冒険の翌日Ⅱ
お久しぶりです。帰ってきました。第九話です。
二人が店から出た。軽鎧も買おうと足を踏み出す。その時、道沿いが騒がしいのが感じ取れた。人集りもでき、しかしその姿を二人はハッキリと見る事が出来ない。
ラリアはカムラに、そこで待て、とだけ言われ、カムラが奥へ割って入っていくその姿を見届ける他なかった。
カムラが群衆を掻き分けていく。途中観衆だろう者達の歓声が響き渡り、それは彼の耳を強く叩かんばかりである。して、その先。いたのは一人の男であった。金髪の、整えられた髪型、茶色の目に、ありありと見えるは高慢さか。
「ハミルーっ!」
「また勝った!」
等と周囲は口々に叫んだ。持っていたのは木製の長剣。器用に片手で回すと納刀の真似をし、格好を付けていた。
倒れている男が一人。しかしそれも大男。明らかな棍棒を倒れ伏して尚、離していないが、然し負けた事実は変わらない。誰しも注目の目を向けるのはハミル、と呼ばれたいかにもな青年であった。
「あれ、もう私と戦う人はいないのかな?今日は張り切ったのに、何だかつまらないな」
まだ余裕を見せるハミルは周囲を見回すと、カムラに目を向けた。
包帯を巻き、そして周囲の賞賛に同調せず、寧ろその光景に呆気に取られた顔をするカムラ。そんな顔にハミルは近づく。
「君、今の驚かなかったのかな?」
カムラは何か話だし、それも自分の近くを見たのだと考え足を後ろにするが、ハミルは再度呼び止めた。
「おいおい、この私を前に逃げるなんて…珍しい君。…あぁ、こう言おうか。そこの黒髪で、手に包帯を巻いた…東洋の男」
カムラはその目線が自身に来るものだと気付く。
カムラの前に立っていた民衆はゾロゾロと横に広がり、カムラとハミルの間には空間が生まれた。
「あーいや、すいません。その、ついさっき見たもので。何か…ありました?」
「そうかい、そうだったのか。いや私もすまない。なら君は私の華麗な手捌きを見る事が出来なかったのか。何て不幸だ」
「でも、何となくは分かります。その男性と決闘して…倒した」
「そうとも」
ハミルは自慢げな表情と共に頷く。カムラは完全な事態の把握に手間取りつつも、目を丸くして、静か乍らに称賛の構えを取った。本心では何もわからない為に彼の凄さ等評し得る筈も無かった。
そしてハミルもまたそれに気が付く。
「信じてない?」
「あーいえ、まさか。信じますとも」
「私はこう見えても伯爵家の子でね。ニューダンバーさ。私の名はハミル=グレイヴと言う。聞いた事あるだろう?」
ハミルの姓はグレイヴであった。ニューダンバー伯。ストラスクレイド王の臣下。高い地位にある貴族に違いはなかった。
「あー…貴族の…」
その時、背後からカムラの肩を叩く感触があった。
咄嗟に振り返るとそこにはラリアがいた。
「わっ!びっくりした…何してんのカムラ、こんなとこで屯してても…、誰?」
「これはこれは。美しい淑女と君は一緒だったのか」
「私が一緒じゃないわ、彼が一緒なのよ。私が先!間違えないでね!
