一人での探索は?
第一九話です。
逃げる少女が一人。小綺麗なその服に見合わぬ形相で、街の路地を走っていた。周囲に人影はない。一体何があったのか等誰も彼も知る由は無い。ただ、少女には理由があった。だからこうして逃げている。裏路地にまで来て、治安はお世辞にも良いとは言えず。男達とぶつかる。無頼漢であろう者達は少女の手を掴んだ。
「おい嬢ちゃん」
「謝るくらいの事したらどうだい?」
逃げ出そうとする少女の腕を握りこみ、もう一方の腕も強く掴む。離さないという意思を介在させる。
「やめ…て、逃げさせて…」
少女の切羽詰まった声に無頼漢は耳を貸さない。ただ、その腕を引き込んだ。
「ここがどこか知ってんだろ?へっへっへ…かまととぶったってそうはいかねぇぜ?」
その瞬間であった。刃物のような者が無頼漢らの一人の頭部に突き刺さる。身体をびくびくと震わせ、その肉塊となり果てた男は斃れた。反対まで見えよう穴から血と透明な体液が流れる。
「な、なんだぁ…!?」
そこにいたのは女性。いかにもな白いロングドレスに身を包み、小さなヘッドドレスを被る。黒い髪に赤い口紅を塗る貴婦人。だが、貴婦人に見えるナニカである。アレは何だ、何がいるんだ。モンスターか、猛獣か。生気が何一つ感じられぬ。無頼漢も、少女も。誰しも感じる。人を真似ているが、人ではない。知的生命、それ以前に。動物ではない何かへの本能的な警戒。
「う、うわぁぁぁあ!!」
無頼漢の一人が拳銃を抜き、ソレに撃った。鉛の弾は命中するも、効果はない。血が出ない。もう一人はナイフを突き刺した。しかし。手ごたえが無い。引き抜くと手とナイフが一体化している。
「手が、手がぁっ!!?」
そのまま金属と一体化した腕は取れた。血は出ない。金属の様な浸食は男の全身を包むと男だったものは金属の光沢をもつ液体に変質し、原型を失った。もう一人の男は手を翳す。赤い光、魔力を込めたのだろう。然し己が放つ抵抗の心細い光を自身の瞳に映す事叶わず、ソレは手を翳した。風切音が聞こえ、その瞬間にその男は倒れていた。頭には穴が空いている。最後に残った男にはその腕を剣の身に変化させ、その首を落とした。
瞬く間に三人を処したソレを背に、少女は再び地を踏み、駆け出すが、甘かった。ソレはあまりに速かった。気が付けば、眼前にソレはいた。あった。首の様な部位を傾げるも、やはり生気はない。
「ひっ…や、やめ」
あどけなかったであろう少女が最後に見たのは、己の下半身であった。
***
二週間程が過ぎ、冒険者稼業にも慣れ始めたカムラとラリアであるが、カムラは引き続き魔法の練習をするも、火の玉程度で、攻撃というにはあまりに頼りなかった。出力はか細くも、最低威力は出せる筈なのだが、カムラの心には魔法への信頼は未だ不完全にあり、それが魔法に力が乗らない理由である事は自明であったのだ。
「なーんか上手くいかない感じ?」
「そうだなぁ。何でか考えども、イメージが足りんのかどうか…これがさっぱり」
カムラは手を翳すが、出る火は小さく、燃焼もすぐ終わってしまった。
「反応する筈なんだがなぁ…」
「カムラのイメージだよ。魔法に全部委ねて、魔法を信じて」
「いや、委ねてるさ既に」
「でも、多分足りないんだよ。頭の中、どこかでそうならないと思っちゃってるんだ。絶対そうなる!そんな確信というか、感覚が必要なんじゃないかな?」
普段なら、その様な迷信めいた方法等納得を示す事は無いカムラだが、今の魔法が使えないというのは、そんな曖昧の言葉さえ、信じざるを得ない状況に陥っていた。
無論、ラリアにとっては、曖昧どころか、明確な確信を孕んだ言説である。
