新メンバー
第十話です。やっと十話まで投稿する事が出来ました。
「返事?つまりは、いや、その答えは是非そちらから聞かせて欲しい」
カムラは聞く。オーダの口からカムラは返事を望んだ。それは彼女に判断を強要するのではなく、最後まで彼女自身の判断なのか知りたいと感じたからであった。
そしてオーダはそんなカムラの言葉に苦笑した。
「そう言うと思っていました。お二人の誘いに、応えようと思います。それが私の答えです」
オーダの答えに迷いは無かった。迷いはとうに捨て去り、カムラへの答えは実に簡潔で、カムラを納得させるに充分であった。
オーダは知っていた。カムラはサキュバス だから、という理由で疑っていない事を。一人の信用し切れない人としてオーダを見ていた事を。それ故オーダはカムラの望む答えを出した。迷いを捨て去った彼女には答えに澱む余分は無い。
「そうか。わかった。…今ラリアは風呂でな。来いオーダ」
***
部屋に戻ったラリアはカムラがいない事に気が付いた。
何処へ行ったのか、と手元のタオルをベッドに置いて、戸が開く。
「あ、おかえ…来たぁっ!」
「返事は…」
「YESって事ね?違う!?いいえ、そうよ、きっとそうに違いないわ!ようこそ私たち二人のパーティーへ!歓迎するわ!」
オーダを見たラリアは歓喜の余り、オーダの手を強く引き、握り込んだ。
オーダを奥へと引き摺り込む。
「ら、ラリアさん…」
その喜び様にはさしものオーダも顔を赤くし、寧ろその大きな期待に気押される。
「俺からも。よく来てくれたオーダ。ありがとう。感謝しかない。こんな俺たちだが五年間の経験を是非活かして欲しい。差し当たっては…」
「待ってカムラ。それは明日でもいいでしょ?今日する話じゃなし、焦る事も無いじゃない。先ずはオーダの歓迎会といかなくちゃ。この部屋に新しく住む人が来る旨を伝えるから。オーダも来て。話さないと」
「ええ。そうですね。その通りです」
「…いや、俺はまた待ち惚けかいな」
「そうよ?当たり前じゃない。はい、ここで待ってる事。いいわね?」
「ま、動かなくていいなんて都合のいい話なかなか無いしな。遠慮なくゆっくりさせて貰うわ」
カムラはそう言って手元に隠していた短剣を仕舞う。
「え?何でそれ持ってんの?」
「最初に入って来た時何者か分からなくてな。もし敵だったら、と考えてしまった」
「人間が敵になる訳無いじゃん!」
「んまぁそうなんだが」
そしてラリアはオーダと共に一階に向かった。
イニシュラの職員に事情を話す。
「…という訳で、新しくオーダって人を部屋に入れたくてね」
「ん…サキュバス…ですか?…同居者様の迷惑にならないよう…当イニシュラではご遠慮頂きたく…」
「サキュバスだからって関係ないでしょそんな事」
「んー。カムラさんは今どちらに?」
「部屋」
「お呼び頂けるとありがたいのですが」
ラリアは結局、カムラを呼び出した。カムラの顔は引き攣っており、ありありと嫌がる顔を見せていた。然しラリアとしてもここでカムラを呼ばなくては話が始まらないというものでもあった。
「で?何用?」
「あ、私の方からご説明させてください。新しく同居の方なのですが、サキュバスですよ…ね?」
「んまぁ」
「その、迷惑に思われる方もいらっしゃるという話を」
「迷惑ですか?…あー、すいません。その、何故迷惑、だと?」
「そう言うイメージといいますか」
カムラは咳払いをした。
「いや、すまん。てか、ラリアはこの為に俺を呼んだな?」
「こういうのはカムラ昔っから得意じゃん?」
「すいません、あの、質問というのは…」
「はいはい、話す話す」
カムラは話方を変える。態度が変わったのは誰にもわかった。
「どう、迷惑になるか聞きたいんだが。是非教示して欲しいね。どう迷惑なの?」
「いや、ですからイメージと言いますか…」
「…は?イメージ?ごめん、何を言ってるのかわからないんだわ。何故拒否されるのか、具体的な事聞きたいんだが」
