのは輸送艦の右舷側部から無数の炎上と共に噴き出す砂粒が如き何かであった。ソレは艦を覆い、それと共に各部は爆発していく。


「攻撃…!?どこからだ…ホワイト、何故気が付かなかった!!」


自身の乗る竜はその時になって鳴き声を発する。敵の知らせを。

炎上するA133。豪炎と共に降下していく。


「このままではサウスアスチュートに堕ちる!」


隊長の男は自身のドラゴンのホワイトに合図を送らせると、全速力でA133の底部に向かった。せめて落下するならばその場所を市街から離そうという腹積もりであった。

一方で他の騎兵にはその漏れる砂が次々と襲い掛かった。


「な、なんだ!?いった…」


砂が騎兵をドラゴンごと覆い、そのまま騎兵を殺した。もう一騎はそれに気が付くも、既に二騎が堕とされていた。その時に隊長騎からの呼びかけがおこる。火を吐かせると、自身も火炎魔法を放ち、風魔法に乗せて、火災風を発生させた。そしてそのまま急行していく。数千トンにもなる輸送艦をたった三騎で支えるのは困難であった。が、その瞬間に輸送艦の推進器は火を取り戻した。

機関室に残った要員が起動させたのである。推力は然し尚も足りなかった。そして、最後には


「す、砂が来ます!」

「砂!?」

「り、離脱は…」


声は残らない。砂に似たナニカは最後にその姿を取り戻した。異形の怪物が姿を見せたのである。その姿はまるで


「き、キメラ…」

読んで頂きありがとうございます!

遂に20話ですね。節目じゃないでしょうか。最近雨も多くて。でも内容がなかなか…。でも、もうすぐ一区切り。頑張ります

読んで頂いた方、ありがとうございました!もし良ければ感想、評価等もよろしくお願いします。

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