第四層での一悶着
遅れてすいません!第十四話です。
第三層にまで降りた一行は各地点の地質を確認しながら奥へ進んでいった。
第三層の地形は特段見るべき特徴は有さなかったが、ギルド公式の地図と照らし合わせ乍らカムラは特徴を記録していった。寧ろ、特徴の薄い第三層はカムラにとっては非常に危険であったとも言える。地図と常に照らし合わせ乍ら探索しなければならないのが第三層だとカムラに刻み込まれた。ラリアはその点はそこまでは考えず、その先第四層の情報が気になるところとなっていた。ラリアは本探索に先立ち、事前にその先となるであろう第四層について大まかな調査をしていた。カリヨン村でも度々見かけるピュトーンやオオクログモが生息している事がわかった。
「ラリア、ちょっとその石取ってくれるか?」
先を行くカムラに促され、ラリアは周辺にある石を徐に拾い、カムラに手渡す。
「ありがとう」
カムラが手帳に石に関しての特徴を事細かに書いていく。
「そんなにいる?なんかカムラいつにも増して書くね」
「逆にお前は珍しく書かないな」
「事前に調べたし」
「なるほどね。俺は事前知識等無いからな。百聞は一見に如かず、実物を見た方がよっぽど早い」
「その上で、調べるって事?」
「そうだな」
「ふーん。二度手間だぁ」
「確実だから、な」
カムラは見終わった石を捨てると、再び歩みを進めていった。
「クリーチャーバグの巣も調べて欲しかったが?」
「そんな事言っても情報無いし」
ここでオーダは口を開いた。オーダこそ、クリーチャーバグの巣について幾つかの情報を持っていたからである。
「まだわからない筈です。前の私のパーティーでは巣の捜索をしていました。依頼主からは入り口の捜索を依頼されましたが、全体像の把握には至りませんでした。…ここは私が不甲斐ない故ですね」
「それは違うよ。この中でなら、そんな依頼を受けてたオーダが私達の中で一番知識があるって事。なら、何もわからない私達と、知識あるオーダなら、偉いのはオーダ。わかった?」
「そう言ってくださるのは嬉しい事です」
ラリアは頭を縦に振ってそれに応える。カムラはそんな二人を横目に、ひたすらに周辺の特徴を手帳に書き込んでいた。
***
第三層では戦闘もなく、そのまま第四層にまで降りる事ができた。この先の地層は白亜であり、その年月もかなり古いものとなる。第三層に特徴がないのは確かであるが、それは第四層と第三層の間には空白期と呼ばれる3000万年の空白があるからである。あまりにも離れている故、現在でもその原因は明確ではないのであった。
第四層への洞窟縦道は発見者からとって、エドワード洞窟縦道と呼称される。縦に真っ直ぐ伸びる縦道の為、梯子が併設されており、本来ならばそれを使うのが常識である。
「ウィンド!」
下に風を吹かせ、5mほどをゆっくりと降下していく。魔法を操る彼女故の芸当に他ならない。このような一歩違えば大怪我となる様な行動は本来カムラが注意するものであったが、殊この時ばかりは、その優雅さを見せるその降り方に息を呑んで見守ってしまった。
「やったーっ!」
その空気を容易く壊すラリアにカムラは肩を落とす。
「次はやるなよ?」
無言で親指を立てたラリアに、カムラは次もやるという確信を持たざるを得なかった。
一方でオーダはカムラとは逆の見解を示す。
「いえ、やるべきでしょう」
「は?」
カムラには何を言ってるのか分からない。何故、この行動に間違いはないと言い切るのか。まして推奨等と。然し何らかの理由を持つのだ、とカムラは反論する言葉を抑え、その理由が語られるのを待つ。
「そういった応用は必ず必要になる。命の危険を顧みないのは今。然し、必要になる時は時に大怪我でさえ、良かった、と思うような状況下となります。梯子があるのは今だけ。無い時の方が多い」
オーダの言葉は最もである。カムラもこの答えならばと納得するが、同時に魔法の必要性も感じ始めた。
