F38ホークネイル失踪事件 27-10
10.先行投資になるのか?
「事件の発端と顛末はこれで理解できたと思います」シンシマは最後に言い添えて話を締めくくった。
「軍で戦闘機導入に関して不正が行われていたと言うことですよね?」ミヤガワはシンシマを鋭い目線で見つめていた。
「テストパイロットの意見だけでは、導入の決定打にはなりません」シンシマは平然とした口調で答えていた。「選定の指標にはなるでしょうが」
「あくまで現場の参考意見にしかなりません」ミヤガワは言う。
当然だろう。現場の意見として聞き入れられたとしても、決めるのは軍上層部であり、それを承認するのは行政府の首長であり議会だった。
「だろうね」クロカワも頷いていた。
「ならよかった」シンシマは微笑んでいた。
「まだあるのですか?」クロカワはシンシマの顔を見て訊ねていた。
「あるんですよ」シンシマはほくそ笑んだ。「これがクロカワ課長の出世の役に立てばいいと思いますよ」
「私のですか?」
クロカワは産業博覧会推進課の課長である。
産業博覧会はスタートから成功裏に推移していて観光客を呼び込んでいた。当初の予定よりも人を呼び込めるはずだ。
TDFもそれに絡んでいる。
そうなれば行政府内でもクロカワの名声は高くなる。
産業博覧会が成功裏に終わればその手腕を買われ今よりも要職に抜擢されることは目に見えている。
さらに失踪事件に関する案件を未然に防いでいれば首長の覚えも良くなるはずだった。
シンシマは手にしていたタブレットの画面をクロカワとミヤガワに見せるのである。
「これに関わったとするとミヤガワ課長さんもですかね」シンシマはニヤリと笑い掛けてきた。
「こ、これは事実なのですか?」
「間違いありません」シンシマは頷いていた。
「このデータはお借りしてもいいでしょうか?」ミヤガワは言った。
「問題ないです。クロカワ課長に先に話していました通り、また引き返せる人もいます。行政府側から公表することで痛手も少なくなるでしょう?」シンシマは言う。
「上層部の判断になりますが、銀河保安局の捜査が入ってマスコミにすっぱ抜かれるよりは、我々だけでなく首長に向けられるダメージは少なくなるのでしょう」
クロカワとミヤガワは頷くしかなかった。
「そういうことです」
「よく調べが付きましたね」クロカワは訊ねる。
「うちは優秀なスタッフがいますので」シンシマは笑い掛ける。「覚えていてもらえれば助かります。我々は中立な立場でプログラムやメンテナンスをすることも可能ですのでよろしくお願いします」
「ここまで見せ付けられると依頼したくなってきますね」クロカワは頷く。
「うちの家族もジプコTDFパビリオンに行っていましたが、また行きたいと言っていましたよ」ミヤガワも同意しつつ言っている。
「それは嬉しいですね。頑張った甲斐がありました」
「アリエー・ファムカさんのサインがもらえたら嬉しいですね。長女が喜びます」
あからさまな要求でもあった。
「本人に伝えておきますし、懇意にしていただけるのなら、すぐにでも本人を呼びますよ」
「そこまで無理は」
「それだけできると言うことです」シンシマは真顔だった。「我々は惜しみない協力をいたします」
「そ、それは心強いですね」
「衛星管理部門の部長を呼ばないようにと言った意味が理解出来ました」
「収賄側ですからですね。この件を知ったらもみ消されることも考えました」
「そうですね。部長を含め多くの関係者がミルウェスト社からの接待を受けているようですね」
「端末にデータを転送しますね」
「あ、ありがとうございます」
それを見ながらミヤガワは大きくため息をつくことになる。
部長を通すことなく不正にかかわったものを告発し、これから関わるかもしれない関係者の肩を叩き綱紀粛正をしていかなければならない。それを正しくやり遂げられるかはミヤガワの肩に掛かっていると言ってもいい。
「まあ、これが今回のF38失踪事件の裏側になります」
「ありがとうございます」
「被害を最小限でとどめてくれることを祈っていますよ。余裕を見て銀河保安局への通報は四時間後としますが、よろしいでしょうか?」
「ミヤガワ?」クロカワは考え込んでいるミヤガワを見た。
「迅速に対応すればいいと言うことですか……」
「もう少し時間が必要ですか?」シンシマは訊ねている。
「いえ、何とかします」ミヤガワは頷く。彼は立ち上がるとクロカワに言った。「今日、首長はいたよな?」
「直接行くのか?」
「部長以下の案件だぞ。直接行くしかないだろう?」
「そうなるか。私も行くのか」
「当然だろう。君が持ち込んだ案件だ」
ミヤガワが立ち上がるとクロカワも立ち上がる。
「決まったようですね」シンシマはいう。
「時間はきっちり守って下さいね」
「トラッティン時間で十五時になりすね」
「ありがとうございます」
「後日改めましてお礼に伺わせていただきます」
そう言ってミヤガワはクロカワとともに応接室を出ていくのだった。
「終わったなぁ」
ソファーに背を預けながらシンシマは言う。
「お疲れ様です」
「レイスト。お前も喋れよ」
「シンシマが話をした方がいいと思っていましたので」
「何のためにお前を連れてきたんだよ」
「ただの付き添い」
「まったく。ちゃっかりしてやがる」
それでもシンシマはやり遂げたという顔つきであった。
トラッティン時間十五時に緊急記者会見が行政府から行われた。
内容は失踪したF38の導入に関する収賄に関してである。
衛星管理部門の部長を含め導入に関連していたものが処分の対処になる。部長に至っては懲戒免職になっている。
その影響は軍部にまで及ぶことなる。
今回の件はこれまでトラッティン衛星軌道上に配備された監視衛星の導入に関して関わった者達にも影響が及ぶことになっていて、懲戒免職になったもの多く、大量に処分されている。
メンテナンスに関係していた会社は入札が停止となり、それが銀河系全域に及ぶことになる。
数ケ月後にその会社は倒産にまで追い込まれた。
これもトカゲの尻尾切りのようなものなのだろう。
その他の関連企業もトラッティン行政府の入札からは締め出しに会っていた。
機体導入もミネルヴァ重工製に変更になる。
欠陥を抱えているという不安材料もあってのことだろうと思いたい。
盗み出された機体は見つかることは無かった。
機体を鹵獲した船の遊九会が分からなかったからだ。
その後の銀河保安局の必死の捜査で分解され裏マーケットに部品が一部発見されるにとどまっている。
パイロット、マーク・トワイニンは事件発覚から銀河系時間で半年後に身柄を拘束されている。
発見当時の彼は辺境惑星の開拓集落の一室でゲームをしていたところを逮捕されたと報道されている。
手には旧型のゲーム機が握られ監視のもとに軟禁されていたのだろう。
見る影もない姿であったようだ。
TDFはその後、トラッティン政府から衛星プログラミングのメンテナンスを任せられることになる。
クロカワの口添えがあったという話である。
シンシマはフィオーレとの約束が果たせたと安堵していたと言うことだった。
このことからTDFはトラッティン行政府と太い絆を築くことが出来たとこになるのであった。
営業としては成功だろう。
<27話了 28話へ続く>