…っていうか、カムラとこの人知り合い?」
カムラは頭を掻く。知らないのは仕方がない。咎める気にもならなかった。
「今、知り合いになったところ、かな」
ハミルはそう答えた。カムラも頭を縦に振ってその言葉を肯定する。
「申し訳ない。自分どもは用がありますから」
「そうか…もしまたこの様な機会があれば是非とも見に来てくれ給えよ。
嗚呼、その御嬢さん共にね」
「え、えぇ。善処しましょう…」
カムラはそう答えるとラリアの手を取る。足早に去ろうとするカムラの動きを見て、ハミルは呼び止めた。
「約束だカムラ君。私は五日後、ここで決闘を行う。私直々の招待だ」
「…何時です?」
「十時。聞いてくれてありがとう」
「いえ…どうも」
然してカムラはその場を去る事ができた。だがカムラは余計な約束をしてしまったとも言えた。
***
防具店で鎧を見繕う間、ラリアはカムラに聞かざるを得なかった。
「で、あの人何者?」
「貴族だそうな。北部の…ニューダンバー伯。その子息」
「へー。やっぱ貴族もここに来るんだ」
「そんなとこだろうな」
「奴隷とかも連れてるのかな」
貴族と聞き、ラリアは自身の召使いや世話をする従者を空想する。カムラは彼女の顔を見て何となく何を妄想するのか察しがついた。
「可能性は無きにしもあらずってとこだろ。欲しいのか?」
「金持ちの象徴、みたいな?」
「新大陸で良く採れるとも聞くからなぁ」
「次なる夢、ってところかな!?」
「…巻き込まれるのは俺か?」
「当たり前の事聞くのね」
「当たり前でない方が良かった」
カムラは溜息混じりにそう答え、ラリアに鎧を見せる。
「これどうかな」
「いいんじゃない?胸と前腕の装甲、肩も付くし…膝も付くし」
「俺もそう思うんだな」
「……!股関節にはいらないの?」
ラリアの嘲笑する様な顔にカムラは呆れた。
「…くっだらない事言ってんじゃねぇ」
カムラは値札を見た。そこには250デナースと記載されている。素材は鉄製。それも鋼鉄であり、高い強度が期待できた。安く、その上頑丈なこの装備はカムラにとっても即決するに相応しいものであった。
ラリアも何か道具を選別しようとしてはいたものの、いつまで経っても候補も見つからず。
「ね、カムラ。このローブどう?魔法使いっぽくない?」
「実用性は?」
「見た目?」
「実用性は?」
「……」
ラリアは肩を落とした。その後は杖を検討するが、高く。また現状持つ杖でも充分な戦力になる点をカムラに指摘され、更に肩を落とした。
結局ラリアは一つの成果を上げる事も無く撤退した。
「あーあ!もっとこう、魔法使いっ!ってのが欲しいのになぁ」
ラリアの愚痴を聞くカムラであったが、それを真剣には聞いていなかった。
「はぁ?お前は俺より強いじゃないか」
「前衛がいなきゃ意味ないでしょーに」
「だからこのまま魔力を増やす練習をしてくれさえすりゃぁいい」
ラリアはカムラの頭を叩いた。お前が言うのか、とでも口から溢れそうな顔を見せている。
「カムラがファィエルの一つ覚えてくれればいいのに!覚えられないなんてー!」
「ちょ、声がデカい!」
通行人が二人を見て、足早に去っていく。ラリアは目線に気付き再び手をダラリと落とした。
カムラはそんなラリアを見ながらその日やるべきであろう事を告げた。
「つーかオーダのとこには行かなくていいのか?」
「え?オーダ…?」
「そう」
昨日、オーダは、明日どうするかを伝える、などと言っていた。ではその返事は?いつ聞くか?カムラはこの日一日それを気にしていた。
ラリアはそれを聞くも首を振る。
「あの人の拠点知らないもん。それに多分こっち来ると思うし」
「……あぁ。成程。その場合は来ざるを得ない、と評するべきだと思うが」
「どっちでもいいじゃんそんなの」
「つか俺ら昼飯食ったか?」
「食べてないね」
カムラは空を見上げる。太陽はやや落ち気味だった。
「一日三食、か。慣れるまでが面倒そうだ」
