今さら気づいたの
たまらず、蒼は、隣で水を飲んでいるくらに訊いた。
「……ねえ。あのじいさんたち、何してんの」
「ん? ああ」
くらは、屋台のほうをちらりと見て、なんでもないように言った。
「仕事してんだよ。あれで」
「仕事」
「豊穣神。食いもん関係の」
蒼は、もう一度、じいさんたちを見た。ちっちゃくて、ころころして、ほっぺを真っ赤にして、にこにこと生ビールを飲んでいる。どこからどう見ても、神様には見えなかった。
「……神様、だったんですか」
言ってから、自分でも間抜けな質問だと思った。くらが、心底おかしそうに笑う。
「今さら気づいたの? お前、何ヶ月あの人らと飲んでんだよ」
「いや、ただのじいさんかと……」
「ただのじいさんが、祭りのたびに上野中の屋台を見回ると思う?」
言われてみれば、その通りだった。
玉藻前が、横から缶チューハイ片手に補足する。
「あの人たち、各地の神社の、豊穣の神様なのよ。五條天神社の、湯島天満宮の、根津神社の、神田明神の。神社の名前で呼び合ってるの、そういうこと」
「じゃあ、ひとりひとり、別の」
「そう。豊穣の神様なんて、全国にわらわらいるの。あちこちの神社に、ちょっとずつ分かれてね。あの四人は、たまたま上野が縄張りで、仲がいいだけ」
分かれている、という感覚は、蒼にはうまく掴めなかった。ひとつの大きな神様がいるのではなく、豊穣という働きが、そこらじゅうの神社に、薄く広く散らばっている。その一部が、目の前で、ほっぺを赤くして焼き鳥を食べている。考えはじめると、頭がくらくらした。
「で、あの人らの仕事が、食いもんなんだよ」と、くらが続ける。「食中毒とか、腹下すやつとか。傷んだ食材を、ああやって自分で食って、なかったことにする。神様だから、何食っても腹壊さないしな。店の油だの手洗いだの、口出しして回るのも、全部その一環」
蒼は、ようやく、腑に落ちた。
さっきの「金は払うぞ」も、「油を変えんさい」も、「手はちゃんと洗っとるか」も、全部、仕事だった。にこにこ笑って、ぽろっと一言いうだけで、屋台の事故を、未然に消して回っている。店の人間が素直に従うのも、たぶん、神様の言葉だからだ。本人たちが、それを名乗らないだけで。
ふと、根津神社、と呼ばれていたじいさんが、こちらを見て、にっこり笑った。それから、蒼とくらを順番に見て、何か言いたげに、ひとつうなずく。
「根津さんは、縁結びの神様だからね」と、玉藻前が小声で言った。「人の縁を、よく見てるのよ」
何のことか、蒼にはわからなかった。けれど、なんとなく、見透かされたような気がして、缶ビールに口をつけた。じいさんは、ただ、にこにこと笑っていた。




