F38ホークネイル失踪事件 27-4
4.始まりの言葉
「シンシマ君、レイスト君、詳しいのねぇ~」
ハリューリはソファーに寝転がりながら拍手している。
その気だるげな表情が色っぽかったので、レイストは生唾を飲む。
「当然ですよ」シンシマは気にした様子もなく胸を張る。
シンシマに欲は無いのだろうか?
「面白いことがあれば何でもかんでもシンシマは首を突っ込みたがるからな」ノルディックは呆れたように言う。
「何でもじゃないよ。気になったことだけだ」当たりえのことのような彼は言い返している。
「そうでなければ身体がもたない」
「もっともなこと言っているが、その範囲が広すぎるんだよ」
「本当に趣味が広いのね~」
のんびりした口調でハリューリは言う。
気だるげに見える笑みからはどんな思いなのか分かりかねたし、今もその表情からは何も読めなかった。
「乗り物や機械関係は何でも好きですし、乗れますね」シンシマは胸を張る。
「戦闘機も乗れるのかしら?」
「操縦はしてみたいけれどシミュレーターだけです。残念ながら。航空機や宇宙船舶は民間系のみですね」
「へえ、そう言うシミュレーターもあるのね。ゲーム?」
「非公認ですれどね」レイストは苦笑していた。
おいそれと軍が公表している訳が無い。
「シンシマはそっちへ行く気は無かったのか?」ノルディックは訊ねてみる。
「ひとつのことにだけ集中したくなかったからね」
「やりたいことが一杯あのね~。レイスト君は?」
「僕は一般車両のみです。航空機までは手を出していませんし、車両関係だってシンシマのように特殊車両や営業目的の免許までは持っていませんよ」
「シンシマ君はそれまで持っているの?」
「はい。お客さん乗せて地上だけでなく宇宙も行けますよ」
「ジプコ辞めても転職先に困らないよな」ノルディックは呆れる。
どこにそんな時間があるのだろうと思ってしまう。
「資格や免許はあるに越したことないぞ。それに普通、普通」
「シンシマを基準にするな」
「本当に好きなのねぇ~」笑みが妖艶になっていくような気がしてくる。「情報通だし、凄いわ」
「それほどでも」
「だったら事件も解決できるんじゃないの~?」
どこまで本気か分からないが、ハリューリはそう二人に言うのであった。
「えっ?」レイストは意外人から意外な言葉が出てきて目を見張る。
「二時間ドラマや推理小説じゃないんだから」シンシマを笑っていた。
「だって、色々と推理していたじゃない?」
「あれは勝手に推測してみただけですよ」レイストは手元の情報から気ままに思ったことをシンシマにぶつけていただけで、推理していたわけではない。
「そうは見えなかったわよね~?」ソファーから身を起こすとハリューリはノルディックに問い掛ける。
「まあシンシマもレイストもニュースからのリソースだけで疑問を投げ合っていただけなんだろうけれど、少ない情報やデータからよくそこまで話が広がったよなと思ったな」
ノルディックは吐息を漏らしながらハリューリに慎重に答えた。
もうすぐ休憩時間が終わるのだろう。
先程までのだらけ切った姿勢ではない。ノルディックは姉を相手にしているような感覚になってしまう。
「でしょう」ハリューリは笑みを浮かべ頷く。「私もそこまで推測できるのなら、シンシマ君は情報を集めるのも得意なんだし、すぐに答えに辿り着くんじゃないかと思ってしまうのね」
「そんなに簡単じゃないですよ」レイストは慌てて否定する。
「レイスト君だって、シンシマ君に負けないくらい話し合っていたじゃない。その知識があれば出来ると私は思うのよね」ハリューリはノルディックに同意を求める。
即座に頷いた彼は有無を言わせぬような感覚にとらわれてしまうのである。何を狙っているのだろう?
