カムラに魔法
第一八話です。
カムラとラリアがイニシュラに戻った後、17時程にオーダもイニシュラに帰ってきた。
「あ、オーダ。お帰り〜」
気の抜けたラリアの声がオーダを出迎えた。
「オーダ今日は突然朝どっか行くっていうから。どこ行ってきたの?」
「アスチュートですよ。新型印刷機だとかで。発明家の方は何でもタイプライトとか言ってましたけどね」
「村にも印刷機欲しかったなぁ」
「珍しいねカムラは機械欲しいなんて」
「客の顔覚えらんないからな、手書きより印刷機で券を作った方が良かった…」
カムラはつい数ヶ月前を思い出す。カムラは客に頼まれた木材を注文通り加工したものの、その客が期限日から遅れて来た為に本人かどうか信頼できず、渡せなかったのだ。もしかしたら本人だったもしれないが、証拠が無い以上上手くはいかないのである。
「印刷機高いからねぇ。私達の村となると輸送費も高めにふっかけられるし」
「だよなぁ」
印刷機自体は村の村長宅にあったものの、村民の共有物であった為に、商売を理由にある種の独占状態にするのも憚られたのである。カムラはそれ故にその後は自筆での券を出すようになったが、自筆故に拙く、その後は判を使うようになったが、一枚一枚を作るのには本業よりも骨が折れた。この分の仕事にはその上利益は出ないのだから骨折り損の草臥れ儲けとは言わないまでも、収支に対する労力は全く見合っていなかったと言わざるを得ない。無論、斯様な事は誰に愚痴る事も意味は無く、カムラも黙々とやっていたのであるが。
「あの店員は使えるんだもんなぁ。いいよなぁ」
今更愚痴を言って意味は無いが、言いたくなるのが人間だ、とでもカムラは心の底から言いたくなった。
ラリアにはそのような事とは無縁である。ある意味で彼女は村で好きに生きており、また彼女の言う魔法の勉強は全てに於いて知識と体力、魔力の運動。ある意味で単純、純粋にしてわかりやすい過酷な努力である。余計な事を考えない分、より疲れるのはラリアであった。純粋故に印刷機のような機械の助けは借りない、借りられないのだ。
「カムラさんはもしかして有名だったり?」
「まさか。あの時はしがない木こりだったよ。都市部のギルドの連中の方がよっぽど利益が上がってら」
「あれ?でもカムラのところはよく来るお客さんいたじゃない」
「ん、あぁそうだな。ま、ああいう物好きな客もいるんだろ」
「常連への扱い雑だなぁ」
「そうかなぁ」
カムラとラリアの会話を傍から聞くオーダはその光景を微笑ましく思ったが、ふとあの老紳士の字が頭を過る。然しカムラに聞く勇気が湧かず、押し黙ってしまった。オーダはなんとか話題を作ろうとラリアの杖の話を振った。
「そういえばお二人は杖を買いに?」
「あぁ。前折れちゃったからな。バゲットで買った魔石が役に立って良かったよ」
「私の目が良かったのね」
「よく言う」
然しカムラの手に魔石が握られている。
「それは使わなかったのですか?」
昨日に拾った魔石であった。
「質で信じられるのはこっちなのか?」
「一般的には多く使う方がいいとされますし」
「いや、いいの」
ラリアはそう言った。そして更に言葉を続ける。
「高くなっちゃうでしょ?今回の遠征は結果的に杖分合わせて赤字なのよ?だから、なるべくやすく。でも質で信じられる鉱山の魔石を使おうと思って」
「そんなもんなのか」
「うん」
成程な、とカムラは唸る。ラリアは伊達に家の仕事を手伝わず魔法の勉強をしていた訳ではない。しっかりと実力を積んできたのだ。でなければ咄嗟の判断での魔法はそう使えないものであった。
そうこうと話す内に時刻は18時に迫る。夕食の時間となった為に、食堂に向かった。
「今日の夕食は野菜と、ロース!」
ラリアは昨日と比べてしまう。わかっている。昨日は奮発したのだ。毎回あの食事にする訳には当然いくまい。寧ろ、いつもの食事に戻っただけの事である。口に入れる。見た目と量こそ昨晩には及ばないが、味は不味くない、寧ろ、美味しい。今に始まったことではないにせよである。
「飯食った後どうする?と言ってもそんなやる事もないか?」
カムラが食事後の水を飲みつつ言うと、ラリアは首を振る。
「なんだ、やる事あんのか?」
「カムラさ、魔法覚えてみない?」
「は?」
***
カムラはその夜、街の外でオーダ、ラリアと共に水晶玉を片手に訓練をしていた。
「先ず、カムラの魔力量から見よう!」
ラリアはカムラの脈に手を当て、呪文を唱える。
「汝の与えられし、神の奇蹟、我が肉体はその奇蹟を神とその下界の創世を信じ賜う我が身、我が魂の元にその全てを見通そう」
