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第43話 不敬だよな

 眠れなかった。


 ルーチェの言葉が、頭の中でまだ動いていた。前世で使えていた大蛇(オロチ)シリーズは基本使えない。宰相(さいしょう)との因縁。裏ミッション。そのために前世の力の一部を解除。情報が多すぎた。整理しようとするたびに、別の何かが引っかかる。

 アルドは天井を見ていた。


 そのとき——感じた。

 気配。一つではない。複数だ。廊下。屋根。窓の外。包囲している。

(来たか……!)

 思ったより早い。が、ルーチェの言っていた通りだった。


 アルドは静かに起き上がった。

 隣室で、かすかに物音がした。シャルも気づいている。



 扉が開いた。音もなく、二人が入ってきた。

 暗い。ただ、慣れた目には輪郭(りんかく)が見える。刃物を構えている。動きに無駄がない。非常に訓練された人間だ。

 アルドは動かなかった。


 (ふところ)から、短剣を取り出した。王家の紋章(もんしょう)が入っている。それを、静かに二人に見せた。

「俺たちがエリシア王女殿下の命に従って動いている代行者と知っての狼藉(ろうぜき)か?」

 二人が止まった。一瞬だけ。それから、また構えた。

 無言だった。


(……引くわけないか)

 アルドは短剣をしまった。

「来いよ」



 一人が踏み込んできた。速い。ただ——

 絶対交渉権を走らせた。

(殺す気だ。迷いがない。ただ——怖い。体が怖がっている。プロだが、「本物」ではない)

 アルドは一歩だけ横にずれた。相手の勢いに乗せて、腕を取った。そのまま流した。


 男が壁に叩きつけられた。

 投げた、というより——転んだように見えた。男自身が一番驚いているような顔だった。

 もう一人が間合いを詰めてきた。アルドは受け流した。腕を取って、床に転がした。こちらも同じだった。投げた感触がない。ただ転んだ。

 隣室から剣戟(けんげき)の音がした。シャルが応戦している。



 廊下から、もう一人が入ってきた。

 距離を取っている。賢い。合気道は間合いが必要だとわかっているのか、それとも本能か。刃物を構えたまま、じりじりと動いた。


 アルドは静かに息を整えた。

 腰が何か言ってきたが、アルドは無視した。

 踏み込んだ。短い一歩。右の掌底を、相手の胸に叩き込んだ。

 空気が、鳴った。


 男が吹っ飛んだ。壁まで届いた。そのまま崩れ落ちた。

 シャルが部屋の入口に立っていた。いつの間にか、来ていた。その目が、アルドを見ていた。

 何も言わなかった。ただ、見ていた。



 残り一人が、窓から逃げようとした。

 アルドは追わなかった。

 シャルが「追わなくていいのか?」と言った。

「ああ。それでいい」

 男が窓から消えた。


(生きて帰れ。お前には仕事がある)

 アルドは静かに息をついた。腰がまた何か言ってきた。今度は少し強めに言ってきた。

「……後にしろ」アルドは独り言のように呟いた。



 部屋が静かになった。

 倒れた刺客(しかく)が三人。全員気を失っている。死んではいない。

「怪我は?」とシャルが言った。

「ない。お前は?」

「ない」

 少し間があった。


 アルドは懐から、短剣を取り出した。王家の紋章が、薄暗い部屋の中でも鈍く光った。

「王女殿下のいる王都で、宰相が刺客を動かした。そして何より……」

 短剣を持ち上げた。

「こちらは王女殿下の代行者と名乗った上での襲撃。ということは……」

 シャルが少し間を置いた。


「……それが証拠になるということか?」

「ああ」アルドは静かに息をついた。


 それから、口の(はし)が少し上がった。

「これは、不敬ふけい……だよな?」

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