「そうですね。シンシマ、レイストのような情報収集能力とデータ分析が出来れば可能かもしれません」
「もしかして期待されちゃっている?」シンシマは本気と取っていないようで茶化して来た。
「僕らは銀河保安局ではないんですよ。捜査権限はありません」
「それでも調べることも推理することもできるでしょう?」
「それは一般人でも事件ニュースから勝手に推測することは出来ますが、それを勝手にSNSで拡散することは違法行為ですよ」
「正しければ問題ありませんよね?」ハリューリはシンシマ、レイストに問い掛ける。
「事実に反していなければ、正統性があれば隠す必要はありません」
「こちらの有用性は示せますよね」
ノルディックからの回答にご満悦なハリューリだった。
「そんなことやって僕らに何の利益があるんですか?」
「トラッティン行政府や軍にTDFが素晴らしい技術と諜報力があると示せますね」
「表彰なんていらないですよ」
「信用が得られますよ」ハリューリはにこりと笑う。
そこには気だるげな表情は無かった。輝かしいほどの営業スマイルがシンシマとレイストに投げ掛けられるのだった。
「消えた機体を見つけて、シンシマ君とレイスト君は恩を売るのよ」
「俺らに益があるようには見ませんよ」シンシマもレイストに同意していた。
「信用です」ハリューリはきっぱりと言う。「それが得られたのなら、営業しなくても向こうから仕事を振ってくれるでしょう」
「そうですか?」レイストは懐疑的だった。
「不祥事が明るみに出ないように解決できたのならなおさらそう見てくれるでしょうし、私が上層部ならTDFを信用してくれますよ。営業がし易くなります」
「仕事が増えるだけのような気がします」レイストはため息をつく。
「TDFにも目標はあるのでしょう?」
「そりゃあ、研究機関ですけれど、それだけ実績を上げなければなりませんからね」
「私の個人的見解から言わせてもらえば」シンシマ。レイストをハリューリは見つめる。「信用を得られれば得られるほど自然と仕事は回ってくるものなのよ。レイスト君にその意識が無いのならその意義を考えるべきね」
TDFは部長のパーンからしても営業意識は皆無と言ってもいい。
それでも部長代理のオガワの話からすると、本社上層部にはその存在意義を示さなければならないようであった。
「そうなんですか?」レイストはノルディックとシンシマを交互に見る。
はっきりとした答えは返ってこなかったが、その辺の目標は存在しているように彼も感じられてくる。
サラリーマンであるのだから会社に損益を与える様なことは出来ないと分かってはいる。
それでも巨大企業の中の一介の社員、肩書があるわけではない。そんな責任が回ってくるとは思わないレイストであった。
「TDFには三年以内に、今だと二年以内に上層部に存在意義を認めさせることになっているらしい」
「聞いていませんよ」
「そりゃあそうだ」シンシマは笑う。ハッハ、ハと腹から声が出ているような笑い方だった。「知っているのは、俺とTDF創設から半年以内に所属しているメンバーしかいないからな」
「何んで言ってくれないんですか?」
「自由気ままにやらせたかったんだろうな」ノルディックは肩を竦める。
「そんなプレッシャー感じたくなかっただろうレイストも」
「そうですねぇ……」レイストはそうなっていたら自分はどう動いただろうかと考えずにはいられなかった。「それで人がいないにもかかわらず無謀にも産業博覧会の参加を受諾したんですか?」
「出来る出来ないはオガワさんの判断だっただろうけれど、それでもフィオーレやシュルドさんもいたし、俺とレイストがTDFに異動させられたんだろうからな」
「ようやく納得がいきました」
「おめでとう」シンシマは素っ気無い。
「私だったら、それをネタに行政府に食い込んでいくわ。それに今もTDFは信用が厚いのですから問題ないでしょうね」
「ハリューリさんならやりそう」シンシマは突っ込む。
「突破口があるのなら、そこから相手をくすぐるのもありですね」ハリューリは自信満々だった。
営業が苦手なレイストにはそれが眩しく映ってしまう。
「でも面白そうかもな」
「シンシマ、何がです?」意味不明だった。
「ロストした機体を見つけるのさ」
「本気ですか?」
「マヂもマヂ」本当に楽しそうだった。「最近ズーっとメンテナンスばかりだったし、たまにコンパニオンに出ても面白くなかったからな」
ストレス解消でもしたいらしい。
コンパニオンをしながら彼女を見つけるとか言っていたり、どこまで本気なのか分からないところがあるのがシンシマだった。
「嘘でしょう? フィオーレがなんていうか……」
「その意義さえ分かればフィーレは黙認してくれるさ」ノルディックは言う。
「それでいいの?」
「それは、気の赴くままさ」シンシマは軽く答えている。
「そうかもしれんな」ノルディックは同意していた。「まあ頑張れ」
「嫌ですよ」
「そういうな」シンシマは笑う。
三人のやり取りを聞いていたハリューリはすっくと立ち上がる。
その姿はショールームでの営業の立ち姿に戻っている。怠惰な姿はどこにもなかった。
「じゃあシンシマ君、レイスト君。よろしくね」
「えっ?」レイストは驚いていた。
「結末を教えて欲しいな」
「結果だけでいいんですか?」
「推理小説からするとラストの答えだけ見ているようなものかもしれませんけれど、複雑な関係性は後から知れればいいな」
どうやら人の醜い面は見たくないらしい。
推理小説やドラマの書く側からするとそれが起点であり、話に深みを与えるところではあるが。
「それは時間がある時に詳しく聴くことにするわ」
「まずは答えを知りたいと」
「そう言うことになりますね。数学で言えば途中を省いて答えだけ書くようなものですが」ハリューリは笑っていた。
さっさと答えが知りたいのだろう。
ニュースは事件が起きたことは教えてくれるが、その結末までは詳しく語られることは少ない。捜査に時間が掛かりすぎるのもあるし、次から次へと事件や事故が惑星上だけでなく銀河系中で起きているからなのかもしれない。
「明日には分かっているのでしょう?」
ハリューリの言葉にノルディックもレイストも驚いてしまう。
これはどんな予測なのだろうと。
「またあとで、お話聞かせてね」
ハリューリは笑顔で休憩室から出ていく。颯爽とした姿であるが、その表情はどこかしら無邪気な笑みであるように感じられた。
「いいんですか?」レイストは慌ててシンシマに訊ねている。
「何とかなるんじゃないのか?」
シンシマの声は素っ気無いようにも聞こえたが、その表情は曇っていなかった。
それを見ていたノルディックは短時間のやり取りで、事件を解決してしまうのではと思ってしまう程だった。
「まあ何とかなるでしょう」屈託なくシンシマは笑っていた。「じゃあ今日の仕事が終わったら答え合わせをしようぜ」
そこで三人も解散となりそれぞれの仕事へと戻っていくのだった。




