休日は何する?
第一六話です。
かなり話も進んできました。
その夜、生還と初の三人の探索を記念し、ギルドの食堂を使ってみる事になった。普段のイニシュラの食堂を使わず、ギルドの食堂を使ったとて大層食事がどれほど変わるのか、とカムラは考えたものの、ラリアのお願いにカムラは提案を呑まざるを得なくなった。
「んじゃ、成功を祝して、かんぱーーい!」
「「か、かんぱーい」」
ラリアが頼んだのは、果実飲料なるものであった。昨今都市部では果実飲料が流行っているらしく、葡萄酒も味の濃い果実飲料として飲む事ができた。カムラは変わると不便だ、と考え、葡萄酒を頼んだ。オーダはビールを頼んだ。オーダの故郷ではビールがよく飲まれるのだという。
「でも、今回は大した怪我なく終わってよかったねぇ」
ラリアはそうあっけらかんと答えた。
「よく言う、危なかったのに。…ま、でもいいんじゃないか。こうして気分良く飯食えるなら」
「私も同意見ですね。皆さんの気分が良いというのに何の不満があるというのでしょうか」
そうして話していると、席に食事が届けられた。店員は盆の上に載せられた料理を机の上に並べていく。
「「おー」」
カムラとラリアはそんな声を出した。
机の中心にあるのは鶏の丸焼き。更に野菜を載せたサラダ。殊、二人を魅了したのは胡瓜にトマト。都市部では食べられる様になったと聞いたものだが、ラリアは初めてそれを見た。そもそも野菜全般、ここブリトン島ではそうそう採れるものではない。大陸から輸入されてきたのだろうか。
ラリアはフォークを手に取り、トマトを口に入れる。見た目は果実の様な赤みを伴うが、してその味は。
「甘…くない!」
酸味の効く味は果実とは全く違う食感をラリアに与えた。果物の様な味を想像するラリアにはこれは余りにも衝撃的であった。
「………」
「ん?」
「……私これ嫌いかも」
ラリアにとって、トマトは初めて見て、食べるが、彼女の好む味では全くなかったのである。
「アペニンでは火にかけて食べるとも聞きます。一時期は毒、などと言われ忌避されたものです。ですが健康に良いともされていて、大陸の方でこれを食べる事は一種の…」
オーダはそう語るが、ラリアの顔は嫌だ、と全身で語っていた。こうなってしまうと中々食べるのは難しい。
「この、胡瓜なんかはどうだ?」
「…わかった。食べてみる」
ラリアは胡瓜を口に運び、何度か口を動かして飲み込んだ。ラリアの顔は一気に明るくなった。
「あ!味は…なんとも言えないけど!食べれる!」
ラリアが再び胡瓜に手を伸ばそうとして、カムラがその手を止め、フォークを突き刺した。
「俺にも…もきゅ、くぁせろ。」
もしゃもしゃと食うカムラが再びフォークを刺した瞬間、ラリアはカムラの使うフォークを奪い取り、野菜を口に放り込んだ。
「あ、汚ねぇ!奪いやがっ…」
カムラの口が止まる。ラリアが何事かとカムラの視線先を見ると、食べる野菜を目の前で奪われたオーダのフォークは机の上を泳いでいた。
「その……いえ、お二人が食べてくださるなら私は結構ですので」
気不味くなったカムラは手を挙げた。
「店員さーん!もう一皿お願いしまーす!」
***
カムラ達はギルド食堂から出ると、外の空気を吸った。外は暗く、電灯がそこかしこに付いている。
「いやー。食った食った」
「そうだねー」
腹を叩いてカムラは満ちた腹が苦しいと表明する。そして、紡がれる言葉には、ラリアも同意を示した。これだけ食べ、価格は30デナース程度。安く、そして鱈腹食べられたのだ、また来ようとカムラは言い、ラリアも快く頭を縦に振った。
その二人に入り込めないのがオーダであった。オーダはどうも普段より呑み過ぎたらしかった。顔はやや赤みを帯び、足元のフラつきが見える。それでも酷い酔い方をしていない点で、二人は実に安心できた。
「ビールってのは結構な酔い方するものなのか?」
「…あ、いえ…いつもより…飲み過ぎましたから…」
うつらうつらと頭を動かすオーダを見かね、ラリアはカムラに指で示す。
カムラは少しばかり拒否を示すが、少し考え、結局彼女を背負う事になった。
カムラとオーダでは、身長がほぼ同じであるのだが、それ故にカムラは自身が背負う事を憚った。然し言われた以上しないわけにもいかない。カムラはオーダの前にしゃがみ込む。オーダはそれに応えて、カムラの背に乗った。
「…っ、重…っ…」