「夕飯はいっぱい食べようか」
「そうだな、それが丁度良さそうだ」
カムラはラリアの言に頭を縦に振った。
「んで、来たらどうすんだ。もし未定なら俺がやりたい様にさせて欲しいが」
「あー。それもありだけど。ブーツが回収できるまで待たない?その後の方がいいでしょ」
「それもまぁ」
結局、カムラの構想していた明日の洞窟探索はお蔵入りとなってしまった。それも仕方のない話ではあった。
ラリアとしてはカムラの傷の治癒が未だ完全ではないと判断していた。それ故にブーツの回収という理由を以てカムラにもう一日の休暇を与えたかったのである。
***
宿舎を引き払い、一人喫茶店で過ごす。やっと全て終わったとオーダは落ち着いた。
宿舎内にあった仲間の私物はギルドが回収する手筈であった。彼女を初めて受け入れてくれたパーティーであった。無論彼女の出自故、仲間と完全な協調があった断言するには弱く、されど彼女にとって初めてにして唯一のパーティーだったのである。
荷物を見る時、初めて彼女は仲間に向けて涙を流した。自分にではなく。仲間に。親族ではなく、血の繋がらない仲間に対して、である。彼女は最初から気持ちの整理等出来ていなかった。あの二人にこそ、その表情を見せなかった、いや。見せられなかった。自身は今何を思うのか。その本心を知る為に誘いさえ断った。
オーダはそうしていれなくなった宿舎を去り、喫茶店に入った訳であった。涙も枯れる。あの絶望等やはり己には軽いものなのかと自責し乍らもある種の諦観さえ孕んでいた。
「…一緒にならないか…ですか」
カムラと言っただろうか。あの子はどうか。あのパーティーの様に私を避けるだろうか?自問自答は止まらなかった。パーティーに恩はある。それは彼女にとって当然であった。あの二人と共に再びパーティーを組むのだろうか。実利で語れば更にあった。一人で探索は自殺行為。五年冒険者としての経験を積んだ自分が最も知る事実。然し純粋な彼等にそれを望むのか。
(いや、違う。私はそもそも何故冒険者を望んだんだ。こんな事を考える為か)
オーダには初対面からカムラは彼女を忖度した。オーダにサキュバスらしさを求めなかった。
オーダもまた、二人にそれを望むべきでは無いのやも知れぬ。であれば選択肢は彼女に残された選択肢とは何を言うか。それは一つに絞られやしまいか。
彼等の元へ。それが彼女の下す決断であった。
硬貨を四枚支払うと席を立つ。日も落ち始める空、やっと決意が固まった己を彼女は恥じていた。
***
カムラ達は拠点に帰ってきた。ラリアが昨日入らなかったから、と風呂へと向かい、カムラは書かなかった分を含めて日誌を綴っていた。
ラリアは浴場へと向かうも、浴場には人一人と居らず、広い浴場で身体を洗い、湯に浸かっていた。広い浴場にたった一人いるラリアはその思考を巡らせる。
「オーダ来るかなぁ。カムラにはああは言ったけど。来るかどうかなんてあの人次第だし?根拠なんか無いし…。いやあるけど」
独り言は一人故に許された思考の整理であった。
「でも…多分来るよ。私に出来るのは信頼だけ。カムラに出来たのにオーダに出来ないなんてありえないよ。うん。そうだ。きっと」
ラリアはそうして自身に結論を付けた。満足したラリアは湯から抜ける。
その頃、部屋に居たカムラであったが、その戸を叩く音が聞こえた。筆を止めるが、カムラに違和感を覚えさせた。短剣を袖に隠し、戸を開ける。そこに居たのは、ヴェストイニシュラの職員であった。
カムラは警戒は解かず、質問する。
「…どうしました?」
「あ、はい。その、カムラさんに会わせて欲しいという方が」
「名前は聞きました?」
「オーダ、と」
カムラは半信半疑で階を降りていく。そして。
「返事をしに、来ました」
オーダが居た。返事をしに来たのだ。
読んで頂きありがとうございました。
帰って、書き終えました。第十話は明日中には投稿したく思います。