「その、人間関係でしたり」
「人間関係?何で他が関係あんだよ。そういうのはな、例えば、そうだな…反社会的、とか?犯罪者、とか?そういうんだぜ。他にも聖教徒じゃない、とか。だけどアイツは十字持ってる。聖教徒。その上、カトリック以外禁制ならまだしもこの国はプロテスタントだし?まだある、聖教徒以外禁制なら肉が出せない。でも肉食えるな、それもデカいのが。実に美味いな、敬虔な聖教徒なら食えんし、そもそも出せん。その上、ギルドの規定に特定の人種又は宗教の制限は無かった筈なんだが…さて、ここまで言って…まだ何か」
「い、いえ、こちらの手違いでし…」
「手違い!?笑わせる」
カムラはカウンターの台を強く叩いた。職員は動揺を見せる。
「明確に私情によって拒否した。そう言え」
「…も、申し訳ございませんでした!」
イニシュラの職員は下がっていった。怯え乍ら資料室へ向かう姿はカムラには実に滑稽に見えた。
「さっすがカムラ!頼りになるぅ!」
「…私としては、更にややこしくなったような…」
「そんな事はわかってる。だけどな。仲間は仲間だ。それを見捨てる事は俺の矜持に反する話だ。実を言えば今の俺にも完全ではないが…然しそれは己を裏切る理由にもならない。筋を通して初めて人間だ」
「なる…ほど」
「わかったなら結構。で、ラリア。俺は部屋に戻っても?」
カムラはラリアに向き直って聞いた。ラリアは人差し指を上に立てる。
「んじゃ終わったらぼちぼち戻ってこいよ?」
カムラは部屋に戻っていった。ラリアの顔はオーダにも満足気に見えた。
オーダがこうして住めるのは祭政一致は之悪し、とアイヴァースの法のお陰かもしれなかった。何分、住めぬかもしれないからである。
「で、では、こちらにサインを」
オーダはペンを手に取ってサインをする。
「ありがとうございます…では、えーと、今晩はオーダ=フォン=マイヤー様の食事をご用意させて頂きます…」
「そんな怖がらないでください。本当ですよ?」
カムラの態度は魚心あれば水心、そんなものである。それ故にオーダは暗にそれを示したのだが、職員にとってはそれは更なる恐怖を植えつけた。
オーダも何となくそれ茫乎に感じ取り、それ以上話を広げる事もまた無かった。サインし終え、職員はそれを奥へと持っていく。職員の震えは決して不当ならざるものであった。オーダも理解し、そして恐れられるのは慣れた経験ではあった。然し殊今回に至っては寧ろ巻き込まれたとすら思えた。無論自分の人種が原因ではあるが。
「どう?オーダ。書き終わった感じ?」
「え、えぇ。そうですね」
「そ?良かった」
ラリアは返事を聞いてまた朗らかに笑顔を見せた。
前のパーティーも初めはこうであった。然しサキュバスであると明かしてからの対応を考えれば新鮮さがあった。まだ正解を選んだと判断は出来なかった。ただ今のところは彼女にとって何一つ間違いは選んでいないのだと確認出来たのは幸いな事であった。
***
夜、三人は一つ夕食を食べた後、彼女から過去に関して様々な事を知る事が出来た。ただ出自やその他、意味もない事を聞く彼等を見て、オーダは新たに知る事が出来た。
「お二人は私の力を聞かないのですね」
「力?」
「何それ」
知らなかったのである。オーダ、否サキュバス、インキュバス特有のその能力を。いや、知らなかった、とだけ言えば語弊があった。知ってはいたが、御伽噺と断じていた。
オーダは迷った、その話をするべきなのか、隠し通すか。然しその僅かに漏らしてしまった言葉のミスを見逃す程カムラは甘くなかった。
「何で黙る?オーダの能力って何だ?魅了ってところだろうが…成程、使えるんだな?」
今のカムラに遠慮は無かった。初対面では無く、尚且つ今後に関わると考える彼にその言葉を押し込める理由は無かった。容赦なく問い詰めるだけの関係があると踏んでいた。