カムラは思わず言葉を漏らした。
「え、お、重いですか…!?」
「い、いや、いけるいける」
カムラの自論としては、人なのだから、どうしても重くなるものなのだ、と、自論はあるが、それに加えて、もう一つもある。
「持ち難い……。あとなんだが触れちゃいけんところに触れ過ぎてる……」
首元に胸部、手に腰部。なるべく配慮する気ではあったが、どうしても触れてしまう。頭に乗るオーダの息は酒の香りを滲ませるが、些かカムラには早過ぎたやもしれない。
「何でカムラ顔赤くしてんの?」
ラリアは顔に薄い笑みを浮かべてカムラを見る。
「うるせぇ!バカっ!」
カムラがそう言い捨て、足早にイニシュラに行くのをラリアは慌て追いかけていった。
***
翌日。カムラとラリアは杖を買いに行った。ラリアの杖が折れてしまったのもあって、どうにも杖は魔法を使う後衛には必須であり、買いに来たのだ。無論、まるまるを買うとなると些か高くつく。そこで使うのはバゲットで買った魔石である。杖の木材部は安い等と口が裂けても言えないものであるが、杖の値段の大部分が魔石の高騰によるものが多いのである。昨今魔石は魔法使いによる単なる装備品にのみならず、工業製品としても採掘される事が多く、寧ろ現在での市場の大部分を占めるのは、工場や街の電力、更には空中艦のエネルギー源となるエーテル炉である。レイ砲のエネルギー源でもある。別々で買う行為自体に安く済ませるコツがあるわけではないが、魔石と素材の値段を合わせた杖の値段は今持つ魔石を無駄にする事にもなりかねず、結果的には彼等が今する行為の方が安価である、という判断に基づくものである。
「すいませーん」
一昨日、立ち寄ったカミンスキーの店は今回は寄らず、同じくノルト通りにある杖の専門の店に立ち寄った。
「ん、どうしました?」
「杖が欲しくて。ここは鍛治師のギルドと聞きましたもので」
カムラはカウンターの店員に話しかける。店員もカムラに反応し、対応を始めた。
「え、えぇ。確かに。どこに頼むかはご希望ありますか?」
「無いです。ご自由に。それからこちらで魔石は事前に用意しているのですが。どうでしょう?安くなったりとかって」
「そのままご購入された方がすぐご使用いただけると思いますが…」
店員はやや顔を顰め、カムラに聞くが、カムラにとってどうするかは既に決まった話であった。
「いえ、これでお願いします」
「そう…ですか。わかりました…でしたら4アーレスと50デナースのお支払いでお願いします」
「わかりました」
カムラはすぐに支払うと、届くのがいつかを聞く。
「いつ程完成します?」
「明日、明後日ですかね。あ、よろしかったら券を出しますから、それを当日に持ってきて頂ければ」
店員は厚紙を印刷機に入れると、インク台にインクを載せ、インク台に満遍なく行き渡らせる。インク台に活版を押し当てインクを載せると、厚紙に押し当て、簡易的な券を作った。
「はい、どうぞ」
「どうも」
店を出た二人が、顔を向けるとそこにいたのはハミルであった。顔を合わせまいと店に戻るも、遅く。
「カムラくんじゃないか!久しぶりだな」
「は、はぁ」
苦笑いをカムラは浮かべてハミルから差し出された手を握り返す。
「いやはや、まさかこんなところで会えるとは思わなかった。私もね、君と会おう等と思っていたところなのだ」
「んーと、それは?」
「実はねぇ。私はとても身勝手乍ら明日はパーティーで第六層に行く話になってしまってね。心苦しくも明日の決闘は今日やるか、それとも、私の事情だ、中止とするか。話そうと思っていたのだ」
そのように言うハミルにカムラは当然中止を、と答える気でいた。
「なら今日やるって事?」
ラリアの言葉にカムラの動きは止まる。目を輝かせ、やるのよね、とばかりに言うラリア。
「は?」
「成程!おじょ…いえ、ラリアさんはそのように言うが、カムラくんはどうかな?」
「どうか…お手柔らかに…お願いしてもらっても?」
***
ハミルが四度手を叩くと、周囲に人集りが出来てくる。
「何時もこの合図をして私は決闘をするんだ。貴族の暇つぶしというやつさ。嫌われるだろうか」
「さ、さぁ?でも、貴方は悪い人では無さそうですからね」
「君はなかなか怖い男だと聞いた」
「誰から?君に脅されたってパーティーからさ」
(奴等、話しやがった!……やっぱり口で解決するべきでは無いか…!)