「そうかなぁ」
カムラは試しに撃ってみるが、火は一瞬燃えるだけで、やはり効果は示さなかった。ラリアの方を向くもラリアはただ一言、頑張れとだけカムラに告げるのみであり、カムラも肩を落とした。
***
次の日、カムラは試しにと洞窟遺跡に来ていた。とはいえ、これはカムラのみである。無論、単独での行動は危険を伴う事は、深く知っていたが、回復魔法を一先ず覚えたカムラにとって、これから行う戦いは試しでもあった。また、少しでも収益を得たい思いもあったやもしれない。
彼は土から見ていく。何を思案しているか等と、誰やも知る事はないのである。
そして、そんな、たった一匹しかいない餌を見ていたのが、マクロニュクスらである。無力な獲物がたった一匹でいるのだ。これほど貴重な期間は無い。三体は静かに足を踏み、気付かれない様。一歩、一歩、確実に踏み締める。抜き足差し足とはこの事であろうか。が、たった一頭が小石を蹴った。僅かな音が洞窟に少しばかり響いた。三頭は双方見合わせる。そして、獲物もまた、その音に気付くのにはさしたる努力を必要とはしなかった。
カムラは顔を後ろへ向ける。そこに三つ程影を見かけた。当然、剣を抜く。抜かない理由もない。マクロニュクスも、最早隠れる事を諦めたか、コウリョウゴケの光の下に姿を露見させた。前脚の長い爪をちらつかせ、大きく広げる。
「Kyuauaaaaa!!」
実際に声に出すには困難であろう甲高い鳴き声を発し、威嚇すると、今度は声を出さずに接近していった。
長い爪が振り下ろされる。カムラはその爪を剣で絡めとると、持ち上げた。スペライノよりか小柄な肉体はカムラの装備によって強化された身体能力の裏付けに伴って持ち上げられる。テコの様に振り上げられるその身体はカムラが背にしていた洞窟の壁面に叩きつけられると、カムラは後ろ蹴りでその頭部に足を叩きつけた。残る二頭は最初一頭の死に怖じけつつも、今度はゆっくりと接近していく。カムラは背面の壁は邪魔であると、考え、前へ前へと進む。マクロニュクスも二手に分かれ、カムラを囲んでいく。カムラの背後の一頭が駆け出した。カムラの背に目掛けて歯と、爪を剝き出しにし、突貫する。然しカムラは逆に正面に据えるマクロニュクスに突貫した。突貫してくるカムラにマクロニュクスも唖然とし、待って、カムラにその爪を振り下ろさんとした。だが、その次の動きはマクロニュクスには判断できなかった。カムラは直前で進路を変えてきたのである。マクロニュクスは咄嗟にその動きを掴もうとするが振われた尾はカムラを捉えられなかった。カムラの背後を襲わんとしたマクロニュクスは同胞と正面衝突を起こす。同胞を振り下ろそうとするマクロニュクスであるが、カムラはそこに覚えたばかりの火炎魔法を放った。放たれた火は大きくも一瞬で燃焼を終えてしまう。
「あれぇ?やっぱうまくいかんなぁ」
挑戦してみようと放った火炎の威力にカムラは思わず首をかしげてしまった。二頭も瞬間的に感じた熱さも瞬く間と消えた事に驚きを感じざる得ないが、然しその瞬間がチャンスとばかりに飛び起きる。焼け焦げた皮膚が痛むも、動きを止めたチャンスを見逃すわけにはいかなかった。その爪がカムラの首に伸びていく。だが。火傷で引きずる左腕をカムラは見逃さず、それを蹴った。更に痛みで悶え、抱え込んだ身体、隙の首元に刺突。もう一頭は慌て逃げ出すが、カムラは尾を刺すとそのまま倒した。バランスを崩したマクロニュクスは倒れる。暴れる尾に苦戦しつつもカムラは背骨と尾骨の関節点を突き刺し、尾の動きを鈍くさせる。マクロニュクスは逃げ出そうとするも、尾によってバランスを取っていた為に、バランスを崩してしまう。カムラは首元にとどめを刺し、絶命させた。