「…完全支配魔法、というものがあります。魔法の中でも特異で…難しい。私はそれが扱えるのです。それ即ち、私の魔法そのもの。サキュバスやインキュバスが生まれ持って操れる魔法」
「知らない…そんなの。でも私でも使えるのかな?」
「訓練次第では。精密な魔力操作が求められますが、完全支配魔法はその操作の応用として魔力を適切に操り、高度な魔力操作を可能とします。サキュバスやインキュバスが魔法に長けるのはその為です」
カムラは成程、と頭を顰める。そしてその名称から如何なる魔法か何となく察する事も容易だった。
「……そりゃ周りは怖がる、か」
カムラの呟きにオーダは身体をビクりと震わせた。
「あー待て待て。疑わないさ。だから安心してほしいオーダ」
「あ、え、あ、す、すいません…」
「ただな。きっと俺らには使ってないだろ?」
「……そんな事言われるのは初めてです」
「予想だよ。だってオーダが俺に使ったって何の特にもならない」
「昨日、貴方方は私を助けました、それは私の…」
「それは無い」
カムラは言い切った。
「多分そんな余裕無い筈だ。……あぁ、成程、だからあの時立ち止まったのか」
「それは……」
「責める事じゃない。ただ間に合わない、と思ったら逃げて欲しかったな。なぁ?ラリア」
「え、私?いや二人が何の話をしてるやら…。でもうん、確かに顔を知る人が死んでたら不快かも」
「てな訳だ」
カムラの言葉は正しく聞こえた。然しカムラもまた、決して他人の事は言えないのではあるが。
「辛気臭い話はここらで切り上げようよ!初日はパーっと行きたいし」
カムラは頭を掻き、そうだな、と追求する事を辞めた。
その後カムラが浴場へ向かった為、再びラリアとオーダは二人きりとなった。
「お二人のお話も聞きたいですね」
「どんな?」
「いつから一緒、とか」
ラリアは僅かに考え、直ぐに向き直った。
「…一年前かな」
オーダはその答えに驚く。二人の掛け合いからすればまるで十年も長く付き合った関係の様に見えたからだ。
「なんと!そんな最近なのですか?」
「さいき…最近、なのかなぁ?」
「どう知り合われたのですか?」
ラリアはその質問には瞬時に答えた。
「カムラがね、倒れてたの。ボロボロでね、どっちかっていうと虫の息、みたいな。武器も折れてて。ほっといたらモンスター来るし、可哀想だし。それで家の中に入れたの」
「成程…そんな出会いで…。カムラさんは以前は何を?」
「木材売ってた。よくお客さんも来てたよ。お客さんともよく話してたし。最初はそんなだったけど、段々上手くなってたね」
オーダは頷き乍らカムラの私物であろう背嚢を見る。筆記用具やノート、財布が雑然と入れられていた。
「これは…?」
「あ、ダメだよオーダ。それは開いちゃ」
「日誌…?」
「カムラね、それを触ろうとするとものすっごい顰めっ面するの。で、怒る。だから止めといた方がいいよ」
オーダは手に持った日誌がどうも気になったが、然しカムラが自分の真実に踏み込まなかった手前、自分がその奥に踏み込むのを恐れた。
無論納得はしなかった。自分は話したのに、彼は話さないのか、と憤りもあった。だがもう一つに、自分はボロを出してしまったが、彼は決して、彼の口から己の過去は話さなかった。それ故、やはり見る気にはならなかったのである。
***
その次の日はカムラ一人行ってみたかったところがあると出掛けてしまった為、オーダとラリアは仕方なく、その日はオーダに連れられラリアは喫茶店や紅茶を買った。どれもこれもラリアは初めて見るものであった。何より都市部ではこの様な紅茶は既に当たり前になりつつあるというのだ。ラリアはロンディニアへの憧憬をより一層強める日となった。
カムラが帰宅した時、その手にはトルンガから受け取った装備が提げられていた。
読んで頂きありがとうございます。
やっと十話まで来ました。区切りにはまだまだ遠いですが、これからも頑張りますので応援宜しくお願いします。