カムラは心の中で僅かに怒りを見せるが、ハミルへの八つ当たりもまた間違いであると知っていた。
カムラの前に剣が放られる。模擬剣か。然れどその刀身は模擬剣に有るまじき太陽光を反射する白銀の刃を有していた。
「…真剣で?」
「真剣ではないよ。ただ君は強いと聞いたから。是非実戦らしくやりたくてね。ダメだったかな?」
それにカムラはその言葉の先が紡がれるのを遮って口を開く。
「……はぁ。わかりました。受けて立ちましょう。俺は双剣術でやらせてもらっても?」
「嬉しいね。それにいい目だ。僕も得意なものでやりたい」
そう言うハミルにカムラは黙って剣を取った。
「勝敗はどう付けるおつもりで?」
「単純明快。相手の籠手を落とした方の勝ち」
カムラは溜息一つつくと剣を構えた。ラリアが叫ぶ。
「いけーっ!」
その言葉に民衆は声を上げる。熱力は最高潮である。
「お前が焚き付けんのかよ!」
「…… ハハ、中々なお嬢さんだ。巻き込まれるカムラくんも満更ではなさそうだし?」
「余計な…いや、すいません。口が過ぎました」
ハミルは手のツヴァイヘンダーを掲げると、カムラの前に突っ込んだ。カムラは刺突かと身体を斜めにするが、それは刺突に非ず。振りかぶられた横一文字。カムラはこれを左で受け流し、スライドする身体でもって右で突きを与える。ハミルは慌て気付き、顔を避けるも頬の皮膚が裂ける。カムラはそのまま右の剣を引いた。ハミルも駆け抜けて、カムラと間合いを取る。
「一本…?」
「…強い、でも、私も負けられないっ」
その一瞬の攻防だけ。それだけで万雷が如き歓声は響き渡る。
「「オオオオオオ!!」」
ハミルは再び突進する。次は袈裟斬り。これをカムラは身体で再び避けるが、今度はそのまま振り終わる前にハミルは突きに変えてきた。カムラは右でその刃先を流し、左の剣を前に出す。しかし、ハミルはハンドガードでこれを弾く。そして逆刃で首を狙うも、ハミルは一瞬、躊躇した。これを見逃さなかったカムラは姿勢を低くして避け、開いた胴に体当たりし、柄で肩に一撃、そして籠手を弾いた。
「君の勝ちだ…!」
カムラの勝利。負け無しのハミルが初めて敗北した。
「いや、貴方も強かった。一歩遅ければ俺がやられてた」
「私は躊躇したのに君にはなかった…、私にそこまでの覚悟が無いのが悪いのさ」
ハミルはその金髪を整える。
「何だか自分の方が負けた気分がしますよ」
ハミルはカムラに握手を求めた。カムラはその時、何かを思い出すと、その手に魔石を持たせた。昨日拾った魔石の欠片であった。
「その、すいません」
然しハミルは受け取らない。
「要らないよ私は。だって君のだろう?」
「……やっぱり自分の負けですね」
カムラはそう結論付けた。
「ハミル様負けちゃった…」
女性がそう呟く。ラリアはその女性に近づく。
「私のカムラは強いんだからね!見た!?強いでしょ?」
それを聞いた女性が余計泣き出し、カムラはラリアに拳骨を喰らわせた。
読んで頂きありがとうございます!
かなり話も進んできましたね。中々上手く書けて満足と言ったところでしょうか。何かしら大きなイベントも設け始めたいところです。