呪文を唱えるとカムラの手の水晶球の中は霧の様なものが生まれた。敢えて言うならば、やや赤みが帯びた様にも見えなくもない霧。それはそのまま霧散し、水晶はそのまま元の球に戻ってしまった。
消えたそれに三人の動きが止まる。
「よし、んで、何がわかったんだ?」
カムラは聞く、だが然し。ラリアからの反応は無い。オーダも反応を見せなかった。
「……失敗したかな、もう一回いい?」
「ん?あぁ」
ラリアは再びカムラの脈だろう場所、それも首元に手を当て、呪文を唱えた。だが、水晶は先程と同じく、無色に近しい色を出し、消えてしまった。
「何か変わったか?」
十数秒、若しくは数分。動きが止まった。ラリアは動きを止めざるを得なかった。カムラという男にあってから一年と少しばかり経つが、恐らく今日程驚かされる事は無かった。否、これまでの人生で今日という日ほど、驚く事は無かったのだ。
「何か言ってくれないか」
カムラの声にラリアはハッと、気を取り戻す。
そして、カムラを見て、何とか、その喉に詰まった言葉を発した。
「…あのねカムラ」
「うん」
「聞いてね?」
「わかったって」
「…魔力がね、無い」
「……」
魔力が無いのだ。厳密には、若干ある。ただ、微弱。無いも同然。空気中のマナに反応する分を考慮し、その量を引けば、間違いなく、ゼロに近い。
オーダも驚嘆を隠せない。生まれてこの方、魔力を持たない人間等、一度として目にした事は無かった。否、この世界に一体誰がその様な人間、見た事があろうか。彼女をして、初めて見たのだ。確かに、オークやドワーフ、セリアンスは持たないと聞いた事があるが、真実持ち得ない者を知る事は無かった。
「……ど、どうしよう…」
ラリアは頭を抱えた。だが、魔力を持っていないカムラの方が悲惨であるのは事実であった。
「ま、まぁほら、カムラはさ、その、前衛として今まで頑張ってたじゃない?」
「無理してフォローしなくてもいいぞ…」
「だから、役立たずなんかじゃないよ!あの…誰だっけ、ハミルさんにも勝ったじゃん?」
「え、ハミル公子に出会われたのですか!?」
「悪いがそれは話がややこしくなるから放ってくれないか」
ラリアとしては恐らくは先ずカムラの魔力を見て、使う魔法を判断したいところにあったのだが、そもそも無い、等と論外も論外な話になれば、どうするか、とは難しいところとなるものである。
「そもそも魔力が無いとなると魔法扱う以前の問題となりますね…」
「カムラは魔力が少ないんだとばかり思ってたよ」
「ならもういいじゃないか。魔法使わなくたって」
カムラはそう言うが、ラリアは否定的であった。
「変に消極的じゃない。で、これはダメだよ。だって…」
曰く。現下カムラには遠距離戦闘手段が無いのだという。オーダに任せてしまおうというのはカムラの言であるが、これは成り立ち得ないとオーダは一蹴した。目標が単一ならばカムラの想定する状況は成り立つが、単体で活動するモンスターはそもそも極僅かである事を前提に置くべきであるというのである。これはカムラ自身薄々察するところにあったが、オーダは先の探索にて、クリーチャーインセクターやソルジャーバグは遠距離攻撃手段があると察し、その射程は15mに満たないのを想定した上で、カムラが魔法による遠距離攻撃手段を得る場合、その戦闘の幅は広がるに相違ないという論である。
「まぁ、理由はわかった。で、ならどうやって解決する気なんだ?魔力無いんだろ?」
「…そうだよねぇ。拳銃でも買うかなぁ…」
「でも今日だけで出費は大きいですし。それに一度撃つと次弾が撃てませんから、何挺も買わないといけなくなります。まだまだ小さなこのパーティーには重いです」
「だよねぇ~」
ラリアは再び頭を抱えた。どうしようか、とそんな空気が流れたが、ラリアは動きを止めた。ラリアは思いついたのだ。
「ん?ん~、何を…」
「そうだっっ!!」
ラリアは腰に下げた袋から魔石を取り出すとカムラにそれを近づける。カムラに通る微弱な魔力が空気中のマナであると信じ、それの流れを変える。魔石から発するエーテルをマナに、マナを、カムラに。魔石とカムラを繋げて見せた。本来これは回復魔法であるが、発想として、疑似的にカムラに流れるエーテルの流れを作ってみせた。魔術士同士が魔力を分ける際の方法でもあるが、霧散する代わりにカムラにも適応できると考えた訳である。
「な、何か変わったか?」
「多分変わった筈だよ!試しにこの水晶にもう一回手を当ててみて」
「ん、あ、あぁ」
カムラは水晶球に手を当ててみる。ラリアは再び呪文を唱える。すると、先ほどとは違い、水晶内は赤みを帯びた霧が現れた。
「なにこれ」
「魔力だよ!