「暴れやがって…。下手に暴れると益々痛いんだがなぁ。ま、わからないか。動物だものな」
すると丁度そんなモンスターの掃除を生業にする冒険者らに出会った。パーティーを組んでいるのであろう、複数人の冒険者たちであった。
「あれ、もしかして丁度倒した感じですか」
「あ、はい」
「一人でなんて。もっと多くだったら危ないですよ?あ、もしかして冒険者級高かったり?」
「いえ、お恥ずかしながら五級でして。いつもなら他の仲間もいるのですが。今日は腕っぷし試しで上層を一人でと」
「そうですか。あ、今倒したなら片づけますよ。脇に置かなくても結構です。任せてください」
「ありがとうございます」
カムラは手元の手布で剣に付いた血を拭き取る。そして鞘に仕舞うと立ち上がった。
「行かれるんですか。お気をつけて」
「ありがとうございます。皆さんも。その、お気をつけて」
軽く会釈をするとカムラは再び歩みを進めた。洞窟内は普段と何も変わらないが、やはりバグも発生するのがわかった。特に第五区はバグの生息域である。
第五区に入るとそのバグがいるのがわかった。ゲオルギー洞窟にあるのは分かり易くバグの巣穴があった。
カムラは数体のバグを後方に回って攻撃を仕掛けた。バグはその体躯故に昆虫らしい縦横無尽な移動能力を失っており、故にカムラは天井からバグの胸部を一撃で仕留める事ができたのである。理由は他にもあった。ゲオルギー洞窟壁面にはオオクログモの巣も多く、そこを攻撃し、蜘蛛を捕獲。バグを誘き寄せる餌にできたのである。これはカムラが木の伐採の際にヒグマが近づくのを木の実を伐採場から離すような置き方で近づけさせなかったのと同じ方法である。カムラは仕留めたバグを観察する。関節部や、内臓、出糸線を確認していく。彼はそれらをメモに殴り書きにメモをした。
***
帰宅したカムラをラリアが出迎えた。ラリアはラリアで魔術士級の申請をする日であり、今までは非公式魔術士の為に言うなれば魔法使い止まりであったが、今日という日を経てやっと正真正銘魔法使い、より言うならば魔術士に昇格したのである。
「ラリアが魔術士かぁ」
カムラは感慨深く言う。魔術士というと、宮中直属の近衛魔術兵といった上等の魔術士、一等魔術士は当然の事、軍属の二等や三等が大半の一般人にとっては想像に容易い部類になるが駆け出しは押し並べて十等魔術士が事実にある。ここからどう飛び級するのかであり、公的な魔術士活動をするのであれば五等級は最低必須となる。冒険者の多くは魔術士の級など有さない。持っていたところで特段のメリットが無い為である。
「私かの有名なローズ伯に憧れてるのよ。だから、冒険者以前にこれは必要な一歩だったの」
「それはいい事だと思います。ローズ伯自体は雲の上でしょうけど、ラリアさんにはその筋があると思いますよ」
「本当!?なら益々頑張ろうっと!」
「俺には今でも充分凄く見えるけどなぁ」
「なら益々頑張らなきゃでしょ?超すごくなってやるわ!」
ラリアの意気込みにカムラは頭を縦に振る。ラリアの実力はカムラにとってはそれこそ雲の上である。
読んで頂きありがとうございます
すこしばかし遅れてしまいました!すいません!
あとちょっとで20話ですね。節目でしょうか。まだ気が早いかも?カムラはまだまだ魔法の扱いに慣れてなさそうですが、どうなるんでしょうか。
読んで頂いた方、ありがとうございました。もし良ければ感想、評価等もお願いします。




