4-4 八百万亭、宿になる
翌日から、八百万亭の帳場には新しい札が増えた。
最初に置かれたのは、もちろんこれだった。
『冒険者再起動プラン』
疲労回復風呂。
装備乾燥結界。
快眠客室。
朝食保温。
出発前の足腰軽量化。
弁当つき。
コハルが最初に作った、八百万亭の看板商品である。
だが、札はそれだけでは終わらなかった。
その横に、少し小さな札が並ぶ。
『商人様向け・荷物保護客室』
『ご年配向け・足腰やすらぎ風呂』
『夜勤明けギルド職員様向け・快眠半日プラン』
字は、やはり少し曲がっていた。
だが、前より読みやすくなっている。アルトが値段だけは書き直したからだ。
コハルは帳場の前で腕を組み、満足そうに札を眺めていた。
「宿っぽいです」
「宿だろ」
「宿っぽい宿になってきました」
その言い方は、少しだけ照れくさそうだった。
アルトは札を見た。
「商人向け、というのは」
「荷物です」
コハルは即答した。
「商人さんは、自分より荷物を心配します。雨に濡れないか、盗まれないか、魔力品が傷まないか。だから、荷物を安心して置ける部屋があれば泊まってくれます」
「なるほど」
「ご年配のお客様は、湯がいいだけじゃなくて、浴場までの移動や、湯上がりの足元が心配です。だから、足腰やすらぎ風呂と、滑りにくい廊下です」
「それはもうある」
「名前がつくと商品になります」
「危険な才能だな」
コハルは少し笑い、それから次の札を指さした。
「夜勤明けギルド職員様向けは、ミナさんのためです」
「個人名を出すな」
「出しません。でも、絶対に需要があります。夜勤で書類を処理して、肩がこって、眠れないまま昼に帰る人たちです。半日だけでも、深く眠れたら助かると思います」
アルトは少し感心した。
コハルは帳簿には弱い。値段を間違える。支出欄に「なんとかする」と書く。牛乳の本数も間違える。
だが、客の顔を見る。
何に困っているのかを見ている。
ジンの疲れ。
ミナの肩。
商人の荷物。
老人の足元。
冒険者の靴の湿り。
それらは数字にはならない。
だが、宿の仕事はそこにあった。
「じゃあ、俺は何をすればいい」
アルトが聞くと、コハルは待ってましたという顔をした。
帳場の下から、別の紙を出す。
そこには、客ごとの希望と、それに対応する結界が書かれていた。
商人。荷物保護。盗難防止。湿度調整。衝撃緩和。
老人。廊下滑り止め。浴場温度やや低め。湯上がり保温。
ギルド職員。遮音。肩こり緩和。短時間深眠。
冒険者。疲労回復。装備乾燥。足腰軽量化。弁当保温。
アルトは紙を見た。
「仕事が増えている」
「宿も育