…でも、ふ~ん。赤って事は攻撃魔法なんだ。カムラらしいや」
「それしか出来ないって事か?」
「まさか。特異なものってだけ。私の得意分野は強化や回復らしいけど、私が好きなのは攻撃魔法だし。性格はそんな関係ないから、カムラは魔石から直接だからこうなってるのかもしれないし、偶々かもしれない」
「若しくはその両方、ですね」
オーダの言葉にカムラは妙な納得感を覚えた。確かにそちらの方が説明に容易いではないか、と。
「よし、それじゃ早速魔法を覚えていこう!」
***
改めての特訓が始まった。ラリアの説明から始まっていく。オーダは魔法に関しては魔術士ではない、とカムラに説明する事は無かった為にラリアが話していく事になった。ラリアは魔術書を片手に話していく。
「魔法はイメージ力!想像した事を具現化させる能力で神様が曰くは主に与え、そしてその子達に受け継ぐ事を赦した奇蹟の再現なんだよ!まぁ私神様信じてないけど」
「感心しませんよラリア。貴女くらいの年齢から唯物論に傾倒しないでください」
「まぁまぁ。それで?}
ラリアは、オホン、とわざとらしく咳払いし、話を続ける。
「カムラに覚えて欲しい、というか、知るべきなのは一番簡単なファィエル。今は取り合えずこれだけ」
「火炎魔法か」
「うん。応用も効くし、初心者ならみんな通る道だから」
「成程。で、どうやるんだ?」
ラリアはカムラの手を握った。
「取り敢えず、私に合わせて。深呼吸」
「あ、あぁ」
カムラには若干、カムラには全身を極小のミミズが這う様な不快感が齎された。
「変なの来たら、それが魔力。集中して、火を起こすの。火はどうやって生まれるかわかるでしょ?」
カムラは火のイメージを持つ。火の原理、仕組み、燃焼。
「燃えるのはエーテル。使うのはマナ。マナをエーテルに、エーテルを燃やして」
カムラの手の上が酷く熱い。火を握っている様な感覚になる。
「はい、できた」
カムラの手には火が握られていた。
「あっっつ!!」
「凄いねカムラ。一発じゃそうできないのに。でも火が弱いなぁ」
「極小ではないですが火炎はこれでは20m、いえ、間違いなくそれ以下で止まるでしょう」
「十二分だな。近接戦闘するには充分過ぎる。こけおどしくらいで丁度いい。これ以上求めては我欲の強さで罰当たりだ」
「そう…でしょうか」
ラリアは空を見上げる。月は既に頂上を過ぎていた。
「やっばい!時間食い過ぎた!」
「続きは又明日といったところですね。よろしいですかカムラさん」
「あぁ。この魔力とやらは気色が悪くて敵わんからな。俺は」
「其の内慣れるよ。私だってそうだったもん」
三人はそのままイニシュラに帰宅した。その翌日、起きた時間が驚異の10時であった事、カムラは既に起きており、それへの二人の驚愕はまた別の話である。
読んで頂きありがとうございます!
あとちょっとで節目でしょうか?カムラに魔法が追加され、戦闘の幅も広がって。どう使うかは考え中です。