「魔法ってのは何でもできるのか。頭が上がらんなぁ」
第四層へ降りた一行が向かったのはセーフ洞窟空間であった。第二区はそれそのものがセーフ洞窟空間であり、硬い岩盤は崩壊を押し留め、幾つかの自然の柱が天井を支えていた。ここは冒険者が集まり、ここでさらに下層か、帰る前の拠点とする事が多かった。そしてここを執り仕切る大きなパーティーもまた、いるのは社会の常であろうか。
カムラらがハレー洞窟回廊を抜けると、冒険者がそこを見張っていた。カムラらが人であるとわかると、手元の銃を下げ、再び見張りの位置についた。会話こそ無いが、その胸元のバッヂは彼の気になるところであった。
「オーダ、今のは?」
「血盟連合団。パーティーです。大規模なパーティーで、アスチュートに拠点を構え、傭兵から、冒険者までいると聞きます」
血盟連合団のメンバーのバッヂは赤一色に短剣の絵があしらわれていた。直接的で、寧ろ、十字軍の様な印象を与える。
(軍人みたいなもんなのか。なるほどね)
「のう、オーダ」
カムラはどうしても気になり、オーダに聞く。
「あの人らは、どんな装備なんだ?」
「というと?」
「船とか持ってんのかなって」
「あぁ。そういう事でしたら持っていますよ。…噂ですがね、私掠船団という話もあるくらいです」
「そりゃ凄い…。その私掠船団は海だけか?」
「いえ、どうもそれだけではないようで。…まぁ、かなり大きいと。冒険者の間ではよく言われる、与太話などと思っていてください」
アルト洞窟を抜け、その先に出る。そここそ正真正銘のセーフ洞窟空間。篝火が至る所に設けられ、その光はラリアとカムラには実に懐かしい光であった。カムラは柱に身体を預け、腰を落とす。
「あれ?…あっ、カムラ寝袋無いの!?」
「そうだが?」
「その、寝辛くない?」
「いや全く?それよりもほら、携帯食くれ」
手を出すカムラにオーダはクッキーを手渡す。カムラは手元の水にクッキーを浸すと、口に放った。
オーダは干し肉を食べ、カムラとラリアに果物を渡した。
「これだけ動けば果物が必要になります」
「…そうなの?」
「最近の医者は果物さえ食べれば病気にならない、と言っていましたが」
「それはそれで違う気もするが」
そうして夕食を食べていた一行に、複数の男性冒険者が近づく。オーダの元へ向かっていた。カムラは何となく察したが、敢えて放置し、泳がせる。動こうとしたラリアは制止し、気付かないフリをした。
「アンタ、何人だい?」
「……」
オーダからの反応がなく、男達はオーダに手を伸ばす。オーダもそこで反応せざるを得なくなった。
「私に…何か?」
「そりゃそうだよ、随分別嬪さんじゃねぇか」
「それにガキじゃねぇ」
「男っ気の多いここじゃ珍しいもんさ」
「そうですか」
オーダは流そうとするが、男達は既にオーダをロックしていた。
「アンタ一人?」
「サキュバスだろ?」
「何歳?」
複数の質問にオーダも困ってしまっていた。そして、オーダに手が伸びる。その身体に触れんとしていた。
オーダは咄嗟に身体を下げる。
「あれ、逃げられちゃった…。で、何人?」
「サキュバスですが…」
「ほれやっぱり!アンタ娼婦の経験は?」
「ありませんが…、そういうお誘いなら他の方に…」
更に男達の手が伸びるところで、カムラはやっと動いた。
「あー。失礼」
「あぁ?」
「ねぇ、僕。僕はお呼びじゃないんだけど」
「僕って言ったの誰だ」
「おじさんだよ」
男が言う。下心丸出し、と言った目は明らかだった。
「アンタか。テメェ、俺よか身長低いだろうが。よぉ僕、女を探すなら上にしな。生物学的なメス探すならモンスターとでもヤッてこい」
「な、喧嘩売ってんのか!?」
「売ってんのはテメェだろうが、何アホ面晒しとんじゃ、ごちゃごちゃ五月蝿いわボケ!」
カムラは強く怒鳴った。
「踊りたいなら自由にしろ、だがな。剣舞で、だ。今ならモンスターの餌という話でカタがつくぜ?
どうすんだ…よっ!」
カムラの拳は真正面の男の頭頂部を殴り込んでいた。そのまま、左拳は首へ。倒れ込む男の背に三度も蹴りをいれた。
「こうなりたいか?」
「わ、悪かったよ…な?」
「な?ハッハッハ。…笑い事で済むと思ってんのかおどれぁ!反省の色見せるなら失せろ、次やるなら、おいテメェ!」
カムラは逃げようとする男に指を指す。
「何してんだ?一歩も動くんじゃねぇ、叩き潰すぞ、丸わかりなんだよ、んな事もわかんねぇのかっ!」
「ヒッ」
「二度とやるなよ?」
「「す、すいません…」」
男達が下がるのを見て、カムラも安心の一息をつく。足下の男も背中を抑えながら離れていった。
「オーダ?」
返事のないオーダに、カムラは声かけるが、微動だにしない。カムラが譲ろうと手に触れて、オーダはその目を戻す。
「…あ、そ、の、すいません。余りにも…怖かったので」
「…誰が?」
「いえ、大丈夫ですから。大丈夫なんです」
カムラは流石にやり過ぎたか、と思った。ラリアの方を見ると食料を見せた。
(無事だったか)
カムラはオーダを落ち着かせ、早めに寝かせた。ラリア、ゆっくりと瞼を閉ざした。
***
皆が寝静まった時間、男の一人がカムラ達三人の元に近づきつつあった。男は先程オーダに絡み、カムラに注意された男であった。男の伸びるその手の先。
が、寸前でその手は止められた。
「お、起きて…」
その口は手で塞がれる。
「しっ。静かに。ちょっと向こういこうぜ、おじさんよ」
カムラの腕は男の腕を掴んで離さない。
「他に起きてる奴はいるか?」
「…い、いや、いない…」
カムラはそのまま第二区の外れ、小セーフ洞窟に男を引き摺った。
「ここでならよく話せるな。ふぅ」
「わ、悪かったよ、もうあの女に手をださねぇって…」
だが、カムラの険しい顔は強くなった。
「シラ切るんじゃねぇや」
カムラは一言言う。その口調はカムラからあの時の空気を再び作り出している故の口調だった。
「サキュバスなんざに手ェ出すなんて不思議だと思ってたんだ。多分、それもあったろうが…狙いは果物だな?」
「そ、そうだよ」
「先はああも言ったがな、ちょっと俺も言い過ぎたよ。オーダ狙いか、なんて頭に血が昇っちまった」
カムラの言葉一つ一つに男は段々とその緊張を解いていった。しかし、やはりカムラという男は許していなかった。
「だが、どちらにせよ許さん。冒険者なら飯がいかほど大事かわかってる筈だっ!違うかぁっ!」
「し、知ってるとも!だがな、果物があればこれ以降の探索だって…」
「知った事か!テメェのケツはテメェらでふけ!そもそもな、俺みたいな村育ちはいつも果物が足りねぇのが当たり前だ!テメェらはいいよなぁ?地上に行けば食えるんだから!だから我慢がねぇんだ!」
カムラは男の胸を蹴り飛ばす。何の予備動作もない動きで男はその蹴りを面と受けてしまった。
「何で警戒しないかなぁ?所詮は人間相手を想定できない冒険者止まりか、嗚呼、お似合いだぜっ!」
カムラは襟首を掴むと腹部に三発の殴打、更にスネ、足首を蹴り込んだ。
「テメェなんか、こうしてるっ!
いいかっ!二度と近づくな、クソがっ!次やったら殺してやる、大マジだぜっ!いいなっ!?」
「ぐ…ふ…」
「返事が聞こえなぁぁい!どうしたぁっ!」
「…も、もう、わかったから、やめて、やめ…」
カムラは膝蹴りで胸部を蹴ると、漸く手を離した。
「テメェらタチ悪すぎ。反省しろよ」
フラフラと歩く男を見かねたカムラは担いでセーフ洞窟空間に戻ると、男達のパーティーの元にその身体を戻し、カムラ自身も再び柱の側で目を閉じた。
ラリアが起きた時、珍しくカムラが未だに夢の世界にいた。起こしたラリアはカムラにおはようと、挨拶をする。昨日の男達はオーダの元に昨日と違って態度を変え、やけに低姿勢で謝るとそそくさと、第三層の方へ向かっていった。カムラは欠伸をしながら、男達を見守った。
読んで頂きありがとうございます。
遅れてすいません。今回カムラは大分口悪いですが(片鱗はありましたが)、やっとこの性格を見せれるようになりました。
次回は明後日です。今度こそ、投稿します。